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悪いこと思いついたわ

セレナが目覚めて一週間後。

王様は脅威の回復力を見せて無事王宮に戻り、現在は王妃様と二人仲良く間近に迫ったお祭りの準備を進めている。


当然、忙しくなるので狩りはおやすみ。王の足としても仕事がほとんどないわけで。

その代わりに、僕達は───本当にいつの間にか───祭りを取り仕切る代表者となったルードと王様の間で交わされる企画書や請求書等のやりとりや、サイモンへの指示と報告の文書を運ぶ王様専属の郵便屋さんの仕事をしている……ちなみに僕たちと言うのは僕とセレナの二人でという意味であり。


密書でも機密文書でもない郵便の仕事を僕とセレナに頼むということはつまり……。


「なんだか、王様に気を遣われちゃったみたいだね」


「まったく。部下に気をつかって自分の護衛を薄くするなんて、一国の主にあるまじき名君ぶりね。あの王様、全世界の統治者にでもした方がいいのではないかしら?」


「……貶してるようで随分な大絶賛をしたね、セレナ」


ひねくれているのか、それとも素直なのか、王様の計らいに対してよく分からない褒め方をするセレナに苦笑を漏らしながら、僕はセレナと一緒に騒がしい街を歩く。


今日の仕事は、町外れでパレードの準備の現場指揮をとっているサイモンに王様からの書状を届けると言う簡単なもので、仕事を終えた僕らは遠回りにはなるが、祭りの準備で賑わう大通りに寄ってから帰ることにした。


まぁ、なんというかちょっとしたデート気分を味わおうという魂胆である。


「それにしても、祭りが近いとはいえすごい賑わいね」


「そうだねぇ。お祭りってさ、準備しているところを見るのも楽しいよね」


「そうね……あ、でも勘違いしないでよねフリーク。別に私は、貴方と一緒ならどこでも楽しいんだからね‼︎」


「……なんだか口調おかしくない?」


今まで色々と隠し事をしてきた反動だろか、セレナは少し……いや大分はしゃいでいる。


「そんなことないわ。私いつもこう言う感じよ?ほら、試しにそこを歩いているダストでも締め上げて同意を求めようかしら?」


「可哀想だからやめてあげて……」


「残念ね。無実を証明するチャンスだったのに」


残念そうに口を尖らせるセレナに、僕は苦笑を漏らして次のくだらない会話を続ける。

話題は泉のように尽きる事なく、ただただこんな時間が続くようにと祈りながら、僕はセレナと大通りを歩いていく。


と。


「そういえばフリーク……最近あの極悪商人のところによく顔を出しているみたいだけれども、何かあったのかしら? もし弱みとかを握られているなら、私が暗殺……」


「握られてないから安心して……」


「そう、残念ね」


セレナはつまらなそうに舌打ちをした。


「ルードの所に顔をだしてるのは、セレナの病気についてと、ボレアスの事について調べて貰ってるんだ」


「私の病気はともかく、ボレアスについて?」


「うん……少し気になることがあってね」


「というと?」


首を傾げるセレナに対して、僕は先日ルードが気付いた違和感について話した。

暗殺対象である王子の身代わりを僕に頼んだこと。

そのせいで王の暗殺を失敗していること。

王様と王妃様の暗殺を、セレナの部屋の隣で行ったこと。


それらすべてがまるで、暗殺にわざと失敗したのではないかと感じたこと。

そのことを余すことなくセレナに話すと。


セレナは少しだけ難しい顔をした。


「確かにね……王子の件は、子供好きなあいつが王子を殺したく無かったから、と言うので説明がつくかもしれないわ。だけど王様は別に狩りを王子としかしないわけじゃ無かった……王子を狙いたくないなら、身代わりを立てるのではなく、王様が一人で狩りをしている時を狙えば良いだけだものね……」


「わざわざ顔を変えられる僕を身代わりに立てて襲わせたってことは……見張りがいて監視されていたのかな?」


「……あるいは、依頼主自身が近くにいたのかもしれないわね」


セレナの考えに僕はなるほどと手を打つ。

てっきり依頼主というから遠方にいると考えてしまっていたが、ボレアスの近くに暗殺を依頼した人間がいて、ボレアスの暗殺計画を身近で監視をしていた。

そうであればボレアスが僕に王子様の代わりを依頼したのは納得のいく話だ。


まぁ、そうなるとボレアスは僕が死んでも良いって思ってたという事になるのだけれど。


いや、確かにルードから忠告は受けていて、少しは予想はしていたが。

それでも、ちょっとショックだなぁ。


「はぁ……」


信じていた仲間から死んでもいいなんて思われていた事実に思わずため息がもれる。


「ふ、フリーク……大丈夫?」


「何とかね……それよりも、これだけ依頼主が絞れたなら、メルトラに早速教えてあげようよ。捜査に進展がなくて苛立ってるって騎士団の人が言ってたし」


「……たしかに───」


「そうね」と言いかけてセレナは一瞬何かを考え込んだ後。


「いや、やっぱりこのことは直接本人に問いただしましょうフリーク」


セレナはそう決定をした。


その笑顔は、「とても悪いことを思いついたわ」と口ほどに物を言っていた。



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