表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/227

08-03 ずっと独り(1)


「私、今日はニコルと図書館に行きたい!」


 朝起きてすぐ、握りこぶしでそう主張した。


 カルラはなんだかんだで答えてくれないし、ユラも相変わらずニコルに対してガルガルしている。ヤマトは話してくれなさそうだ、となるとあとはニコルに聞くしかない。まだ眠そうな目をこすったカルラが、「あ、そう……?」とぼんやりした声で言う。


「ほら、利用者登録とかあるだろうし、図書館なんて教会の人も使いそうだし、ニコルと行くのがいいと思うんだよ。ねっ、ねっ!!」


「んー、ええんちゃう……」


「長、二度寝せんといてください」


 大きなあくびをしてもう一度寝転んだカルラを、ユラが揺すった。あんまり考えていなさそうな返答だったけれど、許可は下りた。カルラがいいと言えば、ユラとヤマトは何も言うまい。というわけで朝食を食べてすぐ、私はニコルを連れ出した。宿を出て一つ目の角にさしかかってから、


「ねえニコル、カルラとはどうなの!?」


 と詰め寄ると、


「そんなことだろうと思いました」


 ニコルがうんざりしたような目を私に向けてくる。


 王都に来る道すがら、カルラが何度かニコルからリドーの情報をもらっていたことは聞いた。ニコルの「また抱いて運びましょうか?」という発言の〝また〟の意味も聞いた。


 でも肝心な話を聞けていない。ずばりフラグは立っているのか、ニコルはカルラをどう思っているのか、私が知りたいのはそういうことだ。


 スタスタ歩きながら、ニコルは淡々と言う。


「昨日、ここのところの発言は何だと問われたので、告白したらフられました」


 ……は? え?? は??


 ニコルの回答が想定外で、つい反応が遅れてしまった。えっえっ待って待って情報量が多すぎてついていけない。


 昨日ってことは、二人で魔力封じの腕輪を探しに行った時だろう。ここのところの発言っていうのは、ニコルが最近変なスイッチが入ったみたいになっていたことを指しているんだろうか。


 待って違う大事なのはそこじゃない。

 告白したって? しかもフられたって!?


「えっ、えっ、なんで!?」


「昨日フられたって言っているのにえぐってきますね」


「あっいやその……ごめん」


 傷をえぐりたいわけでも傷口に塩を塗りたいわけでもないんだけれど、つい。


 昨日フられたばかりならあれこれ聞くのは気が引ける。でもいつからとかどうしてとか、知りたいことも多すぎる。いや、いやいや、でもさすがに今日はがまん……。


 かける言葉も思いつかず、時々視線をさまよわせつつも黙って歩いていたら、ニコルが苛立たしげな息を吐いてから私を見た。


「どういう意味の質問ですか?」


「え?」


「どうして好きになったのかという問いですか? どうしてフラれたのかという問いですか?」


「えっと……両方」


 素直に答えたら、ちょっと睨まれた。

 なんだよ聞かれたから正直に答えたのに。


 もっと言えば、いつからとかどういうことがあってとか、五W一Hで根掘り葉掘り全部聞きたい。


 ニコルがふいと前を向いて、歩きながら話してくれる。


「前者の問いに答えるのは難しいですが、なんですかね。第一印象と中身のギャップですかね」


「あー、わかる。意外と可愛いよね」


 最初にカルラに会ったときは、大雑把な強いお姉さんだと思った。でも仲良くなってたくさん話すほど、それだけでもないってことがわかってきた。面倒見はいいしいつも明るいのに、心の内にはいろんなことをかかえている。私が一番意外だと思ったのは泣き上戸なことだ。あれは可愛かった。


「どうしてあんなに強い人を、守りたいと思うんでしょうね……」


 呟くようなニコルの小さな声は、風に溶けて消える。しばらく会わない間に、ニコルには本当に大きな心境の変化があったみたいだ。


「ニコルはさ、魔族がどうのって言ってたのはもういいの?」


「あれは……いいんです。完全にわだかまりを捨てられたかというと、自信を持って答えられませんが」


「それもカルラが理由なんだよね?」


「……、それだけでもないですよ」


 急に真面目な目を向けられ、ちょっとドキッとした。でも私は別に何もしていないし……あっ、お父様か。確かにニコルにはお父様がいかにいい魔王かどうかを語り倒したし、ニコルは実際にお父様に会ってもいる。あのお父様が魔王なのだから、魔族に対する偏見も薄れて当然だ。


「ニコルもお父様の良さをわかってくれたのね!?」


「は?」


 眉をひそめたニコルに、私は首を傾げることで返した。いやだってお父様だから。私は何もしてないし。


 ニコルが呆れたようなため息をつく。


「もういいです。で、もう一つの質問のフられた理由ですが、一緒に生きられない女に時間使うな、って言われましたよ」


 どういう意味なんだろう。カルラはあんまり人間だとか魔族だとか、そういったことには興味なさげに見える。ニコルに対してもフィオネに対しても、普通に接していた。聖職者と魔族が相容れないという話でもたぶんない。ニコルはもう破門された身だ。破門されてまで助けてくれた人をフるなんて、カルラも酷なことをする。


「ニコルはどうするの?」


「どう、とは?」


「いやその、やっぱり馬車を降りるとか言わないかなって……」


 不安になってニコルをちらりと見る。またニコルに睨まれた。


「あの、恋愛脳のあなたは忘れているかもしれませんが、馬車に乗せてほしいと頼んだときにちゃんと言いましたよね。一人で戦い続けるのはきついから合流したいって。僕の目的は人間を脅威から守ることです。その手段としてあなた方に声をかけた、それは何も変わりません」


 ニコルがきっぱりと言い切ってくれたことにほっとして「そっか」と息を吐く。


「……それに、諦めたわけでもないですし」


 ニコルがそうぼそっと呟いたのを聞いて、昨日のユラの不機嫌のわけを察した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ニコルくん、告白してたんですね。 直ぐに振られてしまったけれど諦めた訳じゃないニコルくんが、どうやってこれからもカルラさんにアプローチをしていくのか、とても楽しみです。 そして恋愛脳と言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ