『一章』⑩ 心の痛みはいつまでも
「アカネ、エマー、そろそろ行こうってセイラが………」
二人がさっきまでいた場所に来たハルはそこで「あれ?」と首を傾げた。それから周囲を見回し、店内を歩いて、足下にいるギンを見た。
「どこへやったバケ犬」
「なんでだよ。おれが知るか」
「つーかお前早くネックレス見つけろよ使えねぇなぁ」
「むかつく!」
とかやってる場合ではなく。
「どこ行ったんだ?二人とも」
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ーー調子乗んなよ、ブス!
剥き出しの敵意が乗った刃の鋭さの言葉は女子トイレの中ではよく響く。
刃を放った主と、その周りで哄笑するヒトの皮を被った化物たちの姿は見えない。
少女は個室トイレの中に閉じ込められ、上からバケツの水を容赦なくかけられて、手に持ったお弁当が台無しになっているから。
別に。
調子なんて乗ってない。
そう言ったところで伝わるわけもないから。
少女は口を閉ざす。強く儚く。
心を閉ざす。儚く脆く。
きゅっと、唇を噛んだ。
びしょ濡れになった身体は冷たくて、寒くて。
でも。
それ以上に。
ーー胸が。どうしようもなく痛かった。




