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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
風都決戦篇
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『三章』31 時間


 〈空の瞳〉はサフィアナ王国初代国王、ローラ・アルテミスが発現させた瞳力である。

 その異能について分かっていることは二つ。

 

 一つは、他者の魔法の吸収。

 吸収した魔法は、吸収した分だけ己の魔法として使用することが可能であること。


 そして、もう一つは――。


「まったく。これだから戦いはやめられない!」


 奔放なままにエリスが笑いながらアカネに攻撃を仕掛ける。エリスは手を銃のジェスチャーに変えてアカネに向ける。

 直後、指の先に光球が生成されて眩い発光と共に放たれた。

 

「神の涙」


 神が怒りによって流した涙を表すようだった。アカネに腹パンを喰らってすぐに、よくぞここまでの魔法を撃てるなと、呆然と見ているルイナが思った。

 対して、黒いオーラに包まれているアカネはジロリと光球に視線を向けた。そして、スッと右腕を突き出した。

 

 瞬間、光球が霧散して、粒子となってアカネの両眼に吸われていく。

 ルイナは瞠目し、エリスは笑う。


「はっ! 〈空の瞳〉の異能だね! 魔法吸収すべてわたしのもの……か、面白い!」


「殺す」


「その状態になるとそれしか言えないのかな? 語彙力ないんだね!」


 以前、アカネが黒いオーラに包まれた時……便宜上「黒茜モード」と呼称させてもらうが、その時はエマに半殺しまで追い込まれた時だ。

 しかしその半殺しというのも、身体と精神、二つの重要特徴が壊されたことを指している。


 泥犁島でルイナとガジェットと一戦を交えた時とも、ましてや一番最初にハルたちとハイロで出会って意図せぬ形で戦った時とも違う。


 この「黒茜モード」は、あの「あかね」とは少し違う。


 だからなのか。

 言葉は出てこず、ただ殺人の衝動に駆られて実行する殺戮マシンのようになっている。


「神の涙――天啓」


 不敵に笑んだ神魔が二本の指を重ねてアカネに向けた。瞬間、ズアッ‼︎ と、美しさを感じざるを得ないほどの見事な球体が発現した。

 大きさは人間大。

 色は白。しかし縁は淡く黒い。

 神々しくも禍々しいソレは、アカネに照準を合わせていた。


「くす。まだまだ」


 こんなもんじゃない、とばかりに神魔が笑う。

 ス……っと、彼女は「神の涙」を発動させている手とは逆……左手を前に突き出した。

 フォームは同じ。

 ただし、そこから表出したモノは別物だ。

 黒。

 縁は白。


「魔王の眼――叛逆」


 超質量、高密度、そして圧縮された巨大な魔力。

 エリスが発動させた二つの球体の周囲の空間が、目で見て分かるほどに歪んでいた。

 異次元。

 まさに破格。

 街の人は消え失せ、いずれ騒ぎは国の治安部隊に報告されるだろう。

 つまりこの一戦は、それまでの泡沫。


 しかしその泡沫が、泡程度とは限らない。


 神魔エリス

 白と黒の髪の毛を長く伸ばす美少女は、神と魔の力を持ってアカネを消滅しにかかる。



「お手並み拝見」


 ギュアッ‼︎ と。

 白と黒の脅威が空間を削りながら唸った。



△▼△▼△▼△▼



 ――意識が朦朧する。

 

 深い、深い、深い闇の中に落ちていく感覚だ。

 息苦しくて、まるで深海の底へと沈んでいくような。

 ここはどこなのか。

 自分は誰なのか。

 どうしてここにいるのか。

 

 水の泡のように疑問が生まれては消えて、生まれては消えていく。

 ふと、己は考えた。

 まずは冷静になって、自分が誰なのか思い出そう。

 己は両手を動かす。

 見えない。

 なら足は。

 見えない。

 顔はどうだ。

 見えない。

 

 己のことが何もわからない恐怖が微かに胸に去来したが、その恐れを振り切るように周囲に目を向けた。


 闇。

 濃い闇だ。


 けれど、光が差した。

 その光のおかげで、自分の髪が銀であることがわかった。細い指と華奢な足だとも知れた。

 

 あの光はなんだろう。

 二種類ある。

 暗い白と、明るい黒だ。


 手を伸ばした。

 掴んでみよう。

 もしかしたらここから出られるかもしれないから。


 届かない。

 もどかしい。


 何かないか?

 あった。

 気づいたら右手に一本の刀剣を握っていた。


 これを伸ばして刺すように掴めば、きっと。


 己は……。

 銀の髪の少女は興味津々の様子で、二種類の光球に向けて剣を軽く振るった。


△▼△▼△▼△▼



 ――キン、と。

 

 甲高い音が鳴った。


「……ははっ」


 笑っていた。

 焦ることなく、ただ面白いことが起こった時みたいに軽く。

 そんな彼女……いいや全ての状況を視認していたルイナは目を見開いていた。

 規格外とか、予想外とか、もうそんな次元なんて超えていた。

 

 一体何が起こったというのか。

 とにかく、今。

 ルイナの目の前で、神魔の両腕が吹き飛んだ。

 大量の血が吹き出すが、当の本人は涙ひとつ見せていない。


 そして、問題点はそこだけではない。

 神魔が発現させたあの二つの球体。控えめに言っても絶死は免れない超魔法を、真っ二つにした化物が、ゆらりと立って神魔を睨んでいるのだ。


 サクラ・アカネ。


 漆黒に支配された少女が、手に持った黒い刀を振るうと球体が切断。その反動で神魔の両腕が斬られる結果に。


「クロカミ、オマエ……」


 絶対にアレは違う。

 ルイナが知っている、馬鹿な正義感があって、お人好しで、だけど信念がある強い女じゃない。

 アレはもっと、別のナニかだ。

 

「……それ以上はダメだ、クロカミ」


 あれ以上「黒」に呑まれたら、きっと戻れなくなる。

 別のナニカになって、元のアカネじゃいられない。

 瞬時に、だ。

 ルイナは神魔の殺害からアカネの救出に意識を切り替えて走り出した。


「ダメだクロカミ! オマエはこっち側にくるんじゃない!」


 殺人の衝動に身を任せて魂を焼き焦がすのは、お前じゃない。お前は、救いの衝動に身を委ねて魂を磨かなきゃいけないのだ。

 だから。


「五月蠅いな。少し静かにしてよ、ルイナちゃん」


「――なっ」


 ドズンッ! と、走り出したルイナの顔面に強烈な一撃が入った。いきなりの攻撃になす術なくルイナは地面を転がった。

 頬に走る痛みを無視してすぐに起き上がれば、走行方向にいたのは神魔だ。


 右腕が再生していた。


「楽しくなるのはこれからなんだから。脇役は黙って視ていろ」


 虫以下の存在に楽しい時間を邪魔されたことで苛立つ神と魔の名を冠する女は、ルイナに冷たくそう吐き捨てた。

 強者の威圧だ。

 わずかにルイナの心が恐怖を覚えたが、そこはS級。すぐに振り切って舌を打つ。

 ビビっている暇なんかない。

 同じS級なんだ。

 同じ人間なんだ。

 

 勝てないと決まったわけじゃない。


「血刃――」


「殺す」


 と、ルイナが神魔に仕掛けようとした同じタイミングで、黒いアカネが動いた。

 ただ一言、使命感のように黒い言葉を吐くとアカネは一瞬にして神魔の目前に迫る。

 神魔とアカネの目が合った。


 青と青。

 二つの青い瞳が、重なる。


 直後。

 ギィィィィインッッ‼︎‼︎ と。

 金属と金属を擦り付けたような音が響いた。

 それと同時に、アカネと神魔の両目が蒼く発光する。

 刹那、二人の意識が交わって、本来なら知ることのない「時間」が互いの脳内に流れ込んだ。



 ――〈空の瞳〉の二つ目の異能は。


 『時間認識の拡張』である。

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