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『一章』⑭ あたしと『私』
しゃらん、と華やかに音を鳴らしそうな豪奢なまでの星月夜。
夜の黒を果てなく彩る無数の星々とそれらを臣下に煌々と輝く月は人を嘲笑う神界のようなうつくしさだ。
下界の行く末など、情勢など意に介さないと傲慢に美光を瞬かせる星辰は映えていて現実離れしている。
だからその星雲と、空の女王たる月はソレに関与せず、ただ見下ろしているだけだ。
「………あ、かね………」
悲鳴と怒号が飛び交い、平和が崩壊する乱暴な音が辺りを席巻し、無造作な本能が桜の街を蹂躙する中、藍色髪の少年は倒壊した建物の瓦礫に埋もれて掠れた声を漏らす。
全身血塗れで、激痛の台風に肉体を支配されながらソレでも彼は立とうとする。今すぐにここから飛び出して拳を握るために。
「アカネ…………………」
意識が。
途絶した。




