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02-05 稀代の天才(3)


 食事が終わったところで、グリードはカルラと連れ立って執務室へ向かった。話をするなら応接室でもよかったのだが、ジュリアスが執務室にいるのでそちらにしたのだ。


 部屋についてすぐ、カルラは室内に置いてあるソファーに腰を下ろすと、向かいのテーブルに黒い腕輪のようなものを置いた。


「で、これが頼まれたモンや」


 グリードはそれを持ち上げてみる。ただの環に見えたが、内側に細かく魔法陣に似た文様が刻まれている。


「人間が開発した腕輪でな、魔力の出力を抑えるっちゅーアイテムや。着ける前に設定しておいた奴しか外せんらしい」


「ほう」


 それは投獄中の魔族たちに着けさせるのに良さそうだ。グリードはいろいろな角度で眺めてみてから、試しに己の腕を環に通してみる。


「手首に通すと勝手に締まるから、その前に――」


 とカルラが話している途中に、シュン、と音を立てて環が手首ピッタリのサイズまで小さくなった。


「って、なんであんたが着けとんねん!」


 カルラが立ち上がって怒鳴ったが、どうせグリードは魔法が使えない。出力が減ろうがどうなろうが同じことだ。


「ステータス」


 適当に宙を示してそう告げると、グリードのステータス画面が現れた次の瞬間、腕輪は強く光って弾け飛んだ。破片が顔に当たって若干痛い。


 グリードがカルラを見ると、彼女は眉を吊り上げて「アホかッ!」と叫んだ。


「あんたみたいなバカ高い魔力のやつが使ったら壊れるわ、この魔力お化け! あんた今、全魔力を一斉放出するんやろ!? 許容量オーバーや! 高いんやで! 金無いんちゃうんかい!!」


「す、すまん」


 興奮してあれこれ叫び続けるカルラを、ジュリアスがまあまあとなだめている。壊してしまったことは事実なので、グリードは黙ってカルラの罵倒を受け入れた。


 どの程度までなら壊れないのだろうと考えていると、カルラが紙を差し出してきた。


「それが説明書や。対応可能な魔力量の上限値が書いてあるから、着けさせる前にステータスを確認するんやな。あと、外せる者を誰にするかの設定方法も書いてある」


「ありがとう、助かる」


「恩に着ぃや。数は足らんやろから、また持ってくるわ」


 一通り叫んで満足したらしいカルラが、再びソファーに腰を下ろした。


「あとはいつもの物資を持ってきたから、坊ん、確認しといて。正面玄関の外に置いてある。あんたから頼まれた本も入れといた」


「はい、ありがとうございます。物資の支払いの方は……その、また魔石や素材との物々交換でお願いできると助かるのですが……」


 ジュリアスの言葉を受け、カルラが大きなため息をゆっくり吐く。


「ほんま、王のくせに金無さすぎやろ……軽くでええから税くらい取りや。人間はどこの国もそうしとる」


「そうは言ってもな……」


「そろそろあんたが飢えるで!」


「わ、わかっている」


 城の財政が常に赤字であることは認識しているのだが、作物の育たないナターシアの住人の生活は、豊かであるとは言い難い。それに魔王が替わればどうなるかわからないのがこの大陸の住人の常だ。グリードが魔王である間くらいは、各自で貯めていてほしいという気持ちもある。魔王など死ねば終わりの一代限りのものだ。自分が貯め込む意味はない。


 とはいえ城の使用人やジュリアス達を薄給で働かせてしまっているし、カルラと彼女の部下に至っては「片手間の商売の利益があるからええわ」という言葉に甘えて何も渡していないし、不甲斐ない限りではあるのだが……。


「ところで坊ん。最近あんたに頼まれる本さあ、人間の法律関係が多いけど、そんなん読んでどうすんの? 法律でも作る気か?」


 カルラがジュリアスを見たので、グリードもジュリアスに視線を向けた。


 ジュリアスが城の書庫の本を全て読破してしまい、カルラに本を買ってきてほしいとよく頼んでいることはグリードも知っている。が、何の本を買い求めているかまでは知らなかった。


 カルラとグリードの視線を受けたジュリアスは、「そういうわけではありません」と首を横に振る。


「ナターシアの人口が増えればいずれ必要になる可能性もありますが、今すぐ何かを作るつもりはありません。ただ、まあ、何かの役に立つかなと思いまして」


 ナターシアに法はない。人間の国家とは異なり、ナターシアには力による緩い支配があるだけだからだ。〝強き者には従うこと、文句があるなら戦って勝て〟――基本的にはそれだけだ。弱い者からの一方的な略奪や、正当性のない暴力行為をグリードは禁じたが、法と呼べるほどのものでもない。


 法を作ってみようかとグリードも考えたことはあるが、魔王が変わればすぐに覆りかねないものに多大な労力を投入するほどの余裕がなくてやめてしまった。


 カルラはジュリアスを見たまま、「ふうん」と言うだけでその話題を終わらせた。


「あとさあ、お嬢が小遣い欲しいて言うてる話、聞いてるか?」


「いえ、初耳です」


 カルラがグリードをじろりと睨む。早う言えや、とその目が言っている気がする。グリードが寝込んでいた間の業務がたまっていた上に働き手が減ってそれどころではなかったのだが、反論するのはやめにした。


 ジュリアスがため息をついてから言う。


「まあ、狩りをして頂いている割に何も還元していないのは心苦しかったので、何とか捻出しましょう」


「すまない、苦労をかける」


「いえ、慣れましたよ」


 ジュリアスがたいへん優秀なのはありがたいが、その分苦労もかけっぱなしであるような気がして、グリードは肩を落とした。




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