『一章』間話 ガラスの靴がない灰かぶり
ーーずっと一人でいれば幻のままだった。
ーーきっと一人でいれば夢のままだった。
この歌詞が紡がれる歌を初めて聴いた日は、世界の終末のような、赤銅色の夕焼けに染まる絶美の中の公園だった。
滑り台とブランコと、砂場だけがある小さな公園。立ち寄った理由は特にない。
ただ、ポツンと残ったボールが目に留まっただけ。
燃えるような赤銅の世界にただひっそりと、忘れた持ち主に恨言も文句も言えずに寂しげな影を落とす憐れなボール。
両手で拾い上げ、ベンチに座り、ボールを撫でる。
まだ新しい、持ち主の気配を淡く感じる。
人の都合で生み出され、使われ、用がなくなったら棄てられる。
一人になっても誰も何も感じず、ただの道具だと言って切り離す。
狂気だと思った。
自覚のない悪意ほど怖いものはないから。
けれど同時に、安心もした。
こんな世界にもまだ救いはあったのかと。たかがボール一つが転がっていただけで、それを自分と重ねてみっともなく一人じゃないと思えたから。
似た者同士。
世界に嫌われた憐れな存在。
ふと夕焼けの緋色の空を見上げて、燃えてしまえばいいのにと心底思った。
このまま何もかも天の炎が燃やし尽くし、灰塵に帰してしまえば全て忘れることが出来る。
胸を締め付ける悲しみも。
心を弄ぶ痛みさえも。
平等に。
幼い声がした。
世界の暗さもヒトの闇も知らない無垢な声。
公園の入り口に目を向ければ、七歳くらいの少年が母親と一緒にこちらを見ていた。
どうやらこのボールは彼のものらしい。取りに戻ってきたのか。
返さない理由は無いため、駆け寄ってきた少年にボールを渡し、受け取ると少年はお礼を言って母親の元へ。
母親がこちらに一度頭を下げると、親子は夕陽の色に溶けるように去っていった。
そうして、やっぱりこうなるかと無感情に思ってスマホを取り出す。
何か。
何でも良いから歌を聴きたい。
その時に聴いた曲が何故か、ひどく胸に刺さった。
最初から一人でいたら、何もかも上手くいっていたのだろうか。
最初から一人でいれば、こんな思いはせずに済んだのだろうか。
答えはない。
ただ淡々と炎の中の公園には切ない詩が舞う歌が奏でられ。
恨言も。
文句も言えない寂しげな影が静かに落ちていた。