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ミッション ❆「君を愛するつもりはない」と告げられた花嫁 ❆

作者: 緑谷めい

 クリスマスイブにお届けします。 

 ( 2022年12月24日 )




「君を愛するつもりはない」



 本当にこんな台詞を初夜に吐く男がいるんだな。

 エンマは驚いた。てっきり恋愛小説の中だけの話だと思っていたのだ。まさか本当に口にする阿呆がいるとは……まぁ、その阿呆は、今日エンマの夫になったばかりの男なのだが。 



 現在18歳のエンマは、裕福なアルーン伯爵家の長女として生まれ、両親と5つ上の兄に可愛がられて育った。何不自由なく、家族の愛に包まれて暮らしてきたエンマ。

 彼女は儚げな雰囲気を持つ清楚美人であった為、学生時代から男性にとても人気があった。もちろん、縁談話も数多く持ち込まれたが、その中から父が選んだのが、今日夫となったオーケソン侯爵家の長男アントンとの縁組だったのである。


 父の気持ちはよくわかる。オーケソン侯爵家はとにかく歴史が古く、由緒ある家柄なのだ。何せ、2800年続くこの王国の建国史の初期から度々家名が登場するのである。それも何度も王家のピンチを救った忠義の名門侯爵家として。エンマの父はこういうのに弱い。途轍もなく弱い。

 いくら羽振りが良くても、アルーン伯爵家は貴族としての歴史が浅い新興貴族なのだ。人は自分に無いモノを求める。建国史に燦然と輝くオーケソンの家名にクラっときた父は、すぐさまエンマの嫁入りを決めた。即決である。

 父はウキウキした表情でこう言った。

「エンマ。お前が男児を産めば、その子はオーケソン侯爵家の次々代当主となる。ワシってば、将来のオーケソン侯爵の外祖父だぞ!! このワシが!! ヌハ、ヌハ、ヌハハハハハ!!」

 名誉欲に塗れた父を、エンマは疎ましく思ったりはしなかった。むしろ人間らしくて安心するではないか。


 だが、肝心のアントンはと言うと、初めての顔合わせの時からエンマの顔をマトモに見ようとすらしなかった。

 おそらくアントンは自分の知らないところで親に勝手に政略結婚を決められてしまったのだろう。それが不服なのだろうなとエンマは少しだけ彼に同情した。アントンはそこそこのイケメンだから、もしかしたら恋人の1人や2人いたのかも知れない。この縁談がまとまったが故にその恋人達と別れるよう当主に命じられたとか? 

 だが、仮にそうだとしても、両家の顔合わせの席で負の感情を表に出すのは貴族としてどうなんだ? 実に大人げない男である。正直、結婚相手として【ハズレ】かも、とエンマは思った。ちなみにアントンはエンマより1つ年上の19歳である。若さ故の不作法という言い逃れは出来ない年齢だ。


 しかし、本人がハズレでも家柄は素晴らしいのだ。

 とにかく結婚してしまえば、こちらのものである。

 エンマは自分の魅力に自信があった。鳴かぬなら色仕掛けで鳴かせてやるよホトトギス。いかにも上位貴族らしい品のある顔立ちのアントンが寝台でどんな鳴き声を聴かせてくれるのか楽しみである。エンマの発想は腹黒鬼畜攻め寄りだった。


 ⦅ナンにせよ、絶対に跡取りとなる男児を産んでみせるわ!⦆

 そうすれば、エンマは未来のオーケソン侯爵の実母となるのだ! 

 ヌハ、ヌハ、ヌハハハハ! 

 エンマは父親と同じ思考回路の人間だった。




 だが、夫となったアントンは予想以上の阿呆だった。

 初夜の寝室で「君を愛するつもりはない」だってさ。貴族の結婚をナンだと思ってんだ?! アンポンタンのアントンめ!

 この話は【月刊貴族夫人】に投稿してやろう。きっと【貴女の側の駄目男実話集】に採用掲載されるに違いない。やったね?!





 話は冒頭に戻る。


「君を愛するつもりはない」


「はぁ……。それは構いませんが、アントン様の子種は頂けるのでしょうか?」

「君を抱くつもりはない」


 子種も貰えないのか……

 この婚姻におけるエンマ最大のミッションは、ずばりオーケソン侯爵家の跡取りを産むことである。

 逆に言えばオーケソン家の正当な血を受け継ぐ男児さえ授かれば良いのだ。

 エンマは頭をフル回転させて思案する。

 そして閃いた。ナイスな案を。

⦅そうだわ! そうしましょう!⦆


「アントン様のお考えは理解致しました。そういう事でしたら、私はこれにて失礼します」

 エンマはアントンに向かってそう言うと、スケスケのエロい夜着のまま、枕を抱えて夫婦の寝室を出て行こうとした。

 慌てたのはアントンだ。

「おいおいおい。そんな格好で枕を抱えて何処に行くつもりだ?」

「お義父様の寝室に」

「?! 早速父上に告げ口をするつもりか!?」

「いえ。お義父様に夜這いをかけに参ります」

 しれっと口にするエンマ。

「はぁぁぁぁぁぁあっっ!?」

 驚愕するアントン。


「それでは行ってきま~す!」

「こらこらこらこら、ちょっと待て!」

「何ですか?」

「『何ですか?』じゃないだろ!? そんな事が許される訳ないだろう?」

「??? お義母様は10年前にお亡くなりになっていますから、お義父様は現在独身でいらっしゃいますよね?」

「そこじゃないだろ!? 私の父だぞ!」

「お義父様はまだ38歳の男盛りではありませんか。ダイジョーブ、ダイジョーブ。イケるイケる」

 そう言って部屋を出て行こうとするエンマを何故か羽交い締めにして必死に止めるアントン。驚いて暴れるエンマ。

「アントン様? ちょっ、何のマネです!? 放してくださいませ!」

「君を父上の寝室に行かせる訳にはいかん!」


 えっ? 

 という事は、つまり……


「義弟となったヨナタン君に夜這いをかけろと?」

「何故そうなる!? ヨナタンは未成年だ!」 

 悲鳴のような声を上げるアントン。

「でも、ヨナタン君は14歳ですから、もう精通しているでしょう? ダイジョーブ、ダイジョーブ。イケるイケる」


 オーケソン侯爵家には男が3人いる。というか、男しかいない。

 まず、当主のステーン・オーケソン。38歳。アントンの父親である。10年前に妻を亡くして以来、独身を貫いている。素敵なイケオジ♡

 そして長男のアントン・オーケソン。19歳。こいつがエンマの夫。

 更に次男のヨナタン・オーケソン。14歳。アントンの弟で可愛いらしい顔をしている。将来が楽しみ♡


 この3人の男の血を引く男児なら、誰の子であっても、オーケソン家の跡取りとなる資格があるはずだ。

 エンマは自身の柔軟な思考に酔い痴れた。


「私は何としてもこの家の跡取りを産むのです! アントン様! 止めないでくださいませ!」

 そう叫びながら、アントンの手を振り解こうとするエンマ。そのエンマをとにかく押さえ込もうとするアントン。

「バカ! 止めろ! 夜這いなんて許さんぞ!」

「放せって言ってるでしょ! このアンポンタンアントン!」

「君は私の妻だろうが!?」

「知らねぇよ! このすっとこどっこいが!」



 エンマとアントンの仁義なき攻防が始まった。

 新婚初夜の夫婦の寝室にて。










 終わり

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