『三章』間話 蜂の咎は行方を知らず彷徨い、やがて終着点で銀に魅了される
ーー「ミレス島」でクロヴィスとロキシニアに敗北してから、ルイナは更に自分の魔法に磨きをかけた。
とにかく技の密度を上げて、少しでも強くなろうと。
そして奇妙なことに、「ミレス島」の一件から何故かクロヴィスと遭遇する機会が増えて、その度に殺そうとしては返り討ちに、時には奴が奴の都合で殺し合いは中断したりと。
「もっと強く」
とにかく自分の強さに磨きをかけようと努力した。
だが、それでも届かない領域というものがある。
クロヴィスとロキシニアに完全敗北を喫し、ガジェットと共に九泉牢獄に収容され、十年が経った。
そして出会ったんだ。
「ーー刀剣舞踊!」
綺麗な目をした女だった。
「ドロフォノス」に利用されるという屈辱を我慢すれば脱獄できるから、苦渋の決断で仕方なくだったのに。
レイシア・エル・アルテミス。
失踪した第二王女が目の前で必死な面して剣を振るっていた。
あぁ、懐かしい目だと思った。
自分にも、こんな風に自分の正義を信じて悪を討つという純粋な目的があった。
けれど、今はもうそんな情緒はない。
自分の理想を押し付けるために悪人を殺すただの快楽殺人鬼。
それがルイナだ。
でも。
レイシア……サクラのような人間がいるなら、この世界はもっと良くなると思った。しかも仲間には雷神や薔薇という『英雄認定』された魔導士もいるそうじゃないか。
運命が、ようやく回り始めた気がした。
彼女たちがいれば、「ドロフォノス」だけじゃなく、他の悪人たちも倒せるのではないかと。
だから、黒いレイシアと戦った後、何故か千切れた腕も傷ついた体も治っていたけれど、彼女たちの力になりたいと思って、変な鳥の中に入り込んだ。
ーー間違いを正そうとしたのだ。
エマに会うことがあったら、謝りたい。
そして言ってやりたい。
罪人を殺す罪人も、辛い道だしきっと間違っているんじゃないかって。
もっと違う道があるはずなんだって。
だって、戦ったレイシアは、殺すことなんて考えずに、ただ罪人という存在を否定して、更生させようと奮闘しているように見えたから。
だから今度こそ。
自分に誇れる道を歩めるように。
「……お前は今日、ここで必ず倒してみせるぞ。クロヴィス・ボタンフルール」
ガラッと、瓦礫の残骸から身を起こして目の前で王の風情を出すクロヴィスを睨む。
ハートリクスはどこだ。
無事なのか。
わからない。
生きていると信じる。
だから今は、今だけは。
血に濡れたルイナは深く息を吸って吐いて、吠えた。
「刃透魔法。ーー[奥の手]・龍神八血禍罪ノ斬!」
力を貸して、エマ。
エマの[奥の手]の咎ノ理に似た龍が、血を纏ってルイナの体にトグロを巻きながら顕現し。
クロヴィスが目を細めて笑う。
「いいね。ーーその敵意は少し警戒する必要があるかもな、ルイナ」
正真正銘。
これが最後の戦いだ。




