『一章』㊸ 薔薇と星王
ーー勝負は一瞬だった。
「死・醜鴝!!」
シェルサリア・ロスターが紙で形成された巨大な鳥を解放する。
魔法を取り戻したセイラ・ハートリクスの魔力に恐怖して、一気に勝負を決めようとしたのだろう。
既にボロボロ、満身創痍、あと一撃でも入れば勝ちは確定なのだから、力技で叩き潰すと。
ーーだが、どこまでもその一撃が遠い。
魔法を取り戻したはずのセイラは、しかし、一度足りとも魔法を使わず脅威的な動体視力、反射神経、運動能力だけでシェルサリアの攻撃を躱していく。
ーーさて。
少しだけ昔の話をしよう。
アーセル・ドラコニス。
凶悪部族・ザクロイを撃退した伝説の英雄。
ザクロイは真暦五〇〇年末、魔法がまだ芽吹いていない時代ーー『雑食』として恐れられたアングロ人が集まった部族。部族集団の形成期に髪型や武装を共通の帰属概念とし、男は髪を長く伸ばし、女は短く刈り上げていたとされる。
アングロ人は『王国』外、南西部に集落を築き、
その『雑食』性も相まって繁殖率は極めて高く、子孫繁栄のために近くの村や町から若い女性を誘拐し『子生み』として利用した。
その後利用した女性は文字通りアングロ人の『栄養』となることが残酷な運命とされており、ザクロイに連れ去られたら最後、二度と故郷に戻れることはないとされていた。
しかしそんな凶悪部族の命運は、とある一人の少女を連れ攫ったことで尽きることになる。
その少女の名が、アーセル・ドラコニスである。
彼女は当時にしては極めて珍しい、固有魔法の発現者。
天の神々がまだ魔法の祝福を限られた人間にしか与えていなかった時代に、神の寵愛を授かったのがアーセル・ドラコニス。
彼女は"アヴァロン"と呼ばれる小さな国の孤児で、近くの山に出掛けたらザクロイに捕まった。
魔法が栄えていない時代、身を守る術は武力しかなく、そしてその武力に長けていた部族集団・ザクロイ、アングロ人は常に高みから人々を見下し喰らう側で、そのことを知っていた彼女は自分の中に眠る力を知らなかったために恐怖する。
その力が覚醒したのは喰われる寸前。
感情が爆殺した瞬間であった。
黄金色に輝く、剣と鎧。
聖なる武具が彼女に力を与え、たった一振りで山を割り、鎧は刃を通さなかった。
その功績は瞬く間に世界中に広まり、アーセルは"アヴァロン"に帰還後、救いの象徴として、なおかつ自らの意思で騎士王の戴冠を得る。
アーセルがザクロイを滅ぼした戦いを。
「アドニクスの戦い」と呼んで、アーセルのその勇敢なる姿と『魂』の輝きに惹かれて十一人の騎士が集まり、一つの円卓を囲った。
そしてアーセルを含めた十二人の騎士達はのちの時代に『円卓の騎士』と呼ばれ歴史に語り継がれることになるーーーーーーーー。
ーー今から演じられるのは薔薇とA級指定罪人・シェルサリアの戦い。
シェルサリアの固有魔法は紙魔法。形状も質量も魔力量や想像力でいくらでも変えられる。
そして対するはセイラ・ハートリクス。
彼女の魔法を知っている者は多いが、しかし実際にその全貌を知る者は少ない。
いわく、正しい接続をした場合『本人』が強くなるという。
「ーー逆襲。一方的な嬲り殺し。貴様の戦う理由がそれなら、貴様は私には勝てない」
「ーー!?」
紙の剣の嵐を避けながら、セイラの体が赤色の魔力に包まれーー黄金色に変わる。光る。
「理由は様々だ。それを全て否定するつもりはない。貴様にも訳があるのだろう。ーーだが」
それはーー変化、あるいは変身であった。
黄金色の魔力の光がセイラの全身を包み込み、一際強く輝くとその姿現れた。
「ーーな」
言葉を失うシェルサリアの瞳の向こうに、一人の英雄が勇ましく立っていた。
金色の髪をポニーテールで束ねる、青色の瞳の凛々しくも美しい女性。金色の薄い鎧を纏い、金と翡翠を混ぜた超美に光る刀身の宝剣を握る、紛うことなき英雄の姿。
「ーー貴女の理由に。私の理由が負ける道理は決してありません」
口調が変わる。
心なしか、顔つきも、体つきも。
「……初めて見るわ……。それが、その古失魔法がーー」
「私は愛する友のために。愛しい世界のために剣を取り、悪と戦う」
金の少女がーー剣を掲げて。
光が収束し、発光して。
「過去の英雄の力を宿す魔法ーー!」
「私の後ろに民が、隣に友がいる限り。私が膝をつくことはない。涙が流れることはない。この剣の輝きに誓う!友の悲しみは、私の痛み!友の苦しみは、私の哀しみ!全てを守り通し、全ての悪意をこの私が浄化しますーー!!!」
カッ!!!!!!!と。
振り下ろされた宝剣が絶大な光を解き放ち、一人の罪人を、その魂の悪意を浄化するように果てしなく呑み込んだ。
「ーー貴女の魂が、救われますように」
ーー英霊魔法。
ーーNo.三・アーセル・ドラコニス。
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ーーそしてまた、こちらの戦いも終息が近い。
「いい、いいぞ!いいぞアストライオスうううううううううう!!はははははひはあはあは!」
「悪りぃな。ちょっと疲れたからテメェに付き合う時間はそんなにねぇ」
「ーー!?」
A級指定罪人・ザクス・シード。
筋骨隆々とした彼の体は竜人族のソレだった。
水の国に住むと言われている誇り高い種族。その魔力量と戦闘能力の高さから、神に最も近い亜人族だとされている。
尖った顔に爪や脚、大きな翼。黒色の竜人は、ブレスをユウマ・ルーク目掛けて解放するが、彼はその一撃を片手を振るっただけで薙ぎ払う。
「なんだと!?」
「そんなに驚くことか?ハルでもこれくらいできんのによ」
余裕な態度でそう言い放ち、そしてユウマは片手を頭上に挙げた。
ーー緋色の魔法陣が浮かび上がり、脅威的なプレッシャーがザクスを襲う。
「ーーは、はは、は!なんだ、なんだそりゃ!」
「てめぇらは手を出す相手を間違えた」
冷酷に告げて、しかしユウマに集まる力の奔流はどこまでも熱い。
酒場区域の天井が溶け始め、夜の空が覗き、そして束の間の昼が訪れる。
白く、眩く、赤く、照らされて。
ギュィィィィィイイイイイイイイイン!!と。
拳大、ボール大、人間大、建物大……みるみると大きさを変えて、最終的には星を思わせるほどの巨大で強大な火色の光球が顕現し、ユウマの掌の上で対象を焼き殺す快感を待つ。
「アカネに手を出した時点で。オレたちの仲間に手を出した時点で、てめぇらに明日ってやつはねぇ。これは確定事項だ。よく覚えとけ」
「はっ!!そんなもんなんだっていい!俺は俺が楽しめればそれでいいって言ったろうが!さあ、早くそれを俺にくれ!俺はそれを必ず超えてやる!」
「てめぇのイカれた感性に付き合ってる暇もねぇんだ。実力を履き違えるなよ、雑魚が」
「なにをーー」
「おい、魔獣大サーカス」
「?」
牙を剥いて笑っていたザクスに、最後、ユウマが言った。訊いてみた。
絶対に知らないことを。
これから知ることを。
「星の熱さを知ってるか?」
「は?」
「知らねぇなら覚えとけ。ーーこれがてめぇの知らねぇオレの熱さだ」
「ーーな」
火色の光球がユウマの手から解放。
周囲の全てを溶かしながらザクスの体を融解するように呑み込んでいき、星の地下まで抉りながら進んでーー底の見えない空洞の果てに一人の罪人がどこまでも落ちていった。
「ーー火加減は、出来なかったな」
ーー星天魔法。
ーー星王・火星。




