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【3巻発売中】私の推しは魔王パパ  作者: 夏まつり@「私の推しは魔王パパ」発売中
1章 魔王は魔界を手に……入れたくない
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01-05 狩りになんか行かない(5)


 鳥のように空を飛べたら楽しいだろうなと想像したことは私にもある。けれど、実際に飛んでみた感想は、


(たっ、高いっ! 落ちたら死ぬ! 絶対死ぬ!!)


 ……恐怖でしかなかった。ディアドラが落ちたことなんかないと知っていても、背中の羽一つしか体を支えるものがないというのはかなり心細い。


 それに、飛び始めてから気がついた。魔力を羽に込めて飛んでいるということは、魔力切れを起こしたら飛べなくなるってことだ。


(ザムドの奴、魔力切れで飛べなくなってるんじゃないでしょうね……)


 魔獣に出くわした時のため、恐怖に耐えながらディアドラの狩りの記憶を思い出す。いざと言う時に攻撃魔法を撃てるようにしておかないと、捜索に来たはずの私が死ぬ。それは怖い。……よし、ディアドラがよく使っていた火球くらいは撃てそうだ。


 月明かりすらない中、森を空から見下ろしたところでほとんど何も見えない。ザークシードが何人かで捜索してくれるだろうから、森全体を探し回るのは早々に諦めた。私はディアドラだからこそ探せる場所を回るのだ。よく狩りをする水場付近、木の上に板を渡して作った簡易的な秘密基地、昼寝用に設置したハンモック――


「いない……」


 一通り見て回っても、ザムドの姿は見当たらない。実は狩りではなく町に行ったのかもしれないし、行き違いでもつ帰宅している可能性もある。いったん帰ろうか迷い始めたところで、私の上に大きな影が落ちた。


「えっ」


「キシャー!」


「きゃぁぁぁぁぁっ!!」


 それは巨大な鳥だった。私の四倍はあろうかという大きさの鳥が、鋭いくちばしを私に向けて突進してくる。木の下に逃げ込んでみたけれど、その鳥は木をなぎ倒しながら追いかけてきた。


「やだ! なにあいつ、何なのよ!?」


 木を避けて飛ぶ私と、木々をへし折りながら直進してくる鳥。森の中の追いかけっこは分が悪い。私はいったん上空に飛び出した。私を追って上がってくる鳥に、正面から火球を叩き込む。


 鳥の咆哮に思わず耳を塞いだ。並の魔獣ならこれで倒れてくれるのに、鳥はふらつきもせずになお突っ込んでくる。


(ひいっ!)


 慌てて避け、大急ぎで逃げ出した。どうしようどうしようどうしよう! 岩がむき出しの山が目前に迫ってくる。このまま真っ直ぐ飛んでいたら、隠れる場所すらほとんどない岩山にたどり着いてしまいそうだ。


 仕方なくディアドラの狩りの記憶を再び探り、他の攻撃手段を考える。何かないか、もっと強い、なんていうかこう、必殺技みたいなやつ――


「あった! これでどうだっ!」


 火球を八つ空中に作りだし、まとめて一気に放つ。火球は炎となって鳥を包み込んだけれど、まだ鳥が落ちる様子はない。火は駄目ってこと? それなら氷はどうだろう。


 今度は鳥より上空に魔力を集め、細長く尖った氷柱を五つ作り出す。そしてまだ燃えている鳥をめがけて氷柱を叩き込んだ。


 再び咆哮に耳を塞ぐ。鳥はぐらりと傾き、そして真っ逆さまに落ちていった。ドン、と鈍い音が聞こえ、それから静かになる。煙が立ち上っている場所をちらりと見て、すぐに目をそらす。鳥が死んだかどうかわからないけれど、確かめるのは怖いのでそっとしておこう。すぐに起き上がってくる気配はないからそれでいいことにしよう。


 さて、ザムドはどこに? ふと思いついて、鳥が出現したあたりに向かった。ディアドラの炎魔法をくらっても倒れなかったあの鳥は、炎に耐性があるのかもしれない。それならいつも火球で戦っていたザムドの攻撃もたぶん効かない。あの辺りには土モグラの掘った細い穴がいくつもあるし、もしザムドがさっきの鳥に出くわして討伐できなかったとしたら、穴に逃げ込むんじゃない?


 ふわり、と地面に降り立つ。


 改めて見回すと夜の森は真っ暗で、ほとんど音がしない。風で木の葉が鳴っただけで、つい悲鳴を上げてしまった。怖い。怖いけど、ザムドを探さなくちゃ。


「ザムドー? いるー?」


 あまりに暗くて足元が見えないので、小さめの火球を手の平の上で維持することにした。夜の森で明かりをつけたり話したりしていると肉食獣が寄ってくるから危ない、と何かの漫画で読んだ気がするけれど、穴だらけの地面の上ではそうも言っていられない。転ぶほうが危ないし、いざとなったら飛んで逃げよう。


「大きな鳥なら私が倒したから、出てきなさいよー」


 一つ一つ穴を覗きながらザムドを呼ぶ。ようやく反応があったのは、三つ目の穴を覗いたときだった。


「……ディア?」


 私が覗き込んでいた穴の隣から、ザムドが顔を出す。暗くてよく見えないけれど、這い出てこられる程度には元気らしい、とほっとした。


「ディア~~!!」


「ちょっ、抱きつかないで!」


 ザムドが泣きながら勢いよく飛びついてきたので、持っていた火球を彼に当てそうになってしまった。間近で見るとザムドは泥だらけだし、涙と鼻水でぐちょぐちょだ。うげっ。力づくでザムドを引っぺがす。


 なおも泣き続けるザムドを見ながら、どうしたものかと途方に暮れた。ディアドラの性格で慰めるとは思えないし、何より私は泣いている子供の扱いなどわからない。抱えて帰ってザークシードに渡してしまう……? 悩んでいる間も泣き続けるザムドを見ていたらだんだんイライラしてきて、感情にまかせてザムドの顔をばしん、と両手で挟んだ。


「うるさい! 未来の魔族ナンバーツーがメソメソ泣くんじゃない!」


「へ……?」


 ぽかんと口を開けるザムドに私は言う。


「私が一番、あんたが二番目に強くなるの。あんなでか鳥くらい、さっさと倒せるようになりなさいよね!」


「ナンバーツー……?」


 きょとんと見上げてくるザムドを見て、はっと我に返った。


 し、しまったあっ! 未来を知らない彼からすれば、一体何を言っているんだって思うよね。ナシ、今のナシ! 戻るボタンが現実にもあればいいのに。


 頭を抱えそうになったけれど、


「――うん、わかった!」


 ザムドがそう言って笑ったから、まあいいかと思うことにした。何が〝わかった〟なのかはさっぱりだけど……。


 やっぱり子供はよくわからない。



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