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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー泥犁暗殺篇ー
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『二章』⑥ 変態野郎


 ーー港に着くまでの道のりは二時間ほどで、「クサントス」と呼ばれる種の馬が引く馬車に乗ってアカネたちはワクワクを胸に笑い合っていた。

 

 木漏れ日が美しい森の緑の中の道は絵画のような清麗さで輝き、鳥は唄い、動物たちは木々の隙間から顔を覗かし、風が吹くと葉擦れの音が妖精たちの微笑のように聞こえて。


 「着いたらなにする?まずメシか!風呂入りながらメシ食うか!」


 「馬鹿野郎ハル!激辛料理を美女たちにオススメするんだよ!」


 「喜ぶのかそれは」


 「そんなことより喋る女犬だよ!」


 「「「いい加減諦めろ!」」」


 森美を抜けた、整理された一本道の左右に広がるのは見渡す限りの草の翆の絨毯。


 燦々たる陽光をキラキラと照り返し、撫でられるように風に揺られて波打つ草原の海に、少し進めば世界が変わったみたいに彩りの花々の歓迎が待っていた。


 「おい見ろよユウマ!鳥が横になって日光浴してんぞ!」


 「あぁ?何言ってんだよハル。そんな鳥いるわけ………って何じゃあの鳥はぁぁぁああ!?自分がヒトだと錯覚でもしてんのか!?」


 「それにしてたってサングラスをかけるかね普通!」


 湖畔を通った。


 青く透き通る湖は世のケガレを知らない、神秘のような清らかさで、恋人たちを乗せるボートが湖を喜ばせるように波を、波紋を立たせ、手を振ると幸せそうに振り返してきた。


 透湖に映る太陽と鳥影が見事なまでに美しく、穏心を抱かせるように与えてくれた。


 「おいユウマ。セイラの寝顔に落書きしようぜ」


 「じゃあどっちが面白く書けるか勝負だな」


 「よしノった。じゃあまずは眉毛を太くしてから口の周りにヒゲを……」


 「ぷ、くくく!おいハルそれはいくら何でもやりすぎだぞ……くくくくく!」


 「よし出来た!……うわ、誰だこいつ」


 「よーし次はオレがーー」


 「おはよう、友よ♡」


 「「………あ、おはようござーーうぎゃぁぁぁぁああぉあああああああ!!!?」」


 

 異世界は、こんなにも美しいのかと思った。


 絶景。


 自然の美迫。

 

 元の世界では決して体験出来なかった景色の感動

が、アカネの心をどこまでも浄化し、その横で友達のくだらなくて、けれど平和な会話がアカネの心をどこまでも満たしてくれた。


 楽しいと、本気で思った。

 たくさん笑って、驚いた、新鮮な二時間。

 だから"メランポタモス"に着いたらうんと楽しんで、思い出を作ろうと心を躍らせて港に向かっていたのに………。



 「船が動かない〜!?」


 変な灰色髪の青年を見たすぐ後だ。

 

 招待状に記載されていた温泉街行きの船に来てみれば、その船が動かないという。


 アカネはあからさまに肩を落とし、その頭をポンポン撫でるセイラ、ハルはそんなアカネを見ると船長の男の胸倉を掴んで、


 「おい何で動かないんだよ!俺たち温泉楽しみにしてたのに!みろ!お前のせいでウチのアカネがこんなに落ち込んでんじゃねーかどうしてくれんだ!」


 「そう言われましても原因不明でして、私にはどうすることもー!」


 「どうにかしてごらんなさいよ!それがお前の仕事だろうがよ!」


 「いや私の仕事は船を運転することでー!」


 「言い訳してんじゃねぇー!!」


 つまり何をどうしたところで船は動かないらしい。


 ようはエンジントラブルみたいなもので、浮遊城でぶった斬ったあの魔力源の水晶球の小さいバージョンが魔力を船に送らなくなったらしいのだ。


 アカネは十分に理解し、そして現実をしっかり受け止めるとハルに気にしないでと笑った。


 「ありがとうハル。あたしは大丈夫だよ」

 

 ハルはまだ納得できないみたいに船長とアカネを交互に見ている。

 アカネは苦笑して、


 「ホントに大丈夫だから。温泉街に行けないのは残念だけど、ここまで来るだけでも十分楽しかったもん、あたし。だから平気。ありがとう」


 「……ぐぬぬ。アカネが、そう言うなら、いいけど……」


 ハルはアカネの笑った顔には弱いと一ヶ月一緒に生活してわかったことだ。


 仕方なくと言った感じで船長から手を離し、でもやっぱり気にしてるのか、船から離れるその去り際にハルは大声で、


 「アカネの優しさに免じて許してやったんだからなコノヤロー!アカネに感謝しやがれー!」


 そんな捨て台詞を吐いたハルを連れて、アカネたちは港の街に足を運んだ。

 磯の香りが立つ、市場のような景観。

 

 「……どうしよっか」


 賑わう市場の入り口の前で、アカネは言った。


 どうするも何も帰るしかないのだが、流石にここまで来てすぐ帰るわけにもいかないし。

 

 「とりあえず、ご飯でもいく?」


 アカネ以上に落ち込んでいるハルとユウマ、苦笑しながら二人の頭を撫でるセイラに、肩に乗るギンに少女は訊いた。

 

 ーー確かに温泉街に行けなかったのは悲しいけど、でもそれ以上にみんながあたしを思って落ち込んでいることが、ちょっと嬉しくて。


 「……食べ放題」


 「綺麗な女の人……」


 「あたしの感動返して」


 スッと真顔になった。全然違う理由だった。

 

 頭の上にハテナを浮かべる二人は無意識に言ったと分かるから怒る気にもなれない。


 息を吐き、昼食に手頃な店を探す。市場だし、海の近くだし、海鮮?が人気らしい。

 見回して、見つけたのは……。

 

 「……何でも処」

 「何でもありそうだな」

 「何でもありそうだ」

 「何でもありそうにしかみえんな」

 「何でもありそうだね」


 そんなわけでアカネたちは何があるか分からない何でも処に入っていった。



::::::::



 「ーー何やってるんですかぁ、アレス隊長ぉ」


 「え、オレのせい?」


 港に浮かぶ中型船の中、アレスはヒビが魔力源エンジンを両手で持ったまま副隊長の冷たい視線に慌てていた。


 シャルロットは青い水晶球ーー魔力源をみて、


 「何でアレス隊長はそれに触ったんですかぁ?アレス隊長が魔道具系に触ると壊れるって、これ自他共に認めていることですよねぇ?馬鹿なんですか?アホなんですかぁ?」


 「いやまさか指で触れたくらいで壊れるとは思わないでしょ?こんな球が置いてあったら触りたくなるのが男の子じゃない!」


 「いい年した青年が何言ってるんですかぁ。好奇心旺盛は一〇代の時に置いてきてくださいよぉ。アレス隊長はもう少し自分の力を考えた方がいいかもしれませんねぇ」


 「それはケナしてんの、褒めてんの。どっちなの」


 「どっちでしょうねぇ」


 とりあえずバカでアホな隊長から魔力源を取って、シャルロットはアルストとナギへ向いた。


 「で。またしてもアレス馬鹿隊長がやらかしちゃいましたけど、お二人はコレ、どうすればいいと思いますかぁ?」


 動力源がないなら船は動かない。

 船が動かないなら島には行けない。

 

 ーー刑執行日は一週間後のニ七日。


 泥犁島ないりとうまでは船で三日だが、ただ罪人を殺すだけじゃないから諸々の準備が必要になる。


 そのために少し早く行くのが決まりになっていた。

 

 そして、泥犁島ないりとうは渦潮が激しい海域にして海獣棲息区域のど真ん中。


 故に簡単に誰も近づくことは出来ず、その環境を利用して罪人収容施設が建築されたわけである。


 簡単に近づけない。


 これは特定の手順を踏まない限りアレス騎士団も例外ではなく、それに必要なのが一般船に欺瞞した騎士団専用の船だったのだが。

 

 ーー見事にアレスがぶち壊して、さっそく前途多難、いやお先真っ暗の未来であった。

 

 明るい紺、毛先が夕暮れ色の髪の毛を長く伸ばしたナギは正座待機をさせられているアレスの頭に懐から取り出した生クリームをかけながら、


 「とりあえず代わりの動力源、もしくは船を探すしかないでしょうね。もちろんこのバカが」


 「なぁナギ。そろそろ生クリーム地獄やめてもらえませんかね。視界が生クリーム一色なんだけど」


 「幸せ者ね」


 「感性がわからん」


 そんな二人からシャルロットはアルストに視線を振って、

 

 「アルさんはどうおもいますかぁ?」


 「おれはお前らに任せるよ。アレスにケジメをつけさせるなそれでもいいし、そうじゃないなら海に沈めて海獣の餌にすればいいだけだ。……そうだよな、スマイルくん」


 サラッと怖いこと言ったアルストは手に待つ犬のぬいぐるみに話しかける。


 相変わらず変わった趣味をしてるなぁ、と思いながらも一応アレス以外の三人の意見は一致していた。


 「じゃあアレス隊長ぉ。私たちはここで待ってるので代わりの船か新品の魔力源エンジンの調達お願いしますねぇ」


 生クリームまみれ野郎は冷静に、


 「その前にシャワー浴びてもいいか?このまま外に出たらオレは確実に不審者扱いだ」

 

 アレスのその発言にシャルロットは眉を顰めて、


 「?いつもと変わらないですよぉ?」


 「それどういう意味!?オマエまだこの前のこと気にしてんのか!?」


 シャルロットは影しかない笑顔で、


 「気にしてませぇん。そんなことより早く行ってきてくださいブチ殺しますよぉ☆」


 「忘れてるかもしれないけどオレ一応隊長なんだけどーーーー!!」


 アレスの叫びも虚しく、彼は生クリームの鎧を装備したまま船の外へと繰り出していった。



::::::::



 ーー結論から言って何でも処は本当に何でもあって、それはもうハルの胃袋を満たせるくらいに何でもあった。


 安くて量が多いが売りの何でも処はハルにピッタリだったと言える。

 

 そして現在。

 

 アカネは食後の冷えたミルクティーを飲み、ハルはアイスを食べ、ユウマはトイレに行き、セイラはコーヒーを嗜み、ギンが毛並みを整えているゆったりと時間に、それは起きた。


 「おい何してくれてんだババァ!?」


 と、乱暴な声が穏やかな店の空気を破った。

 店内にいる客や店員の視線が自然とそちらに集まり、ハルたちも目をやった。


 「なんだなんだ?喧嘩か?」


 「何でちょっとワクワクしてるのハル」


 視線の先、何でも処の出入り口前で柄の悪い若い男二人組が子連れの若い女性に絡んでいた。

 

 ……絡んでいるというより、漫画とかでよく見る肩がぶつかって怒った的な雰囲気に近い。


 紫髪のキレイな女性で、子供は七歳くらいだろうか。


 母親は子を庇うように頭を下げて謝っている。

見る限り、どうやら子供が食べていたアイスが柄の悪い男の服についてしまったようだ。


 「すみません、ウチの子が!こちらの不注意でした、すみません」


 「おいおい!謝れば済む話じゃねーんだよババァ!どうしてくれんだ俺の服!これ高かったんだけどなぁ!」


 「すみません!本当にすみません……」


 何度も頭を下げる若い母親だが、しかし柄の悪い男は親子を許す気配はなく、幼い子供は男の怒気に怯えて今にも泣きそうだ。母親の服をギュッと掴んで離さない。


 「何あれ。ちょっと服が汚れただけじゃない。あんなに怒らなくたっていいのに」


 男の度を超えた怒りに不機嫌になるアカネを見て、ハルがアイスを食べながら、


 「暇なんじゃねぇか?」


 「だったら余計にタチが悪いよ!」


 「え、はい。そうですね……!」


 何で俺が怒られるの?みたいな感じでアカネの気迫に圧されたハルがアイスを食べる手を止めた。

 

 そんな彼らの近く、カウンター席ではどこかで見た気がする灰色髪の青年が頭に生クリーム?を乗っけながら呑気にご飯を食べている。


 「弁償しろよ弁償!金払え!五万$だ!」


 「そ、そんなに払えません!どうか許して頂けないでしょうか……っ」


 「払えねぇだぁ?じゃあ俺の服はどーすんだコラ!」


 その怒鳴り声に、ついに子供がわんわん泣き始めた。


 店内にその声が響き、我関せずだった他の人たちまでもがイライラし始め、男たちではなく、親子を睨む。

 

 その間違った光景に、アカネのイライラがメーター振り切らんばかりに上がり始めて、


 「大した服じゃないわよあれ!ダサいし!」


 「そーか?」


 「ドクロマークに鎖て!中二か!」


 「いや知らねーよ」


 アカネが育った世界のダサさ基準を知らないハルは冷静にそうツッコミを入れる。


 ドクロマークと鎖がダサいの金字塔だと何故あの柄の悪い男は気づかない。

 

 そして我慢の限界だった。

 柄の悪い男がわんわん泣く子供にイライラしてさらに怒鳴り、手を出そうとした時。


 「いい加減にしなさいよダサ男!」


 そう言って、アカネは席を立ち上がると店内の視線を独り占めにしながら騒ぎの中心に歩いて行った。



:::::::


 親子を守るように男たちの前に立ったアカネの青い瞳が、怒りを露にして光る。


 彼女のその行動をポカンとしながらハルとセイラにギンは見送った。


 「いい加減にしてよあなたたち!服が汚れたくらいでそんなに怒ることないでしょ!子供だって怖がってるじゃない!」


 男たちは突然の介入者に一瞬呆気に取られ、しかしすぐに怒りの矛先をアカネに変えた。


 「誰だテメェ!関係ねぇやつは引っ込んでろこのブス……じゃねぇなおい!とにかく黙っとけ!」


 ハルはその男の発言を席で聞いて、


 「何だあいつ。いい奴なのか、悪い奴なのか?ハッキリしろよ」


 「多分根はいい奴なんだろうな」


 とか言うハルとセイラに気づかないアカネは親子をチラリと見た後、


 「黙るのはそっちよ!服にアイスが着いた、だからなんなのよ。洗濯すれば済む話しでしょ!それにこの人たちは謝ったじゃない!悪気があった行為ならともかく、そーじゃない人たちに弁償をさせる?器が小さいにも程があるわ!」


 ズカズカ言うアカネに対して、反論の余地がないと自覚したのか、男たちは言葉を探すように焦り始め、ついにはカッとなって苦し紛れの言い訳を放つ。


 「う、うるせぇ!そもそもぶつかって来なきゃこんなことにゃなってねーんだよ!こっちは金さえ払えば許すって言ってんだ!とっととそうすりゃいいだけの話しじゃねーか!


 「それがおかしいって言ってんのよ!怖がってる人たちを脅すような真似して何が楽しいのかあたしにはちっともわからないわ!恥を知りなさい!」


 

:::::::::



 ーーアレス・バーミリオン。

 アレス騎士団第参部隊隊長。

 灰色の髪に白い瞳の好青年は、その時。食事の手を止めてただ呆然と彼女の姿を見ていて。


 「……………、」


 一度としての姿を見たことはないが、それでもアレスは人知れずこう思い、ただ圧倒され、世界の真の正しさ、輝きを見るように、眩しいモノを見るように、白の瞳にその少女を映した。


 ーー世界を救い、世界を愛し、神を愛し、そして誰よりも人を愛した初代国王、ローラ・アルテミス。

 

 月花アクロポリスにある銅像が、いいや彼女の『魂』が親子を守る為に天界から舞い戻ってきたのかと、そう思った。


 ただ、ただただ。

 高潔で、誇り高く、勇ましく、優しく、美しく。

 ーーその少女が太陽のように輝いていた。



:::::::



 かつていじめられて、悲劇の沼に浸かり、ボロボロになって惨めに地面を這いつくばって救いを求めた少女とは思えなかった。

 


 異世界で過ごす一ヶ月は。


 いいやエマとの出会い、あの激動の二日間は、彼女の意志を、『魂』の在り方を変えるには十分過ぎたらしい。

 

 今、目の前で起こっている理不尽は、正しく正義が回らない形の一つである。

 

 「歪んでいる」の、その証明。

 

 そもそも子供が泣いているだけなのに周囲の人たちが男たちではなく親子に冷視を向けた時点でおかしいとは思っていたのだ。

  

 多分、エマが言っていたことは、こーゆーことでもあるのだろう。

 『コレ』を正さない限り、彼女とアカネの夢は決して叶うことはない。


 「言葉は暴力にもなり得る。自己的な暴力は絶対に許されることじゃないの。寄ってたかって親子を苦しめて、無抵抗なのに怒りを飛ばして。服の弁償?……笑わせないで。服は直せても、傷ついた人の「心」は簡単には治せない。消えないのよ。あなたたちに、お金より価値がある誰かの人生の責任を取る覚悟はあるの!?」


 「ぐ……っ。う、うるせぇんだよこの女が!」


 言葉では勝てないと思い、暴力はダメだと言われたばかりなのに男は愚行に出る。

 

 暴力の行使。

 だがアカネの瞳にその拳を恐れる感情はない。

 

 ここで避けたらこの親子を守れない。避けてしまったら自分の言葉が、エマの想いが間違いだと認めてしまうことになるから。

 

 だから絶対に避けない。

 

 そして。


 ゴキ!!と。

 頬を殴った鈍い音が店内に響き渡った。

 ーーただし、アカネの頬が、ではない。


 「……俺からも一言いいか?」


 「ーー!」


 ハル・ジークヴルム。青色の髪をした少年の頬に男の拳がめり込み、彼の顔は赤く腫れ、鼻血を出して。けれどハルは男を睨んで言った。


 「自分てめぇの医療費を出したくなかったら今すぐ消えろ。痺れるだけじゃ済まねぇぞ」


 「…………っ!」


 格下だと自ら理解したらしい。男たちはハルの眼光に怯むと捨て台詞すらなく逃げ出すように店を出て行った。


 アカネはハルの介入に少し驚いて、そしてすぐに怪我をさせてしまったことを謝ろうとした。

 だけどその前に。


 「ほら見ろよコレ!すっげぇだろ!おっちゃんに頼んで五段アイスにしてもらったんだ!」


 ハルは笑って、手には五段アイスを持って泣いていた女の子にそう言った。


 女の子はハルの笑った顔に安心したのか、それとも幼い感性が味方だと思ったのか、すぐに泣き止むと目を輝かせてアイスを見た。


 「わぁ……!」


 ハルはにっとさらに笑って、


 「にっししし!コレ食って元気だせ!また悪い兄ちゃんに絡まれたらキンタマ思いっきり蹴っ飛ばせば大丈夫だ。だからもう泣くな!お前が泣いたら母ちゃんも悲しむからな」


 女の子はアイスをハルからもらうと元気よく頷いた。


 「うん!お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう!」


 明るく笑ってそう言って、母親が何度も何度もお礼を言ったあと、親子は店を後にした。


 そうして店内には騒動前の穏やかな喧騒が戻り、

アカネは鼻血を拭ったハルの手を優しく握る。


 「ごめんね、ハル。あたしのせいで。あたしがカッとなったから……」


 ハルは気にするなと笑って、


 「アカネは何も間違ってない。何も悪くない。だからアカネには何も責任はない。アカネも〈ノア〉なんだから、自分が正しいと思った行動なら謝るな。それを俺は、俺たちは肯定するぜ」


 「ハル……」


 頭の上にギンを乗せたセイラも歩み寄ってくると誇らしい友を見るように笑って、


 「その通りだ。私は今のアカネの行動を誇りに思うよ。自慢の仲間だ」


 「そうそう」


 「セイラ、ギン……」


 本当にいい人たちだなと、泣きそうになった。

 泣きそうになって、感動したのに。


 「ーーお前ら好きだ!!!」


 と、灰色髪の少年がいきなり席から立って大声でそう言い、店内の視線を総取りした状態でなんの恥ずかしげもなく立っていて。


 「「「「へ、変態じゃねぇか」」」」


 見事に引いた三人と一匹はそう言って。


 「…………どういう状況?」


 トイレから帰ってきたユウマが手を拭きながら首を傾げていた。

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