『三章』27 ネザーコロシアム②
「――アイツは何なんだ、答えろベルク!」
「アイオリア王国」首都、アネモイから少し外れた森の奥だった。
陽光が木々の間から差し込む温かな場所で、セイラがベルクの胸ぐらを掴んで怒鳴っていた。
「こ、答えるもなにも。キミもあの場にいたんだ、分かってるだろう。あの方は「ドロフォノス」で「お父様」の次に強い……クロヴィス・ボタンフルール様だ」
セイラに胸ぐらを掴まれると大木に背中を打ちつけられ、僅かに顔を引き攣らせたベルクがそう言った。
クロヴィス・ボタンフルール。
〈死乱〉と呼ばれる、「ドロフォノス」の中で特質すべき者達の名称。
ソイツの襲撃に遭い、メイレスは囚われ、セイラたちはメイレスの魔法で散り散りになったのだ。
いいや。
助けられた、と言うべきか。
「違う! 何故〈死乱〉の第一席なんかが宝石鳥に来たんだ! 何故居場所が分かったんだ! ……どうしてメイさんを封印したんだ!」
分からないことだらけだった。
予定通りとはいかないまでも、事は順調に進んでいるはずだったのに。
あの襲撃で全てが狂った。
みんなとはバラバラになり、現在地も不明。
穏便に事を済ませるはずだった計画も破綻。
「ドロフォノス」に存在を認知された以上、もう大人しくは出来ない。
「……ぼ、ボクはこれでもドロフォノスだ」
ふと、ベルクが言った。
「ドロフォノス家の人間は、常に「お父様」と魔力回路が繋がっている。だから何かあればすぐに「お父様」には伝わるんだよ……。生死も、居場所もね。キミたちは、ボクを捉えた時点で「お父様」に狙われていたんだよ! なっはははははは!」
「……くそっ。そういうことか……っ!」
馬鹿にする笑い声が森に響くが、セイラはその目障りな音を聴覚から遮断した。そうしないと、今すぐに殺してしまいそうだったから。
情報の共有を可能にする。
そう言われれば、確かに思い当たる節はある。
海で襲ってきたドロフォノスの男や、ノーザン。あの二人は「お父様」に精神と身体を乗っ取られていた。
魔力回路を共有しているなら、そして絶大な魔力量を有しているなら可能だ。
セイラは悔しそうに舌を打った。
「なら。ノーザンと行動を共にしてる時点で気づかれていたのか……っ」
「そうさ! キミたちは最初から「お父様」の掌の上で踊っていた人形にすぎない! なっはは。哀れだよねぇ? 出し抜いてると思っていたその姿がさ! 同じ土俵に立っていると思わないことだ! 「ドロフォノス」には「お父様」がいる! キミも! メイレスも! あの雷神も! ノーザンも! テレサも! 全員が無惨に殺される運命だ! 楽しみだよ、「お父様」の前で絶望するキミたちの顔を見るのが! なっはははははははははははははははははは!」
心底嘲弄するベルクの笑い声を、セイラは完全に遮断出来なかった。
気づけば手には宝剣が握られていて、赤色の瞳は怒りに染まっていた。
宝剣を振るう――その一歩手前で、だ。
「――耳障りだわ」
ガバァッ! と。
ベルクの首から上が血を吹き出しながら消えた。
顔。
汚い笑みを見せていたベルクの顔が、まるで獣に喰われたかのように消えたのだ。
真横からパックリと、キレイに。
セイラは死体と化したベルクの胸ぐらから手を離し、驚きながら真横を見る。
「……お前は」
赤色の瞳。
怒りから驚愕に色を変えたその瞳に映ったのは、紫髪の美女だった。
「ノーザン……」
「無事でよかったわ、ハートリクス」
「エウロス」から行方が分からなくなっていたノーザンが、セイラの前に忽然と姿を現した。そして、ベルクを殺害したのは彼女の合成魔法か。
ノーザンはベルクを殺した後味の良し悪しを気にする素振りを見せずに、
「ごめんなさいね。私のせいで作戦が露呈していたわ」
「いや、いい。どうせベルクを捕まえた時点でバレていたんだ。遅いか早いかの違いだった。……それよりノーザン。今までどこに?」
ノーザンはベルクの死体を汚物を見る目で見下ろして、
「気を伺っていたの。ソイツを殺す気を」
「……だから姿を見せなかったのか?」
「ええ。一緒に行動すれば、ジークヴルムやレイシアに止められると思ったから。……あの二人には感謝しているわ。私を闇から掬い上げてくれたもの。……けれど、それでも忘れられない屈辱と怒りがあった。殺さないと拭えない涙と血があったのよ」
セイラは知らない。
ノーザンの過去を。
母を、娘を、己を、痛ぶった元凶が足下に転がっているクソ野郎だという事実を。
復讐に意味なんてない。叶ったところで残るのは虚無だけだ。
それでも。
ノーザンにとってベルクは度し難い存在だった。
だから殺した。
後悔はない。
「軽蔑するかしら? 結局、「ドロフォノス」の殺人衝動に抗えなかった私を」
セイラは首を横に振ると、ベルクの死体に視線を落とした。
「しないさ。私も同じだからな」
殺意に呑まれてベルクを殺そうとした。右手で握っている宝剣がいい証拠だ。
後先のことを考えず、殺人衝動に身を任せて殺そうとしたのだから。
「……そう。でもこれで、「案内人」はいないわね」
「もう必要ないさ。「案内人」が必要だったのは、隠密行動を取るからだ。私たちの存在がバレた今、「案内人」の需要はない」
「それもそうね」
セイラの言い分の正しさに反論する余地はなかった。ノーザンは軽く息を吐いてから、
「それで? これからどうするの?」
セイラは宝剣を消して、
「まずはみんなを探す。「ドロフォノス」と正面切って戦うには、みんなの力が必要だからな。……そして、必ずメイさんを助け出す」
「その、みんなを探すっていう案は賛成なのだけれど……一つ問題があるわ」
「問題?」
何だか言いずらそうに頬をかくノーザンを不思議に思い、セイラが首を傾げる。
ノーザンは森の先、「アイオリア王国」首都、アネモイがある方を指差して言った。
「他はともかく……。雷の英雄様が王城の地下に囚われてるらしいわよ」
「……………………なんで⁉︎」
△▼△▼ △▼△▼
「アイオリア王国」首都、「アネモイ」のシンボルである風車塔が風に煽られて心地よさそうに回っていた。
六角形の壁に覆われて作られた「アネモイ」は、今日も沢山の人々で賑わっている。
メインストリートでは買い物をしている人たちや、食べ歩きをしているカップルが。他にも昼食を楽しんでいる人たちも多く見られる。
風が心地よいこの国で、不幸の味を知る者は一人もいない。皆が平等な幸せと笑顔を享受して、日々の生活を送っている。
それは、その光景は、見る人が見れば「違和感」を感じてしまうほど。
「……楽しそうだけど、何か違う」
そう呟いたのは、銀髪ショートヘアの少女、サクラ・アカネだ。彼女はテラス席があるカフェでルイナとお茶をしながら、「アネモイ」の街並みを眺めて違和感を抱いていた。
「違う?」
ケーキを食べながら、蜂蜜色の髪をした美女は首を傾げた。
アカネは「はい」と答えて、
「「アリア」の人たちは、心の底から笑ってる。楽しいことがあれば、幸せそうに笑ってる。……だけど、「アネモイ」の人たちは、なんか……無理に笑顔を作ってるみたい」
確証はないが、笑顔が少し引き攣っているような気がした。笑える状況じゃないのに、笑わなければいけないような。
そうは言っても具体的に何が原因でそう思ったのかわからないから、アカネはそれ以上何も言わなかった。
ルイナはケーキを食べ終えると紅茶を飲んで、
「私には普通に笑ってるように見えるけど……。ていうかおい、クロカミ。「アネモイ」に来たのはいいけどこれからどうするんだ? クロヴィスの野郎を探すんだよな?」
アカネはレモンティーを一口飲んで、
「もちろん探しますよ。だけど、その前にセイラたちも探して合流しないと。言いましたよね、あたしたちがどうしてこの国に来たのか」
「「ドロフォノス」殲滅、か。夢物語だが、お前たちは実際にやるんだよな」
「はい。そのためにも、まずはみんなを探さないと。……特にハルは」
「ハル・ジークヴルム。噂の雷神か。確かベルクをぶっ飛ばした後、行方が分からなくなったって言ってたな。手がかりとかないのか?」
宝石鳥が襲撃され、セイラたちと離れ離れになってしまったアカネはあの後、ルイナと「アネモイ」近辺まで空路を進んだ。
宝石鳥はアカネたちを下ろすと、羽を休めるために近くの森にいる。
ここまでは何とかこれたが、いざこれから皆を探すとなると手がかりはまるでない。
ハルは言うに及ばずとして、セイラたちの居場所なんてまるで心当たりがない。来慣れている土地なら話は別だが、ここは新天地の「アネモイ」だ。右も左もわからない場所で無闇に捜索するのは無謀と言えるだろう。
「手がかりなんて皆無ですけど……一人じゃないだけ有難いです。ありがとうございます、ルイナさん」
「アネモイ」……ましてや異世界の新天地で一人きりというアウェー全開の状況より数百倍いい。ルイナは罪人だが、もう悪い人とは思っていない。むしろ、助けてくれたしいい人だ。
思わぬことを言われて目が点になったルイナは、ハッとなると少し頬を赤らめて明後日の方に視線をやった。
「た、たまたま目的が一致しただけだ。仲間になったつもりはない。そ、それに私の獲物はお前もだぞ、クロカミ」
「はい。そうですね」
笑顔で返答してしたアカネに対して、ルイナは頬を膨らませた。
「むー。冗談じゃないぞ、お前。分かってるのか?」
「分かってます、分かってますよ」
「絶対に分かってないだろ。親戚のお姉さんみたいな扱いしてるだろ」
「してませんよ、ルイナお姉ちゃん」
「誰がお姉ちゃんだ! ……認めません、認めませんよ! ウチの妹にしたつもりはありません!」
なんかどんどんキャラが崩壊していく元クールビューティ美女罪人。棘が取れたみたいになって接しやすくて助かる。
と、そこでルイナの背後に忽然と姿を現した者がいた。マスクで顔を隠し、暗闇に紛れられるように黒い服で身を包んでいる。
男だ。
「ルイナ様」
「ガジェットか」
「え?」
ガジェット、は。
泥犁島でアカネと刃を交えた罪人だ。確か、ルイナの側近のような少年だったと記憶している。
ルイナの魔法をあたかも自分が使っているように見せかけて戦い、彼女の相手に相応しいかどうかを品定めする役目を果たしていた少年だ。
「「アネモイ」をくまなく探しましたが、クロヴィスの髪の毛一本見つけられませんでした、申し訳ありません」
「そうか……。ま、予想通りだな。そう簡単に見つけられる相手とは思っていないさ」
「それから。薔薇、及び星王の所在ですが、こちらもまた足を掴めませんでした。おそらく、「ドロフォノス」側に見つかることを懸念して自ら息を潜めているのかと思われます」
「それもそうか……」
セイラたちまで探してくれていたのかと、アカネは驚くと同時に泣きそうになるくらいの感謝を二人に抱いた。
二人にとっては敵と言ってもおかしくはないのに、ルイナたちの目的とは関係ないのに。
アカネは唇を噛みながら下を向いた。
泣きそうになっている顔を見られたくなかったのだ。
「あ、ありがとうございます……っ。ルイナさん、ガジェットくん……ッ」
ルイナは照れ隠しのように頬杖を突き、ガジェットは少し目を尖らせて、
「ついでだついで」
「ガジェットくん……? おいサクラ。オレたちは別に貴様の仲間になったわけじゃ……」
「まぁまぁ。気にするなよ、ガジェットくん。ぷくく」
「ルイナ様……」
分かりやすく肩を落としたガジェットは、まるで姉にいじられている弟のようだ。実にいい関係性だとアカネは思う。
一度は敵対し、二人に酷いことをしてしまったけれど……、
「あ、そういえば!」
「ん?」
泥犁島での一戦を思い出していたアカネが途端にテーブルに手をついて立ち上がり、ルイナの腕を指差した。
正確には、右腕だ。
「ルイナさん! どうして腕があるんですか! ……確か、ルイナさんの腕はあたしが……!」
アカネの中に潜むもう一人の「あかね」が、慈悲すらなく切断していたはずだ。実際に、彼女の腕が血の海に沈んでいるところを見たのを覚えている。
あの傷は、治癒魔法でも治らない。
「あぁ、これか。これはな……私にも分からん」
なんか軽い感じで右腕を振りながら答えたルイナ。
アカネはぽかんとして、
「わ、分からないって……。だってルイナさん、腕が取れたりついたりしてるんですよ……?」
「ま、別についてんだからいいだろ。気にするなよ、クロカミ」
何か上手く言いくるめられた気もするが、本人が大丈夫というならそれまでなのか。腕を切り落としたのはアカネだから、アカネが悪いのは間違いないのだが、こうも指を差して断罪されないと気まずいモノがあった。
「コホン。ルイナ様。あと一つご報告が」
気を取り直すように咳払いをしてから、ガジェットは言った。ルイナは紅茶を一口飲んで、
「まだあるのか。どうした?」
「ネザーコロシアムをご存知ですか?」
紅茶を喉に通したルイナは眉をわずかに寄せて、
「ネザーコロシアム? ……あぁ、聞いたことがあるな。確か「アイオリア」主催の、罪人同士を殺し合わせる、いい趣味をした地下格だったよな?」
とんでもないことをサラッと言ったルイナだが、アカネにとっては信じられない内容だ。元の世界にも地下格闘技は存在していたが、殺し合いをさせるような場所ではなかったはずだ。
一定のルールとモラルはあり、あくまでスポーツとしての一貫を保った格闘大会。
「そ、そんなモノがこの国で行われているんですか……?」
にわかに信じ難い声色でアカネが訊くと、ルイナは首を縦に動かした。
「実際に直接この目で見たわけじゃないけどな。九泉牢獄の下位互換みたいなもんらしい。捉えた罪人を効率よく始末するための催しだそうだ。……ま、当然表社会には非公開で、完全な秘匿事項扱いだけどな。罪人界隈にゃ、自然と広まる話だ」
「……なんてことを」
現実離れした話にアカネは言葉を失う。
九泉牢獄だけでも頭が痛いのに、その上ネザーコロシアムとかいう非人道的な大会が行われているなんてこの世界の神様は狂ってる。
……というか、だ。
「そういえばなんですけど。「ドロフォノス」ってこの国ではどういう存在なんですか?」
「ん?」
今更ではあるが、考えようともしていなかったことでもあった。
「ドロフォノス」は罪人一家だ。しかも手に負えないレベルのクソ野郎たちが集まってる最凶家族。当然、その存在は「サフィアナ」では危険視されており、罪人の中でも特に注意を払わなければならない。
しかし一方で、「アイオリア王国」での扱いはどうなのだろう?
「ドロフォノス」が「アイオリア王国」を拠点としているのは認知済みたが、その国からの印象はどうなのだろうか?
「英雄だよ」
ガジェットが言った。
彼はルイナの後ろの席に座ると、ブラックコーヒーに砂糖を入れながら、
「「ドロフォノス」は一度……いいや二度この国を救っている。以降、「アイオリア王国」で「ドロフォノス」は民から、王族から英雄視をされるようになったんだ」
「英雄……? あんな人たちが?」
「あんな奴らだから出来た行いもあったんだ」
紅茶が無くなり、横を通ったウェイトレスに手を上げて呼びかけおかわりを頼んだルイナ。彼女は空になったカップを金属製の小さなトレーに置いて、
「六年前。「クレタ」っていう街が襲撃にあってな。そこには「アイオリア王国」の中で特質した『異能』を持つ種族が住んでいたんだが……そこを襲撃したのが「サフィアナ」の人間だった。もちろん罪人だ」
「……襲撃って。「クレタ」の人たちはどうなったんですか?」
「絶滅だよ。一人残らず、「クレタの民」はその罪人に殺された。それはもう、凄惨たる光景だったそうだ」
「……」
絶滅、という単語を人間の種族に使ってるところを耳にするのは初めてだった。それはもう言葉では表現できないくらいの衝撃と絶望が、アカネの胸に去来した。
アカネは未だショックが隠せない目でルイナを見て、
「……誰なんですか。「クレタの民」たちを殺した罪人って。一体、どこの誰なんですか」
話の流れからして、おそらく「ドロフォノス」はその罪人を打ち倒したことで「アイオリア王国」に英雄視されるようになったのだろう。
「サフィアナ王国」の罪人。
ルイナは息を吐いてから、
「第S級指定罪人。識別名・〈四重奏〉。ソイツを殺せたのが、他でもない「ドロフォノス」の親玉。ロキシニア・ドロフォノスだったんだ」
「……カルテット」
「〈四重奏〉を討伐したことにより、「ドロフォノス」は「アイオリア王国」内において一定の信頼と立ち位置を獲得した。そして二度目。二度目は〈破〉相当の魔獣が「アイオリア王国」に突如現れて、これもロキシニアが討伐に成功。国民からの揺るぎない支持が確立し、英雄と呼ばれるようになった」
「……〈破〉相当の魔獣」
魔獣にも等級があると説明したのを覚えているだろうか?
上の等級から〈極〉〈破〉〈荊〉〈戒〉〈畏〉。
これらは等級が上がれば上がるだけ魔獣の危険度、討伐難易度を差し、〈極〉や〈破〉レベルの魔獣になると、S級罪人よりも『危険度と致死率』は高い。
「そんな魔獣を、ロキシニアは一人で討伐したんですか……?」
骸鮫ですら、一人で倒すことが難しいアカネにとって、〈破〉レベルの魔獣なんて想像が出来ない。
「あぁ。バケモンだろ? 私でも単独で討伐は難しい。……そういえば、A級罪人で魔獣の力を自身の肉体に取り込む魔法を使うヤツがいたな。一回だけ戦ったことがある。まぁ当然半殺しにしてやったが。誰だっけ?」
おかわりの紅茶が運ばれてきたルイナはスプーンで中身を混ぜながらガジェットに訊く。
ガジェットはコーヒーを飲んで、
「ザクス・シードですよ。品のカケラもない小者です」
「そうそう! ザクスだ! アイツは弱かったけど見込みはあったんだよなー」
「……あはは。そ、そうなんですね」
二人の会話に苦笑しながら反応するしかなかった。
ザクス・シード。
ソイツはエマの件でアカネたちを襲ってきた強敵だ。あんなに強いザクスを小者とか弱いとか言っちゃうなんて、とことん規格外だ、この二人。
「話が逸れましたが」
と、コーヒーに砂糖を入れながら……「ていうかどんだけ砂糖いれるの? 甘党なの? 〈極〉レベルの甘党なの、佐藤くん」「誰がサトウだ」、などと言い合ってから、
「ネザーコロシアム。地下で行われる罪人同士の殺し合いに、興味深い話がありまして」
「興味深い?」
明らかに秘匿されてそうな情報をどうやって入手したのか気になるところだが、とりあえずそれは後回しにしよう。
ルイナもアカネも首を傾げる中、甘党くんは言った。
「蓮爆、レイス・フォーカス。雷神、ハル・ジークヴルム。両名がネザーコロシアムに参加するようです」
「ほぉう。それは興味深いな」
「……………………………………なんで⁉︎」
△▼△▼ △▼△▼
――時系列は少し進んで、『ネザーコロシアム』が開催されていた時だった。
「お前の歴史は、今日ここで終わる」
その戦いは、かの有名な「風都決戦」において誰にも知られていない激闘。
国。
そんなものなんて意に介さない、そんなものなんてどうでもいいと思う二人の男の戦いだ。
「返してもらうぞ。お前が奪ったモノを、全部」
拳が握られる音がした。
星が揺らめく音がした。
「返してもらうのはこちらの方さ――兄さん」
闇が蠢いた。
影が嗤っていた。
場所は「アイオリア王国」、東部。
立ち入り禁止区域、「クレタ」。
星王、ユウマ・ルーク。
月詠命、ひずみ・ゆうと。
荒れ果てた土地で、「風都決戦」とは関係のない因縁の火蓋が切られた。
△▼△▼ △▼△▼
……アカネとセイラが二人揃って「なんで⁉︎」と驚いていた時、呑気にカードゲームをしているハル。
「あー! また俺の負けかよー!」
「弱すぎンぜ雷神! これでオレの五連勝だァ!」
「いいやオレの勝ちだぜクソガキ共がぁ!」
「「な、なにぃぃぃぃいいいいい⁉︎」」
「おい囚人共! 静かにしてろ!」
緊迫感のカケラもないのだった。




