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08-07 黒のふわふわ(1)


 化け物にくっついているという〝黒のふわふわ〟なんて、私には見えない。私にできるのは、ルシアを信じて飛ぶことと、ルシアがつかんだ〝黒のふわふわ〟を一緒に引っ張るくらいだ。


 肩に担いだままではルシアが動きづらそうなので、私の右腕にルシアを座らせるようにして持った。ルシアが私の首に腕を回してくる。大人が小さな子供を抱くみたいな体勢だ。ルシアと私は身長も体型も同じくらいなのに、あまり重く感じない。私の高いレベルとパラメーターのおかげなんだろうけれど、片手で他人を持てるというのは変な感じだ。


「ねえルシア、どれからいけばいい?」


「全部引っこ抜くなら同じじゃない? 飛ぶのはディアだし、任せるよ」


「うーん」


 森の様子を見下ろしながら考える。真っ先にネムを助けたいけれど、その周りで暴れている化け物を先に片付けないと、ネムが危なそうだ。巨大植物の周りにいるのは聖職者と化け物。ぱっと見、人間より化け物のほうが数が多い。


 化け物は聖職者たちを襲っているから、化け物の集団をどうにかすれば負傷者の手当ては聖職者たちが勝手にやってくれる、はず。


「よし、じゃあいくよ!」


「うん!」


 ルシアを抱えてまた急降下する。私たちに気付いた化け物の一体が白い炎を放ってきて慌てて避けた。近くにいた人間が放ってきた白い炎も風魔法で吹き飛ばす。


 毛むくじゃらの大きな獣に向かってルシアが片手を伸ばしたので、獣が振り回してきた腕を避けながら近付いた。獣の体毛に触れるか触れないかのところで、ルシアがぐっと手を握る。


「ディア、引いて!」


「わかった!」


 私も空いている方の手を伸ばして、ルシアの手のそばで握ってみる。綱引きの綱くらい太い何かをつかんだ感覚があった。


「せえ、のっ!」


 見えない綱らしきものをつかんだまま、一気に空に飛び上がる。毛むくじゃらの化け物がぐるぐる回る。急に重くなったかと思ったら、ぶらん、と化け物が吊り下がった。


 このあとどうしようと思った瞬間、ふっと重さが消える。眼下を見回しても毛むくじゃらの化け物の姿が見えない。


「あれ? 今、何が起きたの??」


「なんだろ?」


 ルシアと顔を見合わせてから高度を下げると、倒れた人のところに二人の聖職者が集まって何かしている。毛むくじゃらがいないってことは、うまくいったの? 何がどうなったのかよくわからなかったけれど、続けていればわかるかな?


「次行こ、ディア」


「うん。でも私がつかんだら、ルシアは手を離していいよ。ルシアの魔力がなくなっちゃう」


「じゃあ次からそうするね」


 次は地面を這っていた蛇に向かって飛ぶ。蛇の顔には近づきたくなかったので尻尾のすぐそばまで降りると、ルシアがまた蛇に向かって片手を伸ばした。ルシアが握った場所のすぐ隣を、私も魔力を込めて握る。さっきの毛むくじゃらに付いていた何かより細くて、物干し竿くらいの太さだ。でも毛糸みたいに細い繊維がふわふわしている。


 ルシアが手を離す。私はまた見えない何かを握りしめて飛び上がった。また蛇がぐるぐると回る。勢いをつけすぎたのか、蛇が空中に投げ出された。引っ張っていたものの抵抗が急に消えたと思ったら、回転していた蛇の姿が陽炎のように揺らぐ。それは瞬きの間に人間の男性に変わった。


 やったとガッツポーズをしたのもつかの間、蛇だった人が落下を始め、慌てて男性の胴体を捕まえた。男性の意識はなさそうだ。捕まえた男性をどうしようか迷いながら森を見回してみる。座り込んで呆然としている聖職者を見つけたので、その人に男性を投げ渡した。


「この人よろしくね!」


 何がよろしくなんだと自分でも思ったけれど、座ってるだけなら膝の上に一人乗っかったっていいだろう。三体目の化け物を人に戻す頃には、周囲の人間たちはもう誰も私たちを攻撃してはこなかった。


 四体目、五体目と人に戻し、六体目に近付く。手足が六本ある熊みたいな化け物は、下半身が凍らされていた。


「これを抜けばいいの? 面白いこと考えるね」


 熊みたいなそれの前に立っていたのは、赤茶色の髪をした長身の男の人だった。周りの人たちと同じ聖職者の服を着ているけれど、なんとなくゆるそうというかチャラそうというか、本人の雰囲気とかっちりした制服が合っていない。


 どこかで聞いたことのある声だなと思っていたら、「君がディアドラちゃん?」と男の人が首を傾げた。


「あ。〝兄ちゃん〟さん?」


「ええー、あのお姉さん、俺の名前を君に教えてくれてないの? しょんぼりだなあ」


「ごめん知ってる。ラースさんだよね?」


 ラースさんの名前を呼んでいたのはカルラではなくニコルだった気がするけれど、訂正するのはやめた。


「ラースでいいよ。俺、今こっちに来たとこなんだけど、魔力に混じってる黒い蔓みたいなのを抜いてるんだよね?」


「うん! お願い!」


「オッケー、じゃあ適当に抜くね」


 いや適当じゃなくて真面目に抜いてほしい。


 ついツッコミを入れかけたけれど、そんなこと言ってる場合じゃない。ニコルもカルラも、ラースを〝やる気のない人〟みたいに表現していたし、ラースはいつもゆるいんだろう。


 周囲を見回すと、ラース以外にも化け物の近くで私には見えない何かを引っ張っている人がいた。みんな魔力も〝黒のふわふわ〟も見えているのかもしれない。

 

 ルシアと頷き合ってから、私はネムが変化した巨大植物を見上げた。



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