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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー泥犁暗殺篇ー
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『二章』㉚ 地獄のような後悔

 

「ーーーーは」


 目が覚めると、そこは怪獣が暴れ回ったように散々たる有様の森の中だった。木々は薙ぎ払われ、地面は沈没、抉れていて。

 横になって寝ていたわけではなく、立ったままの状態で意識が覚醒するのは実に変な感じだとーーサクラ・アカネは思う。


 「………」


 変な感じ。

 その感覚で気づく。

 右腕があった。斬られたはずの右腕が、何事もなかったかのようにそこにあった。

 それだけではなく、背中の裂傷までもが治癒されている。小さい傷は残っているが、『死に直結している外傷』は全て完治しているようだった。


 「………」


 何も思い出せなかった。

 記憶が欠落していた。右腕を失い、背中を斬られた後からの記憶が、何もない。

 どうしてこんな惨状なのか、どうして傷が治っているのか。なにもかもがアカネの中で空白になっていて、額を押さえる。

 

 「………」


 思い出そうとしても呼び起こされるのは頭痛だけで、アカネは別の方法で記憶の閲覧を試すことにした。

 ルイナとガジェットの存在だ。

 彼女たちは今ここにはいない。

 恐らくアカネを殺したと確信してどこかへ行ったのだろう。


 負けてしまったことは悔しいが、もしかしたら彼女たちがアカネの傷を治してくれたのかもしれない。

 当然確率としてはかなり低いが、その後を知る者としての候補はルイナたち以外にはいない。

 

 「………」


 そうして重たい体を引きずるように一歩、踏み出した時だった。

 

 「………?」


 つま先に、何かが当たった。石?木?これだけ荒れた場所だ、岩や大木の破片が落ちていても不思議ではない。

 そんな風に軽い気持ちで足下に視線送って、悲鳴をあげた。尻餅をついた。


 「うわぁああああああああああ!?」


 腕。

 うで。

 ウデ。

 人間の腕。


 血に濡れて血に沈む人間の、細い腕が作り物のように地面に転がっていた。自分の腕じゃない。

 自分の腕が切断された時より怖いし忌避感が拭えない。恐怖しかない。


 「な、なに……っ。だ、誰の腕……?」


 忌避感に顔を歪めたまま呟くアカネだが、不思議と「誰の腕」なのか漠然と理解した。

 ほっそりとした、白い腕だ。男ではない。女だ。ではこの場にいた女は誰がいたか。

 決まっている。

 アカネとルイナだ。しかしアカネの腕は再生されている。

 ということは、消去法でここに落ちている腕の持ち主はたった一人に絞られる。


 恐る恐る、だ。

 彼女は周囲を見回して、そこに目が辿り着いた時にアカネは凍りつき、目を見開き、言葉を失った。


 「……あ。あああ」


 森の残骸に、埋もれるように倒れる影が一つ。その影は片腕を無くし、全身裂傷に苛まれていて、血で真っ赤で、まるで死人のように倒れていた。

 ーールイナ。


 「ああああああ」


 スギン!と、頭が割れるように痛みを訴えた。そして空白の記憶の断片が浮上する。

 途切れ途切れ、ノイズまみれ。破れた写真を繋げるような、記憶の再生。

 黒い髪のアカネが、ルイナとガジェットを嬲っている。斬っている。楽しんでいる。血を、痛みを、喪失を教えている。


 ーールイナの腕を斬り落とし、トドメとばかり黒い斬撃を放っていた。


 「あああああああ。あああああ」


 この惨状。

 二人の罪人の、予期せぬ撃破。

 望まぬ形の、逆転勝利。


 「ちがう、ちがうちがう!こんな、こんなのを、こんなのを望んで強くなりたかったわけじゃないのに……ッ!」


 頭を押さえて、髪をむしって、膝をついて、すでに起きた変えられない現実に悲観して絶望し、打ちのめされる。


 これが。

 こんなのが。

 この惨状が。

 悲劇をなくすために必要な終結なのか?


 正しい行いを正しいものにするために必要なことが、こんな無惨な、誰も救われない勝利なのか?

 

 戦うことを決めた。


 罪人を許さないとも。斬ることも。

 だけど「殺人」を犯したかったわけじゃない。ここまでしたかったわけじゃない。


 「こんな、こんな勝利なんて、あたしは望んでなんていなかったよ……!なのに、なのに……!」


 ガン!と。


 全力で、力一杯、アカネは地面に額を打ちつけた。

自傷行為。現実から逃げるために痛みを必要とした逃避行動。

 血が流れ、痛みが起きて。

 それでもやっぱり現実は変わらなくて。


 「なんでここまでするのよ『お前』はァァァァァァァァア………ッッッ!!」


 ーーなんでここまでするの、あたしは。

 

 曇天の下。

 少女の慟哭が世界の果てまで響き渡った。

 そしてその絶叫は、ハル・ジークヴルムの心臓が潰されたのと、全く同じタイミングであった。

 

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