『一章』㊵ 少女の覚悟
ーー月と星が煌めいて浮遊城が照らされる。
それらが美しく、淋しく、無慈悲に彼らを見下ろしていた。
ーー対決カードは実に面白い。
一人は殺戮の復讐者。
一人は雷神の魔導士
力量の差は、どうだろう。客観的に考えてみればハル・ジークヴルムは真六属性で、過去に神魔『エリス》を倒している。総合的なスペック、実力は少年の方が上だろう。
だが一方で、エマ・ブルーウィンドは一度ハルを戦闘不能にした事実の看板を首から下げている。
五分五分、は流石に言い過ぎかもしれない。しかし両者共々疲労困憊、ダメージの蓄積はある。勝利の女神はどちらに微笑んでもおかしくはない。
勝敗を握るのは、殺意か誠心。
互いに譲れない思いをその手に。
今。
視線が交差して。
「「ーーおォア!!」」
激突が、始まった。
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台風のような衝撃波が一瞬にして広がり、ギンの背に乗ったアカネの体を簡単に吹き飛ばそうとする。
「きゃあ!?」
何が起こったのかはまるでわからないが、とにかく二人が激突したのだろう。
広い城内に入り、薄暗い豪奢な廊下をギンが疾走する。
「始まったね。おれたちもやることをやろう!」
「うん!………この浮遊城を止めるために動力源を壊すんだよね!」
ギンが言っていた。
ここまで送ってくれた街長が言うには、これほどの規模の無機物を上空に飛ばし操作するには固有魔法ーーエマの浮遊魔法でも不可能。だから自然と、莫大な魔力を蓄積し放出、ガソリンの役目を担うエネルギー源があるという。
それを、破壊する。
場所は城の中心。
戦いとはなにも、拳を交えるだけとは言わない。
戦いとは、己の在り方でいくらでも形は変わる。
故にこれは戦いであった。
異世界にきて、一番最初の戦い。
サクラ・アカネの人生において、初めての、何かを守るための、友のための戦いだ。
ならば、負けはハナからない。
これを言える時を光栄に思おう。
今だけは、この時だけは。
「あたしも〈ノア〉なんだ。みんなに恥じない自分であるために。もう泣くだけ泣いたから。必ず止めてみせる!」




