表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/62

第10話 憤怒+癒し系=突撃

あたしが、地獄の汚物処理をしてグロッキーになったのは昨晩のお話。


ああ・・・爽やかな朝の陽ざしが、なんと心地よい・・・。


そんな具合に、荒んだ心が浄化されたそんな朝。


「おはよう、ルタちゃん。」


「おはようございます、料理長!」


「うん、今日も元気でいいね。」


「はい!!例えたった一人でゲ〇処理をしようと、寝れば元気いっぱいです!!」


「はっはっは!若者は流石だね。さて、行こうか。」


「・・・はい?」


いきなり何?どこへ?


「料理長、ちゃんと順を追って話さないと。ルタちゃんが固まってますよ。」


「あ、ミユキ姉!!」


あたしへの助け舟を出したこの人は、先輩ウェイトレスのミユキさん。


優しくほんわかとした雰囲気の人で、その心身両方の柔らかさであたしを包み込んでくれる素敵なお姉さんだ。


そう、心身両方の柔らかさで!!(一部分をガン見しながら)


「・・・ルタちゃん。懐いてくれるのは嬉しいんだけど、そんなに一点を見つめられると恥ずかしいわ。」


「あ、ごめんなさいミユキ姉。つい・・・。」


「そんなに食い入るように見なくても、ルタちゃんもすぐに大きくなるわよ。」


「本当に!?」


だったらすごく嬉しいな!!


今回のあたし・・・リタの体は同年代の子に比べてスレンダー気味なのだ。


なんか、記憶の奥底にある前世でも豊満ではなかったみたいだし、せっかくなら大人の色気が欲しい。


「ごほん!」


あ。料理長。


「そういえばいたな。」


「声に出てるからね?まあ、そんなことより。」


そうだった。


「昨日、君に掃除をお願いした後、ヤツからいろいろと聞き出したんだけどね・・・どうやら、ヤツは薬を盛られていたみたいなんだよね。」


おや。


「盛られていた・・・ですか?」


「そう。気が付いた彼はそれなりにしっかりと受け答えをしていてね。なんでも、酒に口をつけてからの記憶がないらしい。つまり・・・」


あ、まずい。


「ヤツに薬を盛った下手人は、ウチで出した酒に薬なんて物を盛ったことになるんだよねえ。僕が厳選して、仕入れも工夫してリーズナブルにお出ししているお酒に。」


あーあ、やっぱり逆鱗に触れちゃってるよ。


言葉は後半に行くにしたがって力が入ってるし、青筋も浮かんできてる。


これ、行き先にはカチコミをかける感じかな・・・。


そんな風に思っていたんだけど、この場には我らが癒し系、ミユキ姉がいた。


「あらあら。それは大事ねえ。でも、料理長。だからこそ落ち着かないと。カッカしてたら大切なことを見落としてしまいますよ。下手人、捕まえたいんでしょう?」


「・・・ああ、そうだね。ミユキくんの言う通りだ。いつも君には助けられるよ。」


流石、当店一の癒し枠。


あっという間に店長の怒りを収め・・・


「お気になさらないで。料理長のためなら、わたしはなんだってできるんだから。」


ん?


「ミユキくん・・・。」


「料理長・・・。」


しまったこの2人いい感じなんだったー!!


休息に2人の世界を形成してる!!


甘い!空気がすごく甘いよ!!


「んん!!」


とりあえず、大きめの咳払いで2人を現世に引き戻す。


「お、おっと。」


「あらあら。わたしったらつい・・・。」


恥ずかし気に顔を仰ぐ2人。


ともかく、話を進めないと。


「で、薬を盛った下手人の目星はついてるんですか?」


「ああ。倒れたヤツは冒険者らしくてね。」


冒険者・・・要は何でも屋だ。


ギルドという互助組織に所属し、依頼をこなして生計を立てる職業。


魔物退治だけでなく、遺跡やダンジョンの探索も含まれることから、冒険をする者として“冒険者”と呼ばれている。


昨日の忌々しいゲ〇野郎はその冒険者だったらしい。


それで、冒険者という職業はその内容から1人で行動することは少ない。


つまり・・・


「ヤツと組んでいた人間が怪しいと。」


「そういうことだ。なんでも、臨時で組んだ初めての相手だったらしくてね。本来であればギルドに行って身元を洗うところから始めるんだけど・・・。」


「今回はそうじゃなくて、ある程度の身元がわかっているらしいの。」


冒険者の身元・・・そう聞いて思い浮かぶのはどこか有名なパーティーのメンバーか、もしくはその上である枠組みの“クラン”に所属している人間。


「ヤツに薬を盛った犯人はクラン『誓いの剣』に所属している人間らしいんだ。」


『誓いの剣』・・・ここに来て1週間ちょいのあたしでも聞いたことがある。


確か、この街では最大手と言っていいくらいのクランだったはずだ。


その規模から街への影響力は大きく、一部末端の素行が最近は問題視されているとか。


なるほど、つまりその『誓いの剣』の拠点に行って下手人を絞り込m


「だから、ちょっと『誓いの剣』にお灸を据えに行こうって訳だね。」


ん?


「うふふ。そうですねえ。最近、良い噂も聞きませんし。」


あれ?なんか、雲行きが・・・


「あそこのクランリーダーは駆け出しの頃から知ってるからね。僕の店に手を出すなんて、できないはずなんだけど、手が行き届いてないみたいだからさ。」


「うふふふふ。」


あ、なんか料理長だけじゃなくて、ミユキ姉の後ろにまで黒い怒りのオーラが!?


・・・なるほど、要するに。


「殴り込みですね!!腕が鳴ります!!」


あたしは考えることをやめて、思いっきり暴れることに決めたのだった。


昨日のゲ〇の恨み、晴らさせてもらうぜっ!!


え?自業自得?八つ当たり??


知るかそんなもん!!!


ってな感じに、あたしたちは他の店員たちに仕込みを任せて、クラン『誓いの剣』のクランハウスへと向かうのであった。



次回は5月13日(土)午前6時に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ