第11話 朝+紅茶=書類
今回は別視点になります。
「ふんふんふーん。」
爽やかな朝の陽ざしが差し込む室内で、ボクは優雅に紅茶のポットを温める。
やはり、良い1日は良い紅茶から始まるものだ。
ボクはフーリ。
この街最大手のクラン『誓いの剣』のクランリーダーを務めている、冒険者という名の紳士だ。
「どれ・・・うん!今日もいい出来だ。流石はボクだね。」
そんな風に出来上がった紅茶に舌鼓を打ちながら、ボクは大通りに面した窓を開ける。
「うーん、実に清々しい朝だ。今日も1日頑張ろう、という気になる!!君もそう思わないかい?」
「ええ、そうですね。」
吹き込む朝の風で美男子力が上がったボクの問いかけに応えたのは、副クランリーダーのルータスだ。
いつもは神経質そうに眼鏡の奥で瞳を細めている彼も、この朝の時間だけは穏やかな顔つきをしている。
「さて、リーダー。紅茶で気分一新したところで、決裁書類の処理を始めましょう。」
「まあ、そう急ぐなルータス。僕の右腕よ。まだ飲み始めたばかりで、こんなにもカップが重い。まだ早朝なんだ。もう少し軽くしてからでも遅くはないだろう?」
「・・・そうですね。わかりました。私がある程度、肩代わりを致しましょう。」
「おお!そうか!!それは助かるよ!!」
さすがルータス!!
話の分かる男だ。
書類仕事が得意ではないボクのことを、いつもこうして助けてくれる。
彼には本当に頭が上がらないね。
「・・・しかし、リーダー。」
「ん?どうしたんだい?」
「その紅茶を入れるポット。しっかりと洗浄はしましたか?」
「ああ、無論だとも。このボクが、茶を入れるのに手抜かりがあるとでも?」
「・・・それもそうですね。」
彼がこのように聞いてきたのは、先日あった食中毒騒ぎのせいだろうな。
その騒ぎでクランの幹部・・・まあ、要は結成当初からのボクの仲間たちが軒並み療養を余儀なくされてしまったからね。
厨房担当者の不注意が原因だったらしく、ここしばらくはその処理でボクとルータスはてやわんやさ。
組織が大きくなると、どうしても目が届かない部分ができてしまう。
なんとかしたいものだが・・・。
「では、私も副リーダー室に引っ込みます。」
「ああ、わかった。いろいろ大変だが、お互いに頑張ろう。」
「・・・ええ、そうですね。」
そうして、彼はボクの書類を一部引き受けて、自室へと下がって行った。
更に数分。
紅茶も良い感じに減ってきたことだし、ボクも書類へと取り掛かろうか・・・そう思っていたときだった。
『―――ですかあなたたちは!!』
『そこで止まれ!それ以上は・・・』
『――――――。』
『『ギャアアアアアアア!?』』
建物が揺れる衝撃と共に、そんな悲鳴が外から聞こえてきた。
え?なに、トラブル?また?
「えー、勘弁してくれよ・・・食中毒に続いて今度は何だ??」
また書類増えるのかな・・・なんて考えながら、一応様子を見に行こうとボクは椅子から腰を浮かす。
・・・でも、そんな風に軽く考えていられたのは、次に聞こえてきた声を認識するまでだったんだ。
『よし、進もうか。』
・・・ん?
あれ?なんか・・・聞き覚えのある声なような・・・。
いや、まさかね。
今、開店準備の時間だろうし。
『うふふ。そうですね。』
あれれ?この声も聞き覚えのあるような・・・。
『わあ・・・。』
あ、こっちはない。
やっぱり気のせ・
『こんなことしちゃって、いいんですか店ちょ・・・』
『料理長だからね。』
絶対、気のせいじゃないいいいい!!!!!!
声といい、呼ばせ方といい、確実にあの人だ!?
新人の頃からお世話になっているあの食堂の!!
この街一番の味を誇り、料理だけでなく武力も一流で絶対に逆らってはいけないあの食堂の!!
「料理長が何でウチに殴り込んで来ているんだい!?」
朝の爽やかな空気はどこへやら。
建物内は衝撃と怒号、そして悲鳴が飛び交っているのが明けた窓と入口の扉ごしに聞こえてくる。
こうしちゃいられない!!
ボクは、大慌てで部屋を飛び出したのだった。
「早く・・・早く止めないと!!」
被害で書類が増えるんだってば!!!
次回は5月20日(土)の午前6時に更新予定です。