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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー独姫愁讐篇ー
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『一章』㉘ 真実 

 魔法が使えない。

 

 それは、想像以上に互いの実力差をひっくり返し、死の気配を近くに感じさせる緊急事態であった。

 

 しかも魔法が使えないだけでなく身体能力の低下というオマケもついているのだから性質が悪い。

 

 この状態の正体が何なのか今いち分からないが、魔力がない感覚が答えなのかもしれないとハルは漠然と思う。


 剣が光った。


 「っぶねぇ!」


 首を狙われた一閃を、体裁もクソもなく地面を転がって紙一重で躱してハルはすぐに立ち上がる。


 不幸中の幸いなのか、仮面の女の剣筋はまるでお手本通りみたいに正直だ。


 相変わらず人形じみた雰囲気で不気味ではある一方で、逆に人形っぽいからこそ動きが読み易く一定だ。


 ギリギリ対処可能なレベル。


 ただ。


 「避けてるだけじゃ、勝てねぇ!」


 そういう話しになってくる。

 

 重い体を引きずるようにして走るハルの背中を正確無比な刺突が襲う。


 ソレを前方に倒れて躱し、真上の虚空がハルの身代わりとばかりに悲鳴を上げた。


 剣の圧力が、鋭さが大気に影響を及ぼして突風を発生させ、進行方向に舞っていた全ての葉花と墓石を貫き破壊した。

 

 その光景にゾッとなったハルは思い出す。

 そういえば、昨日は『桜王』に穴を開けていたような気がしなくもない、と。


 「……よ、避けられた奇跡に感謝します」


 引き攣った顔でそう言った瞬間に別に望んでもいない『おかわり』がハルを襲う。


 頬を掠めた尋常ならざる剣の咆哮にハルは「いっ!?」と戦慄して早急に立ち上がり全力で走り出す。


 遊んでいるのか、それとも単純にコントロールが悪いのか。飛んでくる斬撃は駆けるハルの体を掠めるギリギリのラインを奔って虚空を切り裂く。


 「うぉぉぉこえええ!全然手加減してくれないじゃん何なのあいつ!?石を投げてくる感覚で斬撃飛ばしてくるじゃん!」


 そもそも斬撃って飛ばせるの?という根本的な疑問が溢れて止まらない。


 セイラがここにいたらハルの疑問に「剣を振るった際に生じる衝撃波、空気の振動に魔力を付与し乗せたら斬撃は飛ばせる」と、答えてくれたであろうことに、当然彼は気づかない。


 しかしこのままではジリ貧。


 いずれ殺されるとハルの戦闘経験が警鐘を鳴らす。多対一では場所が悪いと判断して霊園区域を選んだ事がかえって裏目にでてしまったのが痛い。


 普段通りの動きが可能なら話しは別だが、現状のハルにそれは望めず、だから相手が自由に行動選択を切り替えられる空間的余裕があるこの場は不利の地を貫いて死を加速させている。


 だから。


 「教会!」


 霊園の中央に建てられた特徴的な建物が月夜に照らされてハルの目に飛び込んできた。


 絶対に褒められない、むしろ天罰が下ってもおかしくない乱暴な方法で教会の扉を開けて中へ。


 同時に。


 遅刻した斬撃が教会の中央を奔り、絨毯ごと床を、聖書が置かれた講壇を、その奥に立つ女神像を

、ステンドグラスを容赦なく両断し、神への叛逆が完了する。

 

 そうして一歩、聖なる神を嫌う死神が教会に足を踏み入れた瞬間をーー彼は待っていた。


 「神父に謝れ!」


 ゴンッッッ!!と。とてつもなく鈍い音が炸裂した。拳大の石を死神の顔面にぶち込んだ音だ。

 そしてそこからは反撃の隙を与えなかった。

 

 「うおおおおおおおおおおおおお!!」


 ここがラストチャンス。

 逃せば負ける。死ぬ。


 まさに乱撃。一撃が入る度に鈍音が炸裂し、仮面に亀裂が入ってーー終わりは唐突だった。


 女の手から長剣が滑り落ち、甲高い音を立てて荒れた床に転がった。女も剣を追うように倒れ、仮面が割れる。


 「はぁ、はぁ、……よ、余裕だったぜ」


 全然辛勝である。

 石を捨て、体の調子を確かめるが元に戻った感覚はない。どうやらこいつを倒しても問題が解決するわけじゃないらしい。


 「はぁ、はぁ。訊いたら教えてくれんのかな」

 

 望み薄だろうなと思いながらも呟いてハルはフラつきながら仮面の女に近づく。最終的な狙いはともかく、魔法を使えなくした手段とその治療法?は知っておきたい。


 仮面は砕け、隠されていた素顔が露わになっている。一体どんなやつなのかと覗き込んでーー。


 「……………な。こ、れは………」

終わりが近いです。

最後までお読みになってくれたら嬉しいです。

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