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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー泥犁暗殺篇ー
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『二章』㉗ 移ろう魂 


 「刀剣舞踊ーー弌式、乱れ桜!」


 「ヌルいなぁ!」


 舞い散る全ての桜を斬り伏せるように振るった連続の剣閃が、悉くルイナに否定されてアカネは舌を打ちたい気持ちを堪えた。

 

 キキキキキキキン!と、どの方向からどう斬りかかっても不可視の刃を纏った手刀に真正面から捩じ伏せられるのはかなりメンタルをやられる。


 一旦後退しようと判断したアカネを、しかしルイナは許さない。アカネの足を蹴りで払い、体勢を崩した。


 「な、ん」


 「野暮だぜ。下がるなんてよ」


 右に体が傾ぐ。どう足掻いて地面に一直線の流れにアカネの思考は一点に集中した。

 

 つまりは回避。

 迫り来る不可視の刃の、その手刀による突きの回避だ。


 左側頭部を狙って繰り出されたルイナの手刀。このままだと確実に頭を貫かれてゲームオーバー。

 

 右手に持った刀で防ぐ?

 ーー身を捻って動く時間はない。

 ソード・バレットを使う?

 ーー防がれて終わり。意味がない。


 ーーならば。


 「死ね!」


 「ま、だ!」


 敢えて自然の流れに逆らわなかった。むしろ従った。


 アカネは右に傾いだまま地面に倒れる寸前で日本刀を突き刺し、両手で柄を持って下半身を上げる。

 

 ーーハルがやっていたことを真似た。

  

 刀を持って全体重を支え、横から薙ぎ払うように左脚の蹴撃でルイナの手刀側面を撃ち抜いた。


 一ヶ月前、ハルが仮面の女に放った蹴りを思い出し、多少形は異なるが真似てみようと思ったのだ。


 結果。

 ルイナの手刀はアカネに当たらず、彼女の腕は体の内側に折り畳まれることになった。

 ルイナは驚愕する。


 「……なっ!」


 「やってみたら、意外と出来るんだね!」


 とは言ったものの賭けではあった。不可視の刃である以上、「刃」がどこにあるかわからない。


 

 だから蹴った瞬間に足が吹っ飛ぶ可能性もなきにしもあらずだった。



 しかし一方で、ルイナは刺突を繰り出している最中でもあった。ならば側面を狙えれば足がオシャカになることはないとアカネは踏んだのである。



 一回限りの大博打だ。

 無理に笑って余裕な雰囲気を出しているが、正直めちゃくちゃ怖かった。

 

 「けどこれで、まだ戦える!」


 「……ハハッ。ハハハ!その通りだよ、クロカミ!」


 地面に突き刺した刀を抜き、体勢を整えるとすぐにルイナに斬りかかる。


 アカネの戦意に呼応して、蜂蜜色の罪人は八重歯を見せて笑った。


 ザン!!と、アカネが縦に振り下ろした一閃をルイナは半身になって躱し、下から振り上げる刃閃でお返ししてくる。


 空気を引き裂きながら迫るそれをアカネは瞬時に日本刀で受け流し、オレンジ色の火花が舞い踊った。


 転瞬。

 火花が散る中、銀の髪と蜂蜜色の髪が靡き、空色の瞳と栗色の瞳が交差した。


 ………フッと、互いに鋭い呼気を吐く。

 そして圧巻の剣戟が場を支配した。

 どちらも譲らない、その剣捌き。


 アカネの袈裟斬りを視えざる刃で受け流し、そのまま頸を狙うルイナの手刀を左斜め下から送り出した刀剣一本で弾き返し、互いの攻撃が志半ばにして中断したところで両者の刃が再び交わる。



 甲高い音の共鳴。

 鍔迫り合いもそこそこに、ルイナが仕掛ける。



 彼女は今まで片手にしか纏っていなかった不可視の刃を逆の手にも纏い、日本刀を持ち両手が塞がっているアカネの右肩を狙う。


 当たれば負け。

 恐らく絶命。

 その一抹の恐怖を斬り伏して、アカネは迫り合っていたルイナの元々の手刀を押し流す。



 どこに?

 決まっている、不可視の刃を新規に纏う逆の手に、だ。



 ガッギィぃぃぃン!と、ルイナの二振りの手刀が予期せずに衝突した。不恰好な体勢になった隙だらけのルイナに、今度こそアカネは攻撃を当てるために斬りかかる。


 「刀剣舞踊ーー伍式、十文字粗爲じゅうもんじあらため!」


 懐に飛び込んだアカネの剣閃が刹那、字が汚い小学生が書いたような「十」を描いた。

 剣の練度も鋭さも未熟なアカネは一瞬で縦と横に剣を触れない。だから粗い形の「十」になってしまう。

 しかしそれも工夫次第。粗いなら粗いなりにやりようはある。


 例えば、セイラのように洗練された剣筋は鮮やかに、それこそ相手が斬られたと気づかないくらいに美しく剣閃を迸らせるだろう。

 一方で、粗い剣筋は敢えて粗いままに放つことで「明確な痛みを与える」ことができる。

 人間は痛みを感じたらどうなるか。

 怯む。

 恐怖する。


 つまりこれはトドメの一撃に対しての布石でもあった。

 そして。

 ザシュ!!!と。アカネの「十」がルイナの上半身を容赦なく斬り裂いた。大量の血飛沫が舞い、ルイナが膝から崩れ落ちる。

 

 (勝てる……!)


 「ーーイってぇぇぞクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!」


 「な、……あぐぁ!?」


 勝利を確信した時、目の前の女が激昂した。


 まるで獣の咆哮。


 血を吹き出して膝から倒れそうになった刹那、罪人の女は地団駄を踏むみたいに地面を踏んでーー沈没さ

せた。

 


 同時、「赤い刃」が地面の中から突き出てきてアカネの太腿と脇腹、頬を掠めた。


 鮮烈な痛みに顔を顰め、しかし血と傷に意識を割く暇なく後退し、ルイナに目をやった。


 怯む。

 恐怖する。


 それは彼女ではなく、アカネ自身であった。

 

 変貌していた。

 

 気分屋アロ奔放者アダイの名のままに、ルイナは先刻とはどこか違う、荒々しい雰囲気を纏い、血に濡れた顔や髪、体を気にせずに「赤い刃」を両手に纏っていた。


 「……あぁ、痛ぇな。久々に痛ぇ。いつ振りだぁ?アタシが血を流すなんてよ」


 「赤い、刃……」


 「アタシの魔法は視えない斬撃を作り出すんじゃない。空気に鋭さを与える魔法ーー刃透じんとう魔法だ。空気ってのは視えないだろ?視えない刃がアタシの魔法の強みだが、そこでアタシは『匡制』を取り入れた。視えないアドバンテージを捨てることで刃の威力を向上、鋭さを研ぎ澄ますことに成功した。……つまり刃が赤いってのはいいことだ。この状態に相応しい相手になったってことなんだからよ」


 匡制。

 セイラが説明してくれたことをアカネは覚えている。特定条件をクリアすることで魔法の効果を底上げする方法。ルイナはそれを用いて刃透魔法を一段階上のステージに押し上げたということなのか。

 

 「さぁ、続きといこう。アタシに傷をつけたことをあの世で自慢しろ」


 「勝負はまだおわってーー」


 「終わったよ」


 …………ドッ、と。

 何かがすぐそばに落ちた。


 「………?」


 怪訝に眉を寄せたアカネは音がした方を見て思考を忘れる。

 ………あれは、なんだろう?

 見たことがある「モノ」だった。

 いつでもすぐ横にある「モノ」だった。

 ついさっきまで使っていた「モノ」だった。

 ……あぁ、アレ、あたしの「腕」か。


 「………………………………え、?」


 「抱えとけって言ったろうが」


 狂気に口を歪めて笑うルイナの声は、しかしアカネには届かない。

 頭が爆ぜた。

 真っ白になった。



 恐る恐る目を動かせば、絶対にそこになきゃいけない「右腕」が肘の半ば辺りから綺麗に切断されて、どこにもなかった。


 あるのは滝のように溢れてる命の証。大量の血だけ。

 ボタボタと、ボタボタと、ボタボタと。



 真っ赤な血液が地面を汚し、そのショッキングな光景、現実にアカネの顔色がみるみる青ざめて、瞳は驚愕と恐怖の色に染まり、そして発狂した。


 「あ。あああ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」


 凄絶な激痛。許容出来ない激痛。気絶したいのに出来ない激痛。頭がスパークする激痛。痛み。痛み。いたみ。イタミ。いたミ。イタみ。いた、み。い、た、み。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 断面を押さえながら地面を転がった。


 止まらない血が自身や地面を赤く染め、覆らない現実が牙を剥く。


 右腕の消失。

 利き腕の使用不可。切断。


 アカネは滂沱と涙を溢しながら、喉が潰れるくらいに、痛みから逃れるようにただ叫び、惨めにみっともなく転げ回る。

 

 「おいおい。腕の一本や二本を無くしたくらいでなに泣いてんだよ、クロカミ」


 「あ、あぁあああ!あぐぁ!?ごろばぁ!!」


 切り落とした張本人が呑気にアカネに近寄り、顔面を蹴り上げると横向きになった少女の華奢な腹部にもう一度容赦なく蹴りを叩き込んだ。



 吐血。

 嘔吐。

 

 しかしどれも腕の痛み、熱さを誤魔化すモノにはならない。


 アカネは唇が抉れるくらいに噛んで苦鳴し、呻いて、断面を押さえて、前に立つルイナを見上げる。

 涙で霞む、その視界に映る一人の罪人。


 「うぅぅぅぅぅ………ッ!あな、たは………ッ!」


 ルイナは鼻で笑って、


 「許さないってか?いいね、それが普通だよ。だけどな、それを行動に移すほどの体力、精神力は今のお前にはないよ。悪いが詰みだ。……お前に「悪を悪だと言う資格」はない。力が伴っていないよ」


 「…………ぐ、うぅぅぅぅぅ!る、いな。ルイナ、アロ、アダイ……!」


 

 血と涙で濡れる顔で睨むアカネの視線を軽く受け流して、ルイナは呆れた息を吐いた。


 「その「目」はダメだな。正義を語るお前が、「殺意」を抱いちゃいけない。それは手に余るぞ、クロカミ。お前の魂にソレは相応しくない。……ここまでアタシを楽しませてくれたお前に敬意を表し、「ソレ」に染まりきる前に殺してやる」


 何か言っている。

 何か言っているけど何を言っているのか分からなくて、どんな意味が込められた言葉を言っているのか頭が理解できなくて、言っていることが言っていることが言っていることがわけわからなくて。



 腕がないことしかわからなくて。

 痛いことしか分からなくて。

 

 「逝け。正義に酔ったまま」


 ーーザン!!と。

 赤い凶刃が、サクラ・アカネの体を容赦なく引き裂いた。




:::::::::::



 【ーーやれやれ。世話のかかる】



::::::::::



 【ーー交代だね】




:::::::::



 【ーー刀剣魔法の使い方を教えてあげるよ】

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