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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー独姫愁讐篇ー
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『一章』㊶ 雷vs浮遊


 ーー神の力と復讐の力が激しくぶつかり合う。


 「雷漸らいぜん!!」


 「空杭からくい!!」


 浮遊城の地面を駆けて、勢いよく跳躍したハルの右手に久しぶりに思える感触が荒々しく集まる。


 稲妻を使役した、空の怒りを託された青白い雷槍が、ハルの右手から解放される。

 

 その一撃に対して。

 

 殺戮の復讐者ティーシポネは躱すのではなく正面から相殺することを選択。


 隣に侍らせていた城の外壁の残骸を一瞬で改修工事をし、杭に形成、大気を麻痺させながら迫る雷槍とーー衝突した。


 ドガァァァアアアア!と、岩と雷が会敵すると直後に轟音、青白い光りと石の破片が花火のように散って地面へと落ちる。


 「空ばっか飛んでないで、下に降りてこいよ」


 「うるさーーな」


 「心配しなくても、誰もお前を見下さない」


 フッ、と。

 地上にいたハルの姿が一瞬で消え、驚愕した時にはもうすでに彼はエマの眼前にいて、雷を纏った拳を握りしめ、振り抜いていた。

 直撃。


 「ぶゴァ!?」


 その整った顔面に、ハルの拳がクリーンヒット。

 ブサイクに歪んだ顔のまま、エマの体が地面へと猛スピードで落下、着弾と同時に破壊が地面を駆け巡り、めり込んだ。


 「ご、がらばぁ!?」

 

 「こんなもんじゃねぇぞ」


 「まーー」


 「こんなもんじゃねぇぞおおおおお!!」


 一体どう表現すればいいと言うのか。


 ともあれその拳の形をした力の集合体が、地面にめり込んで倒れたままのエマの腹部を狙って振り下ろされ、めり込み、くの字に折れ、ダメ押しとばかりに再度大地が抉れた。


 「が、ぁぁぁあああああああああ!?!?」


 「まだまだぁぁああああああ!!」


 反撃が、追撃が、圧倒的な実力が、止まらない。

 

 めり込んだエマの足を持ち上げ、猛スピードで回転、遠心力を利用してボールのように投げ飛ばす。


 ブォォォォン!!!と、エマの体が無抵抗に地面を低空飛行、そしてバウンドしながら転がって速度が軽減ーー、


 「ーーやりすぎたっていう自覚はあるか」


 ハルの声がして横に目をやれば雷を纏いながら並走している雷神の姿があってエマは目を剥いた。


 「おれじゃねぇぞ。そしてお前でもねぇ」


 「ばけーー」

 

 「アカネにだ!!」


 「ーーものがッッ」


 横合いから、雷拳が飛んできた。

 

 ゴキメキ!!!と、頬骨が砕け、奥歯が折れ、皮膚や肉が絶たれた音が脳まで響き、それを聞いた時にはエマは方向転換して吹っ飛んでいた。

 

 ズガガガガガガガガガガ!!!!と、巨人が指で抉ったように地面に溝を作りながらどこまでも吹っ飛んでいく。


 規格外だと、つくづく思った。

 だから呪怨魔法を利用したのに。


 ーーS級でも、手を焼くわよ。あの子は。


 『黒の女』の声が蘇る。


 手を焼く?そんなどころの話ではない。

 なんだこの理不尽すぎる力の差は。


 真六属性アラ・セスタだからといってここまで差が開くとは思えない。そもそも奴は立っていることさえおかしいくらいの重症を負っているはずなのに。


 どうしてここまでやられる!?


 「言ったはずだぞ」


 声が、した。


 ようやく止まり、両手両膝を地面について咳き込むエマの耳に、罰の執行者の恐ろしい声が。


 動きを止め、そしてゆっくりと顔を上げていく。

 正面、月と星の夜の下、雷を纏いながらこちらに歩いてくる神の姿。


 ーーそう、神だ。


 「仲間の想いが、俺の力に変わるんだ」


 「……………る、な」


 「復讐者ティーシポネじゃ、俺には勝てねぇぞ、エマ!」


 「来るなぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 身を震え上がらせる恐怖が体を動かした。声を張り上げさせた。


 浮遊魔法の全力行使。

 青暗い魔力が吹き荒れて、周囲の地面がメキメキメキメキメキ!!と、抉れてめくれ、浮かび、鋭い刃に形成。


 まさに無数の大地の刃が、全方位から雷神を取り囲み、照準を完了させる。


 逃げ道はない。

 外すことはない。

 『黒』じゃないんだ、一つも当たらず、ましてや全てを消し去ることなんて今の彼には出来るはずもない。

 

 だから。


 「ヴェ笑顔ロス!!」


 この一撃で全てを終わらすために吠えた。

 呼応して、刃が雨霰の如く一人の少年に降り注ぎ、砂煙を噴き出しながら呑み込んだ。


 「………はぁ、はぁ、はぁ」


 手応えはあった。

 直撃する瞬間を目撃した。

 勝ったと思った。

 

 血に濡れた顔で歪んだように嗤い、ダメ押し、いいやトドメとばかりに大質量の岩で蓋をするように彼がいた場所へ落下させ、押し潰した。

 

 ズンッッッッッ!!と、重音が響く。


 「はぁ、はぁ、はは。あはははは!最初から、最初からこうなることは決まってた!ハナからお前に勝ち目はなかった!既に詰んだ盤の上なんだ!チェックメイトだったんだ!あはははは!!ざまぁないわねハル・ジークヴルム!仲間を守る?仲間の想い?………そんなのに塵屑ほどの価値もない!そんなものにアタシは負けない!そんなものなんて存在しないのよ!!アハハハハハハハハハハ!」


 高らかに笑い、自分の中で勝ちを確定させた。

 仲間の存在が、人を強くする?

 

 そんなまやかしがあるわけない。仲間なんて必要ないし、ただの道具でしかない。

 

 ーー全ては復讐のために。真の正義のために利用する駒でしかない。

 

 ザクスもシェルサリアもグイルも。あの『黒の女』でさえも。エマにとっては手足なのだ。


 想いが力に変わると言うのなら、それは決して仲間ではない。

 

 憎悪、憤怒、嫉妬。

 この世界に対しての復讐心が、何者にも負けない絶大な力を与えてくれるのだ。

 

 絶対にそうなのだ。そうじゃなくちゃいけない。そうに決まっている。そうじゃなきゃ困る。


 「仲間がいなきゃ何も出来ないアンタなんかに!アタシは負けない!アタシの正義は揺るがない!アタシの心は砕けない!!」


 まるで自分の醜さから目を逸らし、そして目の前で輝く光から逃げるように叫んで、ハルを押し潰した巨大な岩塊の上から重ねるようにさらに岩塊を落とした。


 二重の押し潰し。

 圧死の確定。

 

 ーーそれが。


 バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ!!!!と、岩塊にヒビが走った瞬間に否定され、霧散して。


 「…………な」


 青白い光と共に二つの殺意が砕けて、その残骸が雨となって降りしきる中、エマのエメラルドカラーの瞳に彼の姿が映った。

 

 ーー無傷、ではない。

 さっきより傷の数は増えている。間違いなくエマの攻撃は当たっていたし、普通なら死んでる。

 

 重心だっておかしいし、失血多量、ダメージによるショック死などなど、とにかく死因なんて山程あるというのに。

 

 なのに!

 なのに!!

 なのに!!!


 「なんで倒れない!?なんで立ち上がる!?なんで死なない!?何がアンタをかりたてる!?そこまでして、そこまで傷だらけになって、その先に何があるっていうの!?一体なにが………ッッ!」


 「馬鹿野郎………」


 風に流されてしまいそうな、小さな声。

 けれど確かに聞こえた。

 強い声だった。

 彼は確かに、こう言っていた。


 「ーー笑い合える明日のためにだ」


 引きつった顔で、信じられないものを見るような顔で、今にも泣き出しそうな顔で、くしゃりと顔を歪ませて、エマは首をゆるゆると横に振った。

 

 ーーどうかしてる。


 「イカれてるわよ…………」


 「笑い合うのは、それはお前も一緒にだぞ!!」


 「イカれてるわよバケモノがあああああ!」


 現実逃避。

 あるいは迷子の子供。


 どちらの性質も備える歪んだ表情で叫び、エマは岩刃を飛ばした。

 

 しかしそれらを、彼は雷の拳で打ち落とし、あるいは避けて、少しずつ前に進んだ、エマに近づいてくる。


 「イカレテル、いかれてる!明日の笑顔?明日の笑顔なんて真っ暗だ!こんな世界に笑顔なんてあるわけない!アルテミスが統治するこの国に!アレス騎士団が守るこの国なんかに!真の平和、正義、笑顔なんてあるわけないじゃない!」


 「この国を誰がどう統治しようが、誰がどう守ろうが、俺には関係ねぇ。俺はいちいち国のために動いてるわけじゃねぇんだよ。国なんてどうでもいいんだよ。俺はただ、俺が大切だと、守りたいと思う人たちを守りたいだけなんだ。その先に、笑い合える未来があるのなら、俺は何度だって拳を握るぞ。何度だってお前と戦うぞ!」


 「答えになってねぇよあらセスタああああ!」


 「答えなんてなんでもいいんだよ!!正しいことばかりじゃないのが、この世界だろうが!!」


 「ーー!」

 

 「だから足掻くんだろ!だから探すんだろ!みんなが納得できるじゃねぇ、自分が納得できる正しい答えを!俺はお前を納得させるためにいちいち喋ってんじゃねーんだよ馬鹿野郎!俺が!俺であるために!俺の世界を守るために答えを探してこの世界を走って生きてんだよ!!!」


 「妄想だ!!」


 「妄想が間違ってるって誰が決めたんだぁぁぁああああああああ!!!」


 「…………ごがはぁ!?」


 全ての刃を掻い潜り、ハルの拳がエマの顔面を捉えた。派手に吹っ飛ぶことはなく、盛大に顔が横に反って、倒れそうになるのを必死に耐えて、エマは歯を喰い縛って殴り返した。

 

 当たった。


 「間違いも正解も、アタシが決める!」


 「ぐっ!」


 殴る。

 殴る。

 殴る。


 「他人に任せていたら、この世界は崩壊する!間違い続ける!いつか、必ず!『薨魔の祭礼』どころじゃなくなる!……なんでそれがわからない。なんでそれに気づかない!?アルテミスとアレス騎士団の正体も知らないぬるま湯に生きてるハルくんが、アタシの正義を否定するなぁ!!」


 連打。殴打。乱撃。

 顔、胸、腕、腹、太腿、脛。

 ありとあらゆる箇所を破壊するように殴り、蹴って、目の前の男を殺害しにかかる。


 ーー何も知らないくせに。

 ーーアンタは何も知らないくせに。

 

 「……意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ」


 パシ、と。

 拳が受け止められた。


 「アカネを殺して、街を破壊して、アルテミスとアレス騎士団をぐちゃぐちゃにすることのどこに正義があるって言うんだよ!」


 「それが未来に繋がることなんだ!」


 「その未来の糸は真っ黒で、細くてすぐに切れちまう!繋がるものなんてなにもねぇ!!」


 「アタシが死ぬまで繋ぎ続ける!!」


 「だから!!それなら!!!」


 互いに隙だらけ。

 攻撃の手は止んでいる。

 拳はハルに受け止められたまま。


 ーーどうして、そんな顔をするの。

 ーーどうして、あなたがそんな顔をするの。

 ーーさっきまで怒ってたじゃない。

 ーーさっきまでアタシの敵だったじゃない。


 ーーなのに、どうしてそんな。


 「お前は一体。いつ救われるんだよ……」


 「ーーーーっ」


 「お前のことは、誰が守ってくれるんだよ。その生き方の先に、お前は救われるのかよ、なぁ!」


 ーー悲しそうな顔をするの?


 「その未来で、お前は笑えてんのか!!」


 「ーーーーっ!」


 ーー笑う。

 笑う?

 誰が?アタシが?

 なんのために?

 誰のために?


 「自分てめぇのためにだ!!」


 まるでエマの心を読んだみたいに。思考を断ち切るようにそう言って、ハルはエマの顔面を容赦なく殴り飛ばした。

 目を覚まさせるように。


 「お前が。お前が目指す未来の先で笑えないなら。お前の笑顔が失われる未来があるなら」


 「………っ、あ」


 立ち上がった先、自分が希う未来とは違う場所に立っている少年が、雷を猛々しく纏いながら言った。


 「その未来を認めた神様を。お前の中にいる間違った神ってやつを!俺がぶっ飛ばしてやる!!」

第七章。

8で終わりです。


一話?なげぇ。

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