『二章』⑨ 思わぬ幸運
第一回魔力源争奪戦。
勝者=無し。
という結局何がしたかったのか分からない結果に終わった争いは幕を閉じ、けれど話は意外な展開に進んでいた。
「………今なんて?」
港のその停泊場。
アレス騎士団の、そうとは分からないように欺瞞してるらしい大型船の前で、アカネたちは首を傾げていた。
シャルロットは言う。
「ですからぁ。途中までだったらご一緒してもらっても構いませんよぉ。''メランポタモス"は通りますしねぇ。片道ですけど、それでもいいなら私たちの船に乗ってください〜」
あんぐりと口を開けたままハルとユウマは固まり、アカネとセイラは互いに目を合わせた後それぞれ口を開いた。
その心遣いは大変有り難いのだが。
「い、いいの?何か仕事とかあったんじゃないの?」
シャルロットは肩を竦めて、
「それは言えませぇん。でもアカネさんたちが困ってるなら放っておくわけにもいきませんからねぇ。街に送るくらいなら支障はありませんよぉ」
自分より他人という考えの、その一端を見たような気がした。
なるほど確かにこれは、ある意味危ない。
頼り切ってしまう。
コレが正しいのだと思い過ぎてしまう。
「欺瞞術式を組んだアレス騎士団専用の船に一般人を乗せて、お前たちは平気なのか?私たちがこの船に細工をする可能性だってあるぞ」
「せ、セイラ……」
乗せてもらえる可能性が無くなることを言ったセイラにアカネは戸惑いつつも、確かに向こうが懸念すべきことでもあると理解する。
決してそんなことはしないと言い切れるが、どれだけ話しやすくてもシャルロットたちは国直属の人間だ。
例えば総理御用達の車にその日知り合ったばかりの人間を乗せるかと言われたら答えはノーだろう。
ーーコレが目的で近づいてきたという疑念が生まれるのは自明の理だ。
だがしかし、シャルロットは微笑むと言う。
「それには心配及びませぇん。この船は使用後廃棄して術式も滅却、新しいものに書き換えますのでぇ。……それにアレス隊長が先にアカネさんたちに話しかけたんですよねぇ?それならアカネさんたちが私たちに何かしようと近づいてきたという線は限りなく薄いですぅ」
「そう仕向けたかもしれないぞ?」
「そーゆーのを防ぐための私服ですよぉ?船を使用する際も港は更新しますぅ。私たちがどの港に行きどの船を使うのかを知るのは、部外者には不可能ですねぇ。情報を手に入れることもでぇす。他に何かありますかぁ?」
首を傾げて笑うシャルロットに、セイラは試していたことはバレていたなと思ったのだろうか。唇を緩めると握手を求めるように手を出した。
「非礼を詫びよう。本音を言えば非常に有り難いと思っている。ありがとう。改めて名乗ろう。私はセイラ・ハートリクスだ。よろしく」
シャルロットはセイラの手を握り返して、
「気にしないでくださぁい。私はそういうの、結構好きなタイプなんでぇ。あ、私も名乗った方がいいですかねぇ。……改めまして。私はシャルロット・ガーデンですぅ。どうぞ気兼ねなくシャルとお呼びくださぁい」
そう微笑んだシャルの後ろで、ハルとアレスが大食い対決しているのが見えて、ユウマはナギに絡まれてケーキを無理矢理食べさせられ、ギンはアルストにモフモフされていて。
仲がいいのか悪いのか分からない、途中下車だけど大所帯となった温泉街までの船旅に少し不安を覚えながら、サクラ・アカネは大きなため息を吐いていた。




