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間話 ー黒の女神ー
「ーーふん、ふん、ふふん♪」
世界の片隅で、機嫌が良さそうな鼻歌があった。
「少しは楽しめたかしらね。罪人如きにしてはよくやってくれたわ」
肌の露出が多い黒いドレスを着る、まるで死そのものを纏っているような、黒衣の、長い黒髪の、妖艶な美女。
その姿とは不似合いな可憐な鼻歌を口ずさみ、彼女は手の中で仄かに淡く、青色に光る掌サイズの水晶球を弄んでいる。
「アラ・セスタに〈空の瞳〉。ようやくね」
笑う。
不敵に笑う。
世界をオモチャに見ている、その瞳の黒さ。
やることはやった。
第一段階の準備に入るとしよう。
「ーー始めましょうか。真の『英雄の逆襲』を」
世界に激震が走る。
人の思いも情も喰らい尽くして巻き込んで。
「ふん、ふん、ふふん♪」
ーー「女魔術師の保護者」。
あるいは。
ーー「死者達の王女」、「死の女神」。
誰にも止められない死の歯車が、動き出した。




