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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー泥犁暗殺篇ー
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『二章』㊴ ローダンセ



 

 ーーその「戦士」は、恵まれていなかった。


 一人分の人生において何をどう定義すれば恵まれていることになるのかは千差万別だと思うが、少なくともその「戦士」は自分がこの世界で一番『恵まれていない』と確信していた。


 その「戦士」の定義。

 それは五感の有無である。


 単刀直入に言って、その「戦士」は常人と異なり、五感の内四つを不恵の縁として受け取っていた。


 視覚、聴覚、嗅覚、味覚。


 およそ人間なら誰しもが当たり前に持っているであろう動物的力を、「戦士」は生まれた時から授かっていなかった。

 

 「戦士」の身体的境遇を親は当然嘆き、しかし「戦士」はそこまで一大事として考えていなかった。

 

 恵まれていないと自覚していても、生きることに支障はないと思っていたのだ。


 その漠然的思想の理由。

 それは、『生きている』からだ。

 

 視覚、聴覚、嗅覚、味覚を神の手によって奪われようとも、「戦士」はこの時この瞬間を確かに『生きている』。

 呼吸をし、唯一授かった触覚で物に触れるという感動を一身に浴びながら、「戦士」は『生きていた』。


 それはとても、素晴らしいことなのだと。


 だから、と表現していいのかはさて置いて、その「戦士」はとても優しい人間だった。

 人に愛され、人を愛し、誰よりも優しく、気高く、凛として、澄み渡る青空のように心が広い「戦士」だった。


 そんな「戦士」が「戦士」と呼ばれる由縁は、現代から遡ること一五〇年前。


 頻繁的に起きていた国家間による領土争いに巻き込まれた時だ。

 「戦士」が住んでいた町は敵国に襲撃されて大多数の死者を出し、「戦士」も当然殺されそうになる。


 だが、「戦士」は「戦士」だった。


 目も耳も鼻も舌も使えない、更には殺意を向けられいる最悪の状況下、「戦士」は焦らず、むしろ冷静に敵の攻撃を『避けた』。


 敵は驚き、再度剣を振るうが「戦士」は当然のように『避け』、信じられないことに相手から武器を奪い、反撃して戦闘不能にした。


 何故そんなことが出来たのか「戦士」にも分からない。

 ただ、「視えた」のだ。

 相手の動きが、輝きが、姿が。


 「戦士」は優しかった。

 人に愛され、人を愛し、自分という心を持っていた。

 だからこそ、自分が愛する人たちが次々と殺されるのを「戦士」は直接見てはいないのに「視て」、「感じて」、憤り、初めて自分の力を自覚する。


 視覚、聴覚、嗅覚、味覚。


 これらを持たない「戦士」は唯一触覚だけを持ち、その残された感覚器官はどこまでも研ぎ澄まされていた。


 肌で感じるだけでなく、「戦士」は魂で世界の全てを感じ取っていたのである。


 心の眼、と言えばいいだろうか。


 「戦士」には相手の心、すなわち魂が視える能力があった。

 魂が視えれば魔法、魔力の軌道、体の動き、心の善悪が視えることに他ならない。


 「戦士」は自分の力を自覚すると今まで意識していなかった世界の魂に手を伸ばす。

 結果、「戦士」の触覚は喪失している四つの感覚器官を補うほどに進化を遂げる。

 

 見えないのに視え、聴こえないのに聞こえ、匂わないのに臭い、味はしないのに味わって。


 「戦士」は町の皆から『戦士』と称されるほど圧倒的に敵対者を薙ぎ倒し、自らの力でもって高らかに『強者』であることを証明した。


 恵まれていないと思っていた。

 だけど「戦士」は勘違いしていたのだ。


 恵まれているか否かは、己の身体的特徴で決まるのではない。


 自分を愛してくれる人。

 

 そんな人たちが周りにいないこと。


 それが真に恵まれていないことなのだ。


 


 ーーその「戦士」の情念が、セイラ・ハートリクスの『魂』に集約される。



 

 英霊魔法は過去の英雄の『魂』を己の『魂』に憑依させる魔法だ。


 それ故に「全身」化をすれば肉体という器はより強固な『魂』に引っ張られ、主導権が切り替わる。



 そして「戦士」が得意とする武器は『弓矢』であり、これは行動よりも先に気配を感じ取ってしまうことから、いちいち近づく面倒を省くために選んだとされている。


 

 「ーーーー」



 爆発的な発光が、終わる。

 これより演じられる刹那の闘争の、終焉の合図でもある。


 赤く、綺麗な長い髪は薄茶に変わり、ざんばらに乱れて風に靡く。真紅の瞳は白色に変化し、まるで全てを見透しているかのように落ち着いていた。

 服装は簡易的な鎧一つで、けれど手に持つ『弓矢』だけは至高の武具の輝きを放っている。


 無粋な装飾も色もない。


 白。


 何者にも穢されず、どんな物にも染まらない、神聖な色。


 「ーーーー」


 その「戦士」は喋らない。

 その「戦士」は聴かない。

 その「戦士」は嗅がない。

 その「戦士」は味あわない。


 だからセイラ・ハートリクスの尋常ならざる劇的な変化に驚愕したティアエル・フレッドが涙魔法を発動したーー「その声」を聞くことはなかった。


 セイラは考えていた。

 もし仮に、涙魔法の発動条件がストレスと「聞く」ことだったとしたら、どちらかの前提を覆せば効くことはないのではないか、と。


 それは正しかった。


 一つはアルスト・ウォーカーで証明された。


 残りはセイラ自身で証明すればいい。


 そしてそれは成された。


 だから、後は終わりに向かって矢を放てば全てが解決する。

 ハッピーエンドじゃない、悲しい結末しかない未来へと、時間が進むのだ。


 大切な者を失った。

 世界の『魂』に手を伸ばせる「戦士」は、自分の心の痛みには敏感だ。

 

 友を失った。

 その痛みは、あの頃と何も変わらない。


 そして同様に、正しい悪には正しい正義の鉄槌を。

 

 白の瞳でティアエルを「視る」。

 白の弓を構えて、ティアエルを狙う。

 白の矢を向けて、罪人を照準する。


 こちらに向かってくるのが分かる。

 目で、耳で、鼻で、舌で、肌で感じる。


 

 恵まれていないことに嘆くのではない。

 

 失ったことに嘆くのだ。


 そして、その嘆きを力に変えてこそ、「戦士」は「戦士」足り得て、仲間を守ることが出来る。

 

 弔ってやることが出来るのだ。


 ーー英霊魔法。

 ーーNo.ニ・■■■・■■■。


 「ーーぉ」


 一本の矢が眩い発光と共に解放され、光の奔流となって迸り、何も言わせずにティアエル・フレッドを飲み込み、消し去った。


 九泉牢獄パノプティコンの壁には巨大な穴が開き、そこから見えるのは今にも泣き出しそうな曇天で。


 勝利の余韻など、「戦士」とセイラの『魂』には一切なく。


 

 ただ無言で、ギンの全てを感じるために、セイラ・ハートリクスは小さな仲間を優しく抱きしめていた。


 

 ーートクン、と。


 そんな音を聞いたのは、その時だった。

セイラ・ハートリクス。

英霊魔法。


No.ニ ■■■・■■■。『武器、弓矢』

No.三 アーセル・ドラコニス。『武器、剣』


全部で六つです。


No.ニ の英雄の名前が■なのは理由があります。

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