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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー泥犁暗殺篇ー
75/193

『二章』⑲ 雷vs薔薇

読んでください!

よろしくお願いします!


 「おォア!!」

 

 泥犁島の森林部で、青白い雷が踊り狂う。

 どうして、こんなことになったのだろうか。

 


 アカネの目の前で、仲間同士が戦っていた。

 ハルとセイラ。いつもはあんなに仲が良いのに、今はその面影すら感じない。

 


 ハルの顔は神魔エリスとかいう罪人を「殺す」という強い意志の怒りに染まり、セイラは暴走気味の友を憐れに思う顔をしていて。



 ドン!!!と。ハルの拳とセイラの拳が激突し、不可視の衝撃波が吹き荒れた。


 「なんっで邪魔すんだよセイラぁぁああ!」


 叫んで、ハルが雷撃の槍をセイラにぶちかます。空気が麻痺する音が響き、雷が絶叫する。

 


 対して、セイラは魔法をまだ使わない。彼女はハルの雷槍を片手を振るっただけで蹴散らし、霧散させて、赤い目を細めた。

 

 「私に向かって魔法を使うとは」


 「ーーーーっ!」


 「お前は仲間に「敵意」を向けるクズに成り下がったのか、ハル」


 氷点下の声がキンと響き、熱く、そして冷静に燃える瞳がハルを映す。



 瞬間、セイラの姿が消えた。

 フッ、と。アカネたちの視界からセイラが消え、そして瞬きを終えると赤髪の美女はハルの顔面をワシ掴みにしていてーー、


 「頭を冷やせ!」


 「ーーーーっっ!?!?」


 ドッッッッゴアアアアア!!!と。

 泥犁島ないりとうの一角、その一部分が盛大に沈んだ。隕石が落ちてきた、そのレベル。


 地形が変わるほどの、その破壊。


 アカネたちは巻き込まれないように退避して、けれどハルはその円形状の破壊痕が残る地面の中心で、セイラに頭を掴まれたまま倒れ、めり込んでいた。


 「か、は、っあ!」


 「お前は強いよ、ハル。だがな、憎しみと怒りに任せる力じゃ何も守れないよ。そんな力で、私は倒せない。お前は「私」という壁を越えられない」


 「……っ。おれは、あいつを。エリスを……っ!

『ジーナ』を殺さなきゃいけないんだ!」


 「今はそうじゃない。今やるべきことはあの子を……ジーナを殺すことじゃない。わかっているだろう?」


 「………っ」


 「お前の今の行動は仲間を傷つけるものだ。……見ろ。お前はアカネのあんな顔が見たくてあの時戦ったのか?」


 ハルはアカネを見た。

 アカネは、今にも泣きそうな顔をしていた。大切な人同士が戦っているところを見て、悲しんでいる顔だ。ハルが怒りと憎しみに支配されているのを、痛そうに、代わってあげたいと思っている顔だ。


 「………アカネ」


 「ハル……っ」


 「頭は冷えたか?」


 セイラの手が顔から離れた。よろよろと立ち上がり、ハルはアカネに歩み寄っていく。


 「……ごめん、アカネ。俺は、俺は……」


 アカネは涙目になりながら首を横に振る。


 「ハルが痛そうにしてると、あたしも痛いから。だから、そんな顔しないで。ハルには、笑顔が一番似合うよ」


 「………あぁ。あぁ。ごめん、ごめん」


 アカネはハルの胸に額を当てて、そしてそっと抱き締めた。


 どこか遠くへ行きそうだったから、それを止めるために。どこにも行かないでと、願うように。

 


 落ち着きを取り戻したハルが皆に、セイラに謝ると脱線した道を元へと戻した。

 

 ハルの何かを変えるほどの罪人、神魔エリスは非常に気になるが、今はドロフォノス。

 


 気を取り直し、泥犁島ないりとうの中心にある九泉牢獄パノプティコンに向かわなければならない。


 「ーーったくよォ。なンだってオレがこンな面倒な役回りをしなくちゃなンねェンだァ?」


 その時確かに、この場にいる全員が一瞬自分の「死」を数秒後の未来に見た。アカネたちが先を急ごうとしたその寸前、彼女たちの真ん中に、異物が一つ紛れ込んでいたのだ。

 

 それは、橙色の髪をした細身の少年だった。ボロボロの半袖半ズボン、両手首には壊れた手錠をブレスレットのようにはめ、「死」を唯一無二の友にしたかのような黒の鋭い双眸。

 

 ーー格が違う、と。アカネの本能が悲鳴を上げた。


 「あァン?何だよ、どいつもこいつも小物じゃねェかよ。……ハァ。オレも「向こう」に行けばよかったかなァ」


 アカネたちを一瞥した橙色髪の少年が嘆息する。

 まるで品定めをされたみたいだった。その結果、どうやらアカネたちは彼の興味を惹くことはできなかったようだ。

 汗が頬を伝い、息が不自然に荒れる。あの少年と同じ空間にいるだけで、心臓がワシ掴みにされている気分だった。

 そっと、手が握られた。

 一気に体が、心が軽くなる。

 ハルだ。

 

 「大丈夫。俺がいる」


 「……うんっ」


 やっぱり、ハルはハルだ。

 この人がいれば、全部なんとかなるって思えてしまう。

 安心して、ハルの手を握り返すと、シャルが苦笑しながら口を開いた。


 「なるほどぉ。もう既に九泉牢獄パノプティコンは敵の手に堕ちたみたいですねぇ」


 「え?」


 「あの人、脱獄囚ですぅ。しかもーーS級の罪人ですねぇ。識別名は確か……」


 「蓮爆エクリクスィ、ッてか?」


 シャルの言葉を、S級罪人の少年が引き継いだ。

 とんでもない話だった。

 何もかもが後手に回ってしまっていた。

 こうなることを止めるために牢獄に向かっていたのに、収容されていたはずの罪人と外で出会うという最悪の展開。

 そもそも絶対に脱獄不可能と呼ばれていた牢獄の陥落。方法はどうあれ、全ては過程より結果だ。

 

 九泉牢獄パノプティコンは、蓮爆エクリクスィの出現によって終わりを迎えた。

 

 そのS級罪人が、嗤う。


 「クハハ。そンなにビビンじゃねェよ。オレはァ外に出れたから気分がいいンだ。テメェらを皆殺しにしろって言われてっけどよォ、正直オレとしてはテメェらの生死なンざどーだっていい。だからここは、取り引きといこうじゃねェか」


 「取り引き?」


 アカネが眉を顰めると、罪人の少年は笑みを深める。


 「難しいことじゃねェ。オレはテメェらを見逃してやる。だからテメェらはオレを見逃せ。それだけの話だ。ほら、簡単だろォ?」


 それは、警察に殺人犯を見逃せと言っているようなものだった。

 応じられるわけがない、拒否率一〇〇%の取り引きである。

 故に、シャルは即答だった。


 「却下ですぅ」


 たった一言。そう断言する。それで場の流れが明確に決まった。

 相手がどれだけ脅威でも、この人数なら問題ない。皆が臨戦態勢に入る。罪人の少年が目を細める。

 不敵に歯を見せて、嗤った。


 「交渉決裂ってことかァ。なら、仕方ねェなァ」


 「ーーーー!」


 「え、ハル?」


 目の前の罪人が両手を広げた瞬間、ハルがアカネを後ろに突き飛ばした。いや、それだけではない。セイラ、ユウマが二人同時に蓮爆エクリクスィに飛びかかり、アルストとナギが魔法行使の構えに入って、シャルが守るようにアカネを背にして立った。


 ーー直後。


 「無様に死ね」


 白と赤が混ざった閃光が煌めき、連続的な爆音と共に紅蓮の炎が容赦なくハルたちを襲った。

 轟音。

 それから爆風。

 そして熱波。

 意味不明な衝撃がアカネの視界を閉し、肌を焼き、髪の毛を炙る。

 数秒後、だ。戦闘中において数秒も視界を暗闇に閉ざすのは自殺行為もいいところだが、ようやくアカネは目を開けて光を受け入れる。


 「な」


 言葉を失った。

 みんなは無事だった。傷一つない。

 だけどあたり一面が消えていた。木々が炭となって消失し、風に流され、空間が広くなっていた。


 「ヘェ。今のを喰らって死なねェとはな。意外にやるじゃねェか」


 少しだけ評価が変わったらしい。

 いい遊び相手が見つかったかのような顔で、蓮爆エクリクスィがまた何かをしかけようとーー、


 「ーー雷拳!!」


 「ーーー!」


 その寸前で、ハルがS級罪人の少年に殴りかかった。その雷を纏った一撃を、橙色髪の少年は赤白い閃光を纏った拳で受け止める。

 地面が沈んだ。


 「ここは俺に任せてお前らは先に行け!」


 「ちょ、ハル!?」

 

 ハルの考えはわかる。

 ここで一人でもあの罪人を抑えておけば、あとのメンバーは先に進めるし、罪人が脱獄してるとなるとその対応もしなくてはならない。

 九泉牢獄パノプティコンに行くのは必須だ。

 だけど、ハル一人で平気なのか?アカネはハルを信じているし、強いことも知っている。

 だが、それでもあの罪人から感じるプレッシャーは規格外だ。


 「ここはハルに任せよう」


 と、躊躇うアカネの肩を掴んで言ったのはセイラだ。他のみんなも、既に集まっている。


 「ハルならもう大丈夫だ。それに、ハルは負けないよ」


 唇を緩めてセイラが言い、それにアカネも息を吐いてから頷いた。ハルの覚悟を無駄にしないためにも、ここは彼一人に任せることが正しいだろう。

 アカネたちは先に進み、事態の収束に尽力する。

 

 アカネは拳の迫り合いをしているハルの背中に声をぶつける。


 「あとでね、ハル!」


 「おう!」


 次に会う時は、全てが終わった後に。

 それを胸に誓い、アカネたちはハルに任せてその場を後にした。


 

:::::::::::



 激戦が、青と赤の光が、森林部を蹂躙する。

 重なる轟音、舞い散る火花、荒れ狂う魔力。常人では決して目では追えない速さでもってハルと罪人の少年が拳を交える。


 「クハハ!いいねェ!楽しませてくれンじゃァねェかよ、あらせすたァ!」


 「ーー!知ってたのか!」


 「この強さと雷、テメェ以外に誰がいるンだよォ!」


 まるで戦いを楽しむ狂戦士のようだった。笑いながら右ストレートを繰り出した罪人、その拳を避けてると、彼の攻撃の余波で大地と森が抉れた。

 S級罪人、その力は絶大で、同じS級のエマを軽く凌駕していた。


 「エマも大分強かったけどな!」


 「あン?なンだテメェ、あの物を浮かべるしか能のねェカス知ってんのか」


 「あ?」


 お返しとばかりに拳を放ち、罪人の少年と同じ結果を彼の後ろに発生させた後、二人が距離を取ると奴は片眉を上げてそう言った。

 カス。

 その言い方にハルは苛立つ。


 「お前こそ、なんでエマを知ってる」


 「何でって……何回か会ったことあっからなァ。カスのくせにS級名乗ってるから大分痛めつけてやったが。あいつ今なにしてンだ?相変わらず正義やら何やらに拘って無様に生きてンのか?」


 「………死んだ」


 後悔と怒りを押し殺しながら、歯の隙間から声を出すように言うと、S級罪人の少年は一瞬驚くと腹を抱えて笑い出した。


 「アハハハハハハハハハハ!死んだ、死んだのかあの野郎!クハハハ!ザマァねェなァ!結局望みも叶えられず後悔だらけの人生で幕引きかよ!くだらねェったらありゃしねェなァ!クハハハハハ!」


 「なんだとテメェ!!」


 ゴッ!!と、雷の疾さで一瞬にして罪人の懐に入り、全力全開の一撃をその悪辣に嗤う顔面目掛けて振り抜く。

 しかし、その一撃を彼はジロリと一瞥した後避ける素振りを見せることなくーー直撃の寸前に赤白い光が、熱が発生ーー雷拳が否定された。

 小規模の爆発、爆風が生み出され、ハルは右拳に返ってきた痛みに顔を顰めながら後退した。

 ゆらゆらと、体を横に動かしながら罪人の少年が愉快に嗤う。


 「なンだよ、そンなに切れンじゃねェよ。オレは事実を言ったまでだろォが。それとも何か、真六属性アラ・セスタであるテメェが、あのカスとお友達なンですかァ?」


 「だったらなんだよ。エマは俺の仲間だ。あいつを馬鹿にするならお前は許さねぇ」


 「クハハハ!仲間、仲間か!そうかそうか、仲間か!そうきたかよ!クハハハ!あンなカスでも一応罪人なンだが、正義の味方でみンなのヒーローであるテメェはそれでいいのかァ?」


 「なにか問題でもあるのか?」


 「あン?」


 バチバチバチ……!と、ハルの全身を雷が奔り始めた。

 胸に、ふつふつと怒りが込み上がる。

 


 確かにエマは罪人だった。人をたくさん殺した。アカネを傷つけて、"アリア"を半壊させた。理想を掲げて、それを叶える方法を間違えて。

 


 だけどエマの中にあったのは全部この世界のためで、みんなを守りたかったという綺麗な思いだ。



 やり方がズレていただけで、理念と信念が汚れていたわけじゃない。

 


 それなのにカスとか呼ばれて、果たしてそれを許せるのか?

 


 譬え罪人であろうとも、本音を言い合った仲間を、馬鹿にされて。

 ハル・ジークヴルムという一人の男は、果たして許せるのか。


 ーー断じて、否である。


 だから。


 「何度でも言うぞ。エマ・ブルーウィンドは俺の仲間だ。それを俺は恥ずかしいとも問題とも思わねぇ。もしもお前がそれを馬鹿にして笑うってんなら、もう容赦しねぇ」


 「…………、」


 「覚悟をしろよ、S級罪人。檻の中にいた方がよかったと、後悔させてやるからよ」


 雷神の眼光が、S級罪人を射抜く。

 対して、奴はそれでも余裕の笑みを崩さず、傲岸不遜な態度を誇示して、名乗った。

 丁度いい遊び相手が出来たかのように。


 「第S級指定罪人・蓮爆エクリクスィ、レイスだ。覚えて散れ、三下」


 雷神アーサソール、ハル・ジークヴルム。

 蓮爆エクリクスィ、レイス。


 対S級の火蓋が、切って落とされた。

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