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序章 ミコトのノート①

 誰かを笑顔にするようなものを作ることは、とても難しい。これから作ろうとしているものが、ただでさえ子供たちに人気のない郷土史の講義資料であるなら尚更だ。


 その一方で、誰かを想うが故の呻吟が、この上なく楽しいことをミコトは知っていた。それは何年も前に、大切な人とともに見つけた、彼にとっての事実であるからだ。


 人影もまばらな図書館の一角で、来週の講義で会うはずの子供たちを思い浮かべる。乳白色のすらりとした手にペンを載せると、十七歳の魔奏師(まそうし)は、おもむろに文章を書き始めた。


 少しばかり、彼のノートを覗いてみたいと思う。



 首都から遠く離れた山間の平地にチギの国が拓かれたのは、今から千年以上も昔のことだそうです。


 今でこそ大陸有数の魔核(まかく)の生産地として豊かな発展を遂げた古都ですが、入植当初は巨大な黒蟲(くろむし)が蠢く、地獄のような場所であったとチギの風土記に記されています。


 この地では、魔素(まそ)を含んだ乳白色の霧が一年を通して見られる上に、土壌に含まれる魔素が泉に溶け出した「魔素だまり」も点在します。「魔素だまり」ができるような土地は、この大陸にもほとんどないそうです。

 

 こうした土地柄なので、不純物の少ない乳白色の魔素の結晶を見る事ができますし、文明社会に欠かせないエネルギー資源である、高品質の魔核(まかく)が大量に産出されます。


 みなさんには馴染み深いものかもしれませんが、魔素は、この世界に息づく全ての生き物に、強く干渉するエネルギーです。

 魔素は生物の体内に取り込まれると、皮膚や骨格をはじめとする物質、また代謝によって生まれる熱などのエネルギーを変化させるという、極めて危険な性質を持っています。


 人類に失明、奇形、変死などの災厄をもたらす反面、超人的な筋力や演算能力、果ては発火や発電という異能の力を授けることもありました。

 古くには「鬼素(きそ)」とも呼ばれ、魔素に触れたものは悪鬼の類になってしまうと恐れられたのです。


 魔素は人間以外の生物にも同様の影響を与えるため、大陸随一の魔素量を誇るチギの国では、電気を纏う犬や人語を理解する猫など、一風変わった生物が多数出現します。これも他の土地では見られない、大変珍しい出来事なのです。


 古の時代より、わたしたちチギの民と、魔素との関わりは深いものがありました。最初に入植した一団を率いたのはコウガという名の魔奏師(まそうし)で、彼は僕の遠い祖先に当たる人物です。


 魔奏とは、エネルギーである魔素と、その物質である魔核の性質を利用して計画的に人体を変化させて、魔素の恩恵を引き出す術のことです。


 その発展の端緒となったのは、コウガという一人の天才魔奏師が、魔素に溢れたチギの地と巡り合ったことにあります。ここから近代に至り魔装科学(まそうかがく)にその座を譲るまで、魔奏師たちの黄金時代が幕を開けました。


 魔奏は魔素と魔核の性質を利用すると先に言いました。その中でも重要なのは、次の二つの性質です。


 まず、魔核は魔素と結合し、結合した魔素の分だけ大きくなる性質を持っています。魔核が含んでいる魔素がなくなったら、補充することができるのです。


 次に、魔核は生物の体内でエネルギーである魔素を放出し、特定の変化を生物にもたらすことができます。

 例えば、ある魔核から筋力を増大させる性質が発見されたなら、それを体内に取り込むことで、誰でも筋力を増強させることができます。


 このような性質に着目した時の権力者は、黎明期の魔奏師を従えて、有益な性質の魔核を見つけるために、人体実験を繰り返しました。その多くは罪人や奴隷でしたが、時に無辜の人間も犠牲にあったと言われています。

続く

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ファンタジーや異世界というジャンルでしっかりとした世界設定を行っていると言う点ではかなり面白いと感じました。  異世界ものの作品ではメリットだけが存在する魔力という曖昧なものがよく登場し…
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