01-02 一体どうしてこんなことに(3)
ジュリアスが執務室で書類をまとめていると、戻ってきたグリードは無言で自席に腰を下ろした。いつもなら彼はそのまま仕事を再開するのだが、今日は口元に手を添えたまま動かない。
「……どうかされましたか?」
ジュリアスは書類を置いて、グリードのデスクの前に立つ。グリードは手を下ろして一度視線をさまよわせてから、ジュリアスの目を見返してきた。
「いつも通りディアと食事をしてきたのだが……何か変なのだ」
「何か、とは?」
グリードはジュリアスの目を見上げ、やや迷うように黙ってから、ようやく口を開いた。
「いただきます、と言って食べ始めた」
「……ディアドラ様がですか?」
ディアドラの話を始めたばかりなので他の誰かであるはずもないのだが、つい聞き返してしまう。それくらい普段の様子とはかけ離れている。グリードを見つめると、彼は真面目な表情で頷いた。
「そうだ。食事に文句一つ言わずに完食した」
「ディアドラ様がですか?」
「そうだ。そして、ごちそうさまでした、と言って席を立った」
「ディアドラ様がですか!?」
やれ肉が固いだの、やれソースの甘みが足りないだの、彼女はいつも文句を言う。問題がなければないで、「完璧すぎてムカつくな」と言いだす始末だ。再三グリードが注意をしたが何処吹く風で聞いていない。その彼女が何も言わないどころか礼まで述べたとなれば、明日は突然の大嵐であっても驚かない。むしろ嵐でも吹いてくれなければ逆に不安になる。いや、何かの企みであると考えた方がまだ納得できる。
グリードが両手を組んで息をつく。常に無表情の彼の表情を読み取るのは難しいと多くの者が言うが、長い付き合いのジュリアスから見れば、歌い出しそうなほど嬉しそうだった。
「……良かったですね」
何か企みがあるのではという懸念は自分の中に飲み込んで、ジュリアスはそれだけを口にした。
「ああ」
主君が喜んでいるところに水を差すのも気が引けたし、自分に火の粉が飛んでこない限りは彼女の企みなどどうでもいいかと思うことにして、ジュリアスは仕事を再開した。