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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー泥犁暗殺篇ー
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『二章』⑦ 特異点の男


 

 一悶着があった店内が、変な静寂に包まれた。


 その原因は一人の青年だった。


 火山灰色の髪に雪より白い幻想的な瞳に端整な顔立ちは、世の女性を魅了しそうではあるがアカネにはピンとこない。


 長身で着ている服はシャツに長ズボンとシンプルだがモデル体型なので似合っている(アカネにはピンとこないが)。

 

 ……倒れてた人だ、とアカネは少し驚きながら灰色髪の青年を見る。

 

 彼はズカズカと歩いてくるとなんの断りもなくいきなりアカネの手をギュッと握った。

 

 「特にお嬢さん。キミの立ち姿には惚れ惚れした!是非オレと付き合ってください!いや、もういっそのこと結婚とかーー」


 「するか!!!」


 とりあえず非常識な人間で第一印象は最悪だなと確定させたアカネは灰色髪の青年を思いっきり殴った。


 ゴキ!と頬に命中し、青年が「ぐは!?」と床に転がる。


 アカネは知らない男の人に触られた時に発生する女の子のザワザワとゾワゾワを無くすために(単純に触りたいから)ハルの手を素早く握った。


 「?何だアカネ。あいつになんかされたのか?」


 「触られた。それがもう嫌だったの。だからハルの手を握って浄化してる。消毒してるの」


 「?俺も同じ男だから、また消毒しなくちゃいけないんじゃねぇか?」


 「ハルはいいのっ。ずっとこうしてたいくらいなのっ」


 「どゆこと?」


 どこまで鈍感なのこの人は。


 と、結構勇気を出して好きですアピールをしたのに全く伝わっていない。


 落ち込めばいいのかホッとすればいいのか分からない複雑な心境の恋する乙女はハルの手を握ったまま(思わず頬が綻びそうになるのを必死に耐えながら)殴り倒した変態野郎を警戒するように見る。


 「あの、いきなり何ですかあなた。人の手を握ったと思ったら求婚ってデリカシーとかを生まれた時に置いてきちゃったんですか?」


 (…………スゴイ言う)と、ハルたちの心の声には気づかないアカネは灰色髪の青年を警戒したままだ。


 一方そんな彼はくわっ!!と大きく目を開くと飛び起きて何ごともなかったかのように立ち上がり、雰囲気だけはイケメン感をだして口を開く。


 念のためもう一度言っておくが雰囲気だけだ。


 絶賛鼻血中の野郎はいくら顔が良くてもバカならただの宝の持ち腐れなのである。


 「フッ。このオレに一撃入れるとはなかなかやるな、お嬢さん。オレの名前はアレスだ。アレス・バーミリオン。どうぞよろしく」


 「……はぁ、どうも」


 まだハルの手を握っているアカネはアレスと名乗った青年に胡乱げな目を向ける。

 


 一方で、青年の名を聞いた瞬間店内がザワつき、後ろではセイラが微かに目を見開いていた。

 アカネにハルとユウマ、ギンは首を傾げている。


 

 そんな周りの反応なんて気にしないアレスと名乗った青年はようやく鼻血を拭うとアカネと手を繋ぐハルを見た。


 「ハッ。なんだ彼氏がいたのか。悪いことしたなお嬢さん。手なんか繋いじゃってまぁ。ラブラブで何よりだ」


 アカネは顔を赤くして、


 「そ、そー見えるなら別にあたしは……」


 「何言ってんだお前。俺はアカネの彼氏なんかじゃねぇぞ?」


 「ですよね……。わかってた、わかってたよハルがそう言うことくらい。わかってたもん……」


 即答だったし天然無邪気な人だから逆にアカネは落ち込んだ。


 これがアカネを意識させるために敢えて言った台詞ならまだキュンとするのだが、彼がそんな上級者テクニックをするとは思えない。

 

 ガックシと肩を落とすアカネの反応を見て、アレスは気の毒そうな顔をした。


 「なるほど。苦労してるんだな、お嬢さん」


 「別にあなたに共感されても嬉しくないです…」

 

 「あれ、まさかのそーゆー返し?ってかお嬢さん名前は?」


 「教えたくありません」


 「まるで変態扱いじゃねーか!」


 「変態扱いなんですよ」


 逆にそれ以外にどう扱えばいいのか教えてもらいたいくらいであった。

 ともあれ。


 「それで。一体何なんですか?あたしたちに何か用なんですか?」


 まさかあの変態感丸出しの告白が目的だったわけではあるまい。

 

 しかしそんなアカネの考えをアレスは否定した。

 キョトンとした顔で。


 「あん?用ならもう済んだぞ。オレはお嬢さんに一目惚れしたから告白しに近づいただけだ。もうフラれたしこれといって他に用があるわけじゃない」


 「「何なんだよお前!」」


 ハルとユウマがつっこんだ。

 いやマジでその通りである。

 アレスは少し考えてから、


 「さぁ。何なんだろうな、オレ」


 「「知るかぁ!!」」


 結局名前しか分からない変態返上は叶いそうにない青年はもう無視しようとアカネたちは決めて、店を出ようとした。

 

 しかしその前に青年が言った。


 「まぁでも。用はねぇが興味は湧いたけどな」


 不敵にそう言ったアレスは口の端を好奇心旺盛に歪めていた。

 その白い目は、ハルを見ている。


 「お嬢さんの凛とした立ち姿に惚れたのは紛れもなく本当のことだがよ、それとは別に青髪。お前にもオレは興味を持ったぜ」


 「は?いきなりなんだよ。俺は別にお前に興味ねーぞ。……そっちの趣味もねぇし」


 「オレもねーよ!……そうじゃなくて、迷うことなくお嬢さんを庇って、尚且つ殴られたのにやり返さない男の器の大きさ。オマエ、強いだろ?」


 どこか確信めいた眼光と表情、声色にハルは目を細め、アカネは少し呆然となる。

 


 ただの変態かと思ったが、ハルが強いことをあれだけのことで見破るなんて。

 

 ハルはアカネの手を離し、残念そうにしゅんとした彼女の頭をポンポンと撫でてからアレスと向き合う。


 「強い。って言ったらどーすんだ?」


 アレスは「男」の笑みを見せて、


 「そんなもん決まってんじゃねーか。男なら「どっちが強いのか」気になるもんだろ?……まぁコレは私情なんだけどよ、今ちょっとスカッとした喧嘩がしたい気分なんだよ。嫌な仕事を押し付けられちまったからな」


 「……は。お前おもしれー奴だな。いいぜ、やろう。俺も丁度そんな気分だったしな」


 「いいね。そーくると思ったよ」


 二人の男の闘志が激しくぶつかり合い、店内の空気をビリビリ震え上がらせる。

 


 その瞬間、アカネの中でアレスという男が変態とは別に「この世界の人間」だと更新される。

 


 アレスのハルを見る鋭くも無邪気な闘志を宿す白い目が、「強いかもしれない」と思わせる。

 


 店内の客や店員がザワつき始める。さっきの喧嘩とは次元が違う空気が漂い始めたと理解したのだろう。


 しかし激突することはなかった。

 セイラがハルの肩を軽く掴んだからだ。


 「ハル」


 「ーー!」


 一言。

 怒るでもなく、ただいつも通りの親愛さを持ってセイラが呼ぶと、ハルはハッとなって闘気を引っ込め、振り返った。


 「あてられるな。ここでお前たちが暴れたら、店が壊れるだけじゃ済まないぞ。それに私たちは喧嘩をしに来たわけじゃない。そうだろう?」


 「………あ、あぁ。そうだ、ったな。わりぃセイラ。ありがとう」


 「んっ。それにアカネも、大丈夫か?」


 「えっ?」


 まるで正気に戻ったようなハルからセイラはアカネに振り返り、そして少女はようやく気づいた。

 むしろ、何故今まで気づかなかったのか不思議なくらいだった。


 ーーアカネは、大量の汗をかきながらブルブル震えて床にへたり込んでいた。


 「………っぁ」


 「無理するな。手をかそう」


 優しく笑んだセイラの手を借りて、アカネはゆっくり立ち上がる。ハルはユウマに頭を叩かれて、こちらに戻ってくる。


 ーーあてられるな。


 つまりハルはアレスの闘志に過剰反応して必要以上に力を、魔力を解放し。



 アカネはそんな二人の魔力にあてられて生存本能が悲鳴を上げ、体の芯がぐらぐら揺れて立っていることすら出来なくなった。怖くて、だ。


 一人の男の、この影響力。


 「………アレス・バーミリオン」


 印象が激変した青年の名をアカネは呟いて、そしてふと思った。

 アレス。

 この名前、どこかで聞いたことないか?


 「あーぁ。やっちまったなこりゃ。シャルの奴にどやされちまう。わりぃな青髪、お嬢さん。大丈夫か?」


 やりすぎた、というような顔でアレスは言う。

 


 ハルはムッとなって「全然平気だわぶっ飛ばすぞ火山灰!」「誰が火山灰!?髪色のこと言ってんなら戦争だぞてめぇ!」とか言い合う元気はもうあるらしいが、アカネにはまだそんな元気はない。


 何故なら思い出してしまったから。

 アレス、と言う名前をどこで聞いたのか。


 忘れるはずもなかった。

 だって、その名は。


 「………アレス、騎士団」


 「ん?あぁ、そうだよ。隠してたつもりだったんだが、流石に名乗ったらわかっちまうか」


 呑気に、ケロりと、アカネの言葉を肯定するように笑うと、戦神アレスの名を持つ青年は堂々とこう言った。


 世界と神の寵愛を一心に浴びた、この世の特異点としての迫力と威圧、『魂』の大きさを掲げて。


 「アレス騎士団第参部隊隊長。アレス・バーミリオンだ。ーー改めてよろしくな、お嬢さん?」

誤字脱字を教えていただきありがとうございます!

気をつけます!すみません!

減らせるように努力します!

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