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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー泥犁暗殺篇ー
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間話 甘味ある真の絶望


 ーー空間の裂け目にアカネとアレスが吸い込まれる少し前の話だった。

 そもそも何故あんなモノがあの場に現出したのか、それを知るためには時系列を戻して眺める必要がある。

 

 ハル・ジークヴルム。

 シャルロット・ガーデン。


 二人が相手をしているのは罪人一家の一人であるシルエット・ドロフォノス。桃色髪に幼い顔立ちの、実際本当に童の女の子。

 


 彼女の魔法は、いわゆる空間魔法の一種。

 好愛魔法という。


 まず、己の好きな物を頭の中でイメージする。その好きなものが自由に支配できる自分もイメージ構築する。



 そしてその空間内においては術者はその好きな物を自在に操る事ができ、空間内に閉じ込めた人間の力を半分にすることが可能。

 


 ただしその条件は相手を好きになることだ。

 


 しかしその条件を満たした場合に限り、空間内においてシルエット・ドロフォノスを圧倒する者は存在しない。


 ーーしない、はずだった。


 「ごろばぁ!?」


 お菓子がカラフルに集まる、子供の夢が叶ったような空間で、シルエットが頬を腫らしながら生クリームで出来た山まで吹っ飛んでいく。

 


 生クリームだから派手に轟音はなく、シルエットが白の中に埋まってしまう。


 「……手加減、しないんですねぇ」


 「してるぞ?ていうか、なんかいつもより力入らないなぁ」


 「……ふぅむ。弱体化の効果がある空間内、なのかもしれませんねぇ。私には効果ないようですけど。何か条件があるのかもしれませんねぇ」


 高く積まれたクッキーの上で呑気に会話をする二人に、生クリームから息も絶え絶えになりながら出てくるシルエットは赤く腫らした顔に微かに絶望の色を見せる。


 「な、なんで。なんでお兄ちゃん、私の魔法内で、そんなにうごけるのぉ……ッ!」


 好愛魔法は、この空間内においては誰もシルエットには敵わないのに。


 誰もが平伏し、命乞いをして、すぐ近くにある「死」に絶望して、その甘いデザートで喜ばせてくれるのに。


 「ん?よくわかんねーけど、つい最近魔力ゼロの状態で戦ったことあったからなー。それよりかは遥かにマシだな。ハッハッハッハッハッ!」


 「………な、なんなの、それぇ……っ。そんなの人間じゃない。そんなの人間じゃないっ!」


 つまり魔力欠乏症のまま戦ってたってことか?そんなことがありえるのか?ありえていいのか?魔道士にとって魔力欠乏症は「死」に等しい。



 その「死」を乗り越えて、だからこの空間内でもシルエットを圧倒できるとでも?

 


 そんなのは、力の理不尽以外の何物でもない。


 青髪の少年が、クッキーの上から降りてきた。

 シルエットは「ひっ」と小さく喉を鳴らして恐怖し、下がる。


 「ガーデンが言ってたけど。お前ガキんちょのくせに罪人なんだってな。罪人一家?っつーところの子供なんだろ?」


 「そ、それが、なんなのぉ……っ。こ、こないで、こっちに来ないで……っ」


 「えー。いや、そんなに怯えなくても。俺が悪かったよ、やりすぎた。別に殺そうとしてるわけじゃないんだ。ただ、どうして俺たちに近づいてきたのか知りたいだけなんだよ」


 そう笑って言うと、青髪の少年は怯えて座り込むシルエットに手を差し伸べる。


 幼いその顔が、眦に涙を浮かべながら戸惑う。

 少年の隣に来た金髪の少女が言う。


 「まぁ、大体予想はついていますぅ。このタイミングで私たちを狙う理由はただ一つ。泥犁島ないりとうの場所を知りたいんですよねぇ?私が知りたいのは、もっと奥ですぅ」


 ずいっと、罪人よりも罪人な、恐ろしく冷たい瞳で見据えられ、シルエットが恐怖した。


 「どうして私たちがあの港に来ることを知っていたんですかぁ?あの場所に来ることを知っているのはごく一部の人間ですぅ。……あなたたちドロフォノスに情報をリークしたのは、一体どなたですかぁ?」


 「……し、知らない!わたしたちは、「お父様」に頼まれて、お菓子をくれるって言うから「廃家」のみんなと仕事をしただけで……」


 「お父様とは?廃家とは?あなたたちドロフォノスは何を企んでいるんですかぁ?」


 シルエットは震えながら首を横に振る。


 「知らない、わたしは何も知らない!全部、全部「本家」の命令、「お父様」の命令!わたしはなにもしらない!だから、お願いします!お願いします!殺さないでください、殺さないでください!お仕置きはやめてください!お仕置きはやめてください!ちゃんと言う通りにするから!いい子にするから!ちゃんとたくさん殺すから!しゃべるから!だから痛いことしないで!怖いことしないで!お願いお願いお願いおねがイongi!pxdpuatgjdaーー!!」


 「な、お、おい!」


 

 泣きじゃくった桃色髪の女の子が発狂しながら走って逃げ出した。

 



 最後らへんは意味不明な、もはや言語ではないなにかをーーまるで恐怖を表す音を吐き出していたが。




  とりあえずハルとシャルは追いかけて、走りながら少年は金髪美少女をジト目で見た。


 「………大人げねぇー」


 「ハルくんに言われたくありませんねぇ。だけど一つだけわかったことがありますぅ」


 「わかったこと?」


 「はい。ドロフォノスが、アレス騎士団に喧嘩を売ってきたってことですぅ」


 やる気がなさそうに見える顔をしておいてなかなか乱暴なことを言うシャルに、ハルは笑った。


 「はっ!お前おもしれーな!いいぜ、その喧嘩俺も参加してやる。つーかさせて。楽しそう!」


 「お祭りじゃないんですけどねぇ」


 「ーーいやぁぁぁぁぁぁあああああ!!」


 と、突如悲鳴がお菓子の世界に響き渡る。事態の急変を察知した二人は速度を上げて進む。



 そうして悲鳴の発信源、あめ玉がたくさん転がる場所でシルエット・ドロフォノスが頭を押さえながら苦しそうに絶叫していた。


 「いや、いや、いやぁぁぁぁ!!やめて、やめてくださ、い!やめてください「お父様」ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」


 「おい!どうした!」


 「ーー!待ってください、ハルくん!」


 ハルがシルエットに寄ろうとして、しかしその瞬間腕をシャルに掴まれーー直後に世界が割れた。

 


 バリバリバリバリ!バリン!!と、お菓子の世界にヒビが生まれ、砕けて、割れていく。

 

 「魔法の暴走……?」


 「んなこと言ってる場合じゃねぇ!」


 足場が失われていき、ハルは冷静に観察しているシャルを抱き寄せて跳躍し、世界の崩壊から逃げるように様々なお菓子を足場にシルエットから離れていく。



  それを失敗だと思った。

 ハルは舌を打ち、シャルを下ろすと来た道を戻った。


 「ハルくん!?」


 「あいつを置いてくわけにもいかねーだろ!お前は一人でここから抜け出せ!」


 「ハルくん!」


 シャルの引き留めるような声を無視して、ハルは一気にシルエットを目指す。



 嫌なものが重なった。

 あの時助けられなかったエマと重なった。

 罪人でも、まだ子供じゃないか。

 なんであんなに苦しんでいたのかわからない。でもすごく痛そうで、助けを求める顔をしてた。


 「シルエット!」


 「た、たすけて、たすけてえええええええええええええええええええええ!!」


 ゴァ!!!と。世界の崩壊が勢いを増した。そしてそれは破壊の侵攻速度を上げる。



 シルエットが、世界の裂け目に落ちた。

 暗い、闇の中へと落ちていく。



 まるで、助けを求める子供を嘲笑い、罪人の道へと突き落とすように。


 手を伸ばすが、届かなかった。


 「ーー!シルエット!!」


 「………た、すけて。……ま、ま」


 そのまま、お菓子の空間が暴走する。

 「術者のイメージ通りに構築」されるという絶大な力を保有する魔法が、シルエットの制御を離れる。


 ーーそして、それこそが「本家」の真の目的、第一段階だと、さて「駒」である「廃家」やハルたちは気づけたか。


 何も出来なかった。

 そのまま、ハルとシャルは崩壊の裂け目に呑まれていった。



:::::::::



 ーーどこかの暗闇。

 長いテーブルと椅子。そこに座る七人の人物の内の、主席に腰掛ける影が微かに唇を緩めた。

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