あの日から動かなくなった時間
初めまして、知川トモヤです。私自身初めての小説投稿ですので拙い文章や読みにくい箇所などあると思いますが、よろしくお願いします。今回の小説は終末論的な都市を題材にしました。投稿頻度は低めだと思いますが、これからよろしくお願いします。
僕は物心がついたころから希望なんてものは感じたことが無かった。僕が二宮悠貴として地元、柏山町に生まれた時は母さんから愛情をいっぱい注がれていたのだろうが、正直覚えていない。父さんは僕が生まれる前に離婚してしまったからいわゆるシングルマザーという感じである。
僕の生まれた4年後に母さんの親友が交通事故で亡くなってからとういもの母さんはこれまでの愛情深い性格はどこへやら、人が変わったように気が狂い始め、僕にひたすら暴力を振るうようになってしまった。最初こそは痛みや苦しみから逃れたいと泣き叫んでいたものの、小学校にあがり始めた頃にはもはや母さんのヒステリックに慣れてしまい、家でも外でも授業で当てられた時以外は一言も喋らない少年となった。
この頃にはもう嬉しさや喜びといった感情は完全に忘れてしまい、諦めというものが優先されてしまうようになっていた。
小学6年生の時、初めて母さんに反抗した。ちょうど反抗期だったせいというのもあるのだろう。無意識のうちに我慢の限界を迎えていたのだろう。母さんが「あんたのせいで!!私がどれだけ辛い思いしてると思ってるの!!」といつものようにヒステリックを起こし、僕の胸ぐらを掴むと、僕は咄嗟に「僕だって、母さんのせいで辛いんだよ!!もう限界だよ……」そう吐き捨てるとわずかな小遣いを片手に家を駆け出し、家の最寄り駅、柏山町駅から2つ先の駅、千和崎駅まで列車に揺られた。
幸いにも食事を済ませた後で空腹感はなかった。駅を降りて自分の家の近くではまず見られないような満天の星空を見上げながらあてもなく駅舎のそばにちょこんと座った。もちろん僕はそんな星々を綺麗だと思うわけもなくただ虚無感と共に空に広がる夏の大三角形を眺めた。そして知らず知らずのうちに眠気に誘われあっという間に眠ってしまった。
その日僕は久しぶりに夢を見た。僕の地元とはまるっきり違う、木組みの街にいて見知らぬきれいな20歳ぐらいのお姉さんと一緒に何かから逃げ惑うというものである。何かの正体は最初こそ分からなかったが、夢を見ているうちに正体が分かってきた。爆弾を積んだ外国の飛行機だったのだ。つまりこの夢の中で僕は空襲に巻き込まれていたのだと分かった。すると、目の前に小型の爆弾が落とされ視界が火の海に包まれた。
その瞬間僕は目を覚まし、焦りながらあたりを見渡すと千和崎駅の駅員さんが僕を見つめ、「坊っちゃん、どこから来たのかい?」と優しく尋ね、僕はぶっきらぼうに「柏山町です……」と答えると駅員さんは驚き、深刻そうな表情をして僕に衝撃的な事実を伝えた。
「坊っちゃん、実は昨日の夜中、柏山町の化学工場でとっても大きな爆発があって町はほとんど壊滅してしまったの。もちろん柏山町駅もその周りの信号とかも焼けてしまって列車はしばらく走れないんだよ。」
僕は駅員さんを見つめたまま固まってしまった。言葉も出なかった。化学工場というのはおそらく家の近くの工場のことだろう。そんなことを考えていると駅員さんは電話が入ったからと事務室へと戻っていった。電話が終わると駅員さんは僕を連れて柏山町の方に行こうと伝えた。どうやら千和崎の方に向かって調査用の列車を走らせていて、僕も特別に調査用列車に乗るということを許可してもらったらしい。
その頃には家出のことなんてすっかり忘れてしまい、駅員さんと一緒に千和崎駅のホームで例の列車を待っていた。やがて黄色く輝いた調査用列車が千和崎に入ってきて、僕らは運転席に入った。
中にはガタイの良い調査員が3人と運転士が同乗しており、僕になぜ夜中から千和崎駅にいたかという質問や柏山町にいる親が無事だといいなという僕が微塵も思ってもいないような言葉を投げかけてきた。
僕は沈黙を貫いた。彼らはこれ以降僕に話しかけるようなことはなくひたすらに前の風景を凝視しながら指令部とやり取りをしていた。
黄色い列車が柏山町の一つ前の駅、南柏山駅を通過して200mほど進んだ踏切に差し掛かった時、列車のガラス越しにぐにゃぐにゃに曲がった線路と広大な更地が広がった。僕も、同乗していた人もみな呆然としていた。列車での移動は無理だと判断した運転士は乗っていた人を全員列車から降ろした。
列車から降りた後、僕は千和崎駅の駅員さんと調査用列車に乗っていた人に柏山町まで乗せてくれたことに対して感謝の気持ちを伝え、列車を後に柏山町駅、そして僕の家の方へ無我夢中で走っていった。
別に母さんが無事かなんてことを考えている訳でもなく、家に大切な物があってそれが無くなってしまったのではないかという心配も無い。ただ自分でもよく分からないまま走っていた。
そうして走り続けること1時間弱、柏山町駅と思われる建物が見えた。駅舎はほぼ跡形もなく焼けてしまっていたが特徴あるステンドグラスの破片が散らばっていたからすぐに分かった。
僕は更にそこから走っていき、家まで辿り着くと家は瓦礫の山と化していて、11:30で止まったままの時計が転がっていた。少し瓦礫をどかしてみるとカランという音と共に白い棒状の物が出てきた。ヒトの骨だった。僕はすぐに母さんの骨だとわかった。
だけど悲しみなんてものは一切湧いてこなかった。むしろこれで僕は暴力の日々から解放されたのだという安堵感に近いような気持ちになった。同時に自分が今まで暮らしていた町が一晩でなくなってしまったことに何とも言えない気持ちになった。
この時僕は初めて恐怖以外の理由で涙を流していた。声も出すことなく立ち尽くし、ただひたすら水滴が灰に染み渡っていった。こうして僕は正真正銘一人ぼっちになってしまい、灰と瓦礫に溢れた町と共に僕が今まで動かしていた人生という名の時計が止まってしまったのであった。
To be continued……
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