01-01 聖女と魔王は対峙する
「五天魔将を倒し、ここまで辿り着いたことだけは褒めてやろう。聖女とその一行よ」
禍々しい玉座に、少女が悠然と座っていた。
まだ十代半ばの、わたしと同い年くらいの少女だ。ほとんど人と同じ姿をしているけれど、尖った耳と頭に生えた漆黒の角、そして背中から広がる黒い羽が、わたしたち人間とは違う種族であると告げている。
背中に落ちるウエーブのかかった赤い髪も、同じ色の虹彩も、どこか血の色に似ていた。何より彼女の浮かべる笑みには明確な殺意と狂気が混ざっているようで、視線を向けられるだけで背筋が冷える。
思わず目を逸らしたくなるような、赤黒くおびただしい魔力が、彼女の身体に収まりきらずに溢れ、暴れ、踊っている。彼女がただ座っているだけでも強大な力に身震いしそうだというのに、本気で力を解放したらどれほどなのだろう。
――魔王。
そう呼ばれるにふさわしい、莫大な魔力だ。
それに比べ、人であるわたしの魔力のなんとちっぽけなことか。聖女と呼ばれていても、わたし一人の力では魔王には到底及ばない。冷や汗が頬を伝い、持っていた杖をぎゅっと握りしめる。
怖い。
今すぐにでも、逃げてしまいたい。
けれど、それでも。
わたしたちは彼女を倒さなくてはならない。
わたしたちの国を、この世界を守るために。
「魔王、貴様は必ずこの剣の錆にしてくれる」
レオンが一歩前に進み出る。その目に燃えるような闘志を宿して。
「我が国のため、負けるわけにはいかない」
アルバートが静かに剣を抜き、切っ先を魔王に向けた。
「ルシアは必ず僕が守る」
大盾を構え、トゥーリがわたしの前に立ち塞がる。
「必ず勝って、共に帰りましょう」
わたしの隣で、ニコルが杖を構えた。
「人と魔族の和平実現のため、あなたにはご退場いただきます。魔王」
ジュリアスが眼鏡をかけ直しながら、魔王を見据える。
魔王はゆっくりと立ち上がると、高らかに笑った。
「ふ――ふはははははは! せいぜい楽しませてくれ、聖女どもよ!」
――と、いうのが、乙女ゲーム〝レジェンド・オブ・セイント〟のラストバトルイベントだ。
この戦いに聖女たちが負ければゲームオーバー、勝てば攻略対象とのハッピーエンドかノーマルエンド。たとえどのルートであっても、敗れた魔王はそこで死ぬ。聖なる炎に身を焼かれ、徐々に身体を灰にしながら、それでも彼女は笑うのだ。
「ははははははは! 楽しかったぞ聖女よ! よかろう! 私が壊し、殺し、破壊し尽くしたこの世界を! 聖女の力で癒せるというのなら、せいぜい治してみるがいい!!」
そして魔王は塵となり、消える。聖女に感情移入していれば、苦戦に苦戦を重ねた魔王がようやく倒れ、ガッツポーズもののイベントだ。でも私にとってはそうもいかない。
だって私がその魔王――ディアドラその人になってしまったからだ。