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再会

「本当、大袈裟なんですからボレアスは。 君たちの働きのおかげで、魔王復活の可能性は大きく後退して、魔王軍の残党もほぼ壊滅状態だっていうのに何を心配してるんですか?」


「はぁ……いつだって人間の最後の敵は人間なんですよ殿下。あんたに万が一のことがあったら俺たち全員の首が胴から離れちまいやがるんでね、騎士団の権限であんたにはここでオークションを見てもらいます」


「そしたら僕がオークションに参加できないではありませんか‼︎」


「あんたのお小遣いで買えるような金額にゃなりませんから安心してください。ばれてんですよ、金の使いすぎで陛下からお小遣い減額されてんの……これ以上駄々をこねるなら、このまま王城まで連れて帰りますが? 俺としてはそっちの方が楽なんですがね」


「ぐ、わ……わかりましたよ。言うこと聞きますから……」


「それでよろしい。 私と、ここにいるルーディバイスの二人で殿下の護衛をしますんで。 大人しくしてるんですよ? ほら、挨拶して」


「……よ、よろしく、お願いします」


しばらくして、呑気な会話をしながらボレアスは王子を連れてきた。


王子様というものを見たのはこれが初めてだった。


印象はどこにでもいる普通の子供でしかなくて。


子供の扱いに長けているボレアスに言いくるめられて、渋々と言った表情で僕たちに挨拶をする。


「まったく、こんな大事な日に子供のお守りとはな……」


「むっ、子供扱いしないでいただきたい。僕はもう今年で15歳、王座に座る権利がある大人になるんです!︎ 失礼ですよ、商人風情が‼︎」


「っくそ、おまけにクソ生意気な反抗期真っ盛りと来たもんだ。 おいボレアス、報酬はきっちりはずんで貰うからな‼︎」


「だ、誰がクソ生意気ですか誰が‼︎」


自分よりも半分くらいの年齢である少年に全く引けを取らずに言い争うルード。

喧嘩するほど仲がいいとはいうが、何となく二人の様子をみて大丈夫そうだと安心しながらも、僕はボレアスに渡された衣服と顔を隠すフードを上から羽織る。


「はいはい、ちゃーんと覚えておきますから安心してくださいよ。 さて、と。それじゃフリーク、セレナんところまでエスコートしてやりますから。 うまくやってくださいよ? この計画立てるの、結構大変だったんですから」


ぼそりと耳元で呟くボレアスに、僕は思わずキョトンとした表情を作ってしまう。


「え、大変だったって……もしかして」


「セレナには替え玉を用意した、としか言ってねーんでね。お前が来るなんてこれっぽっちも思ってやしねーですよ」


ホールに続く階段を降りながら、クスクスとイタズラっぽく笑うボレアス。

随分と楽しそうであるが対して僕は不安が込み上げてくる。


「だ、大丈夫かな。 一応僕、セレナに追放されてるし……怒らないかな?」


「なーに、心配しなさんなって。万が一怒って斬りかかってくるようだったら、また俺が助けてあげますから。胸はってうちの偏屈リーダーを口説き落として来てください」


「く、くどっ……ぼ、僕は別にそんなんじゃ」


「はいはい……あぁ、一応フードは取らないと思いますが。ルードの旦那からもらった指輪使って、顔だけは王子様にしといてくださいね。替え玉だってバレたら意味がないんで」


ボレアスははさも当然のようにルードからもらった顔弄りの指輪を指さしてそう言った。


「指輪のこと何で知ってるの?」


「昔ミノスもそれと同じ指輪持ってましたからね。特徴的なんでみりゃわかりますよ。というか、背格好が似てるだけって理由じゃ流石に王子の影武者にはなれねーでしょ?」


カラカラと笑いながらそう説明するボレアスに僕は素直に感心する。


「目敏いねぇボレアスは相変わらず……あれ? でも僕、ミノスがこの指輪を持ってたの見たことないんだけれど?」


「そりゃぁね。ミノスと二人セレナとメルトラに隠れて旅籠に行く用に使ってましたから。お前には隠してたんですよ」


「……そんなところ行ってたの二人とも。えっちだなぁ」


「セレナ一筋のあんたにゃ不要なもんでも、俺たち男の子にとっちゃ死活問題なんですよ。だから隠してたんですよ。教えたらすぐセレナに話しちまってたでしょフリークは」


「……確かに……ってあっ、セレナ一筋って、そんなこと……いや、確かにそうだけど……あ、でも‼︎」


にやにやと笑うボレアスの言葉を僕は否定しようとするが、それよりも早くボレアスは僕の背中をバンと叩く。


「はいはい……席はそこの通路真っ直ぐ進んだところ前から6番目だから。 くれぐれもフードは取らないようにね、命狙われてるってこと忘れないようにー」


「ちょ、ボレアス‼︎?」


「じゃあなー」


ひらひらと手を振りながらホールの扉を閉めるボレアス。


周りを見るとそこには身なりの良い服を身に纏った王族や貴族たちであり、何人かが僕のことを値踏みするような表情でみているのがわかり、僕は一つ深呼吸をしてフードを深く被ると、言われた通りセレナの席へと向かった。


心臓が飛び出そうと思うほど緊張する。

彼女と合うのは3年ぶりだ……彼女は僕のことがわかるのだろうか、とか。

嫌な顔とかされないだろうか、とか。

色々な不安が、一歩進むごとに足元から這い上がってくるような感覚がする。



「……いた」


前から6番目の席……通路に面した空席の隣に姿勢よく座る絹のような黒い髪。

後ろ姿だけでそれはセレナだとすぐにわかった。


「落ち着け……大丈夫、大丈夫……」


逃げ出したくなる気持ちを抑えて、駆け出したくなる気持ちも抑えて。

ゆっくりとセレナの席まで到着すると。


「や、やぁ久しぶり、セレナ」


僕はいつものように、できるだけ自然に声をかけた。


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