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最後の異世界物語ー剣の姫と雷の英雄ー  作者: 天沢壱成
ー独姫愁讐篇ー
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『一章』⑪ 喪失の狂気  

 酒場区域は新宿歌舞伎町の飲み屋街のようだった。

 

 昼間なのに暗くてネオンのようなぬめった光彩が目立つのは、青空が鉄色の水晶板に塞がれているからか。

 

 葉桜通りの入り口から出口の一本道全体が昼なのに夜の雰囲気で、飲み歩いてる人は多い。


 一〇代少女二人は非常に目立つ。

 場違い感がすごい。

 なので、アカネは遠い目になって、


 「じゃ。あとは頑張って」

  

 「待って待ってこんなところで一人にしな、あ!」


 早く地元に、太陽の下に帰りたくてアカネは回れ右して酒場区域を出ようとし、それを止めようとしたエマは躓いて顔から転び、立とうとして壁に手をつけば滑って後頭部を地面に打ち頭を押さえて転がる羽目になった。

 

 何そのスーパープレイ。


 アカネはドジっ子属性の加速が止まらないエマに呆れながら、


 「それで。どこら辺でぶつかったの?」


 エマはアカネの手を借りながら立ち上がって、


 「もう少し先に行ったところだったと思う、けど……」


 言いながら、エマの語気がみるみる弱々しくなっていく。

 

 無理もない。


 入り口付近で既に帰りたいのに更に奥へ行くとか正気の沙汰じゃない。


 しかも二人揃って一〇代少女で、一人は異世界レベル一の駆け出し冒険者、もう一人は全く頼れないドジっ子とかもうこのコンビは終わってる。

 

 あと、怖い。普通に怖い。さっきから周囲の目が怖い。獅子に囲まれた小動物の気持ちがよくわかる。あと上京娘の気持ちも。


 「こ、こういう時に頼りになる男の人がいればいいんだけどね……」


 ビビりまくりのエマが言うことには一理あるが、そんな都合の良い人間はいない。

 心当たりもない。


 「………………、」


 と、そこで一瞬ハルとユウマが脳裏を過ったがすぐに「ないない」と頭を振って心当たりの向こう側へと追放する。

 あの二人を選ぶくらいなら絶対セイラの方がいい。強そうだし。


 「でも、いないから。アタシたちだけで行かないと……」


 「うん、そうだね……。もし何かあったら真六属性アラ・セスタに助けてもらおう」


 「あらせすた?」


 「?〈光是の六柱〉の魔法を扱うって言われてる魔道士のことだよ。まぁ、これは本当に噂話だからいるかどうかわからないけどね」


 「じゃあダメじゃん……」


 「勇気を貰うって話しだよ」

  

 「ドジっ子を治してもらうの間違いでしょ」


 「それはそれでいいかも」


 「いいんかい」


 などと臆病な心を忘れようと軽口を叩き合い、二人の少女は大人の世界へと踏み出した。

 

 サクラ・アカネ一六才。人生初の夜の街は異世界です。


 と、内心複雑な銀髪少女は夜の街だけでなく、夜の男性もーー酒気を帯びた男性も間近で見るのは初めてで、本当に少し怖かった。


 怪訝な様子で見てくる人もいれば舌舐めずりするような卑猥な視線を送ってくる人もいる。


 男性だけでなく女性ももちろんいるが物珍しげに見てくるだけだ。

 治安が特別悪いワケではないのだろうが、少女二人が来るような場所ではないのは確かだ。


 「どう?ここら辺?」

 

 「……うん。けど、見当たらない」


 「もっとよく探してみよ」


 「うん」


 その時、我ながら最低だなとアカネは自嘲した。もっとよく探してみよう、なんて。エマのためじゃない。自分が早くここから出たいから言ったのだ。


 ーーーーーーーーあ。


 不意に、気づいた。

 〈ノア〉に一時的に身を置いているのはこの世界の情報と通貨を手に入れて、一応ハルたちに寄せられる信頼度の見極めのため。


 現状の流れは〈ノア〉としての仕事だから当然の事象ではある。〈ノア〉は人助けを是として、何よりも依頼者のために動いている。

 

 それは短い時間でもよくわかることだ。


 では問題。

 アカネはどうだっただろう?


 ここに至るまで、彼女は一回でも誰かのために動いていただろうか?


 ーー否だ。


 サクラ・アカネは。

 ただの一度も誰かのために。それこそエマのために動いていなかったじゃあないか。


 全部自分中心だった。

 仕方なく付き合ってあげていると、上から目線で手足を動かしている。

 〈ノア〉の家にいた時も。

 古書店にいた時も。

 今だって。


 全部誰かのためではなく、自分のためだけに動いていた。


 やる気がないのも当然だった。

 だってエマのことなんて、ハルたちのことなんてこれっぽっちも信じていなくて、そう思っていることを悪いと思っていないんだから。

 

 そりゃあ自分のことしか考えず、人助けなんて向いたないわけだ。


 「……………っ」


 意識したら、もう後戻りは出来なかった。

 自分中心だったことをエマに悪いと思っていない時点でアカネは終わっていた。


 今まで思ったことはないけれど、他者を信用しないことは人間として歪んでいる。

 

 誰かのために走れる人と、思い出のために走れるような、綺麗な心を持つ人なんて元の世界に■人しかいなかったから自分の歪みに気づかなかった。


 一緒にいたら。彼らの心を汚してしまうと思えたのは僥倖だった。

 

 「 え?アカネちゃん?」エマの声を「アカネちゃん!どこ行くの!?ねぇってば!」呼び止めるような声を無視して、アカネは走り出した。



 古書店前。


 「………ほぉう。一言もなくいなくなるとはいい度胸だ」


 「せ、セイラさん?」


 「来いユウマ。探し出す対象が増えた」


 「…………はい」


 ぶん殴る対象が新規追加された、の間違いじゃないの?と、静かに怒るのが一番怖いを体現した"アリア"の姉さんにビビったユウマと、近くにいた住民たちが心の中で声を揃えていた。

 


 

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