見知らぬ幼女から「いっしょにおともだちをさがして」と言われたのだが、そのお友達がほぼ間違いなくイマジナリーフレンド
ある雪の日のことです。
積もることはないだろうけど、ふわふわと大粒の雪が降る、ある日の夕方。
街の中を男の人が一人、歩いていました。
仕事を終えて、家に帰る途中です。
「あー、疲れた……。さっさと帰って酒でも飲もう」
この男の人は、奥さんも子供も彼女もおらず、一人暮らしです。
奥さんも子供も彼女もおらず、一人暮らしです。
「いやなんで独身一人暮らしの部分を二回言ったんだよ。嫌がらせか」
そんなさみしい男の人が歩いていると、近くの公園で一人の女の子を見つけました。
男の人は、その女の子を公園の外からジッと見ます。
男の人は、その女の子がどうしても気になったのです。
「その書き方じゃ俺がロリコン不審者みたいだろーが。なんで気になったのか明記してくれ頼むから」
なぜ男の人が、その女の子のことが気になったかというと、その女の子が変わったことをしていたからです。虫めがねを持って、公園の茂みの中に何かを探しているみたいです。
「……何か、大事なものでも落としたのだろうか?」
男の人は、女の子を放っておくことができず、しかたなく声をかけることにしました。
「しかたなく、だからな! 本当にやましい気持ちとかは無いからな!
……お嬢ちゃん。何か探しているのかい? おとしもの?」
「ううん。おともだちをさがしてるの」
「おともだち? かくれんぼでもしてるのかい?」
「ううん。ここでまちあわせしてるはずなんだけど……」
「し、茂みの中で待ち合わせ? どんな友達なんだろう……?」
男の人は、女の子の友達のことが気になってしまいました。
この女の子と同じくらい、可愛い女の子なのでしょうか。
一目見なければ、このままでは気になって夜も眠れません。
「だーかーら、そういう誤解を招くような書き方止めい! もう完全にロリコン不審者だろーが!」
「おじさん、いきなりおおごえだして、どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないんだ。ごめんね。それと、俺はまだ二十代だから、おじさんじゃなくてお兄さんって呼んでくれると嬉しいな」
人間、子供からの呼ばれ方を訂正しだしたら終わりです。
「だまらっしゃい! ……それより、君のお友達って、どんな子なんだい? 茂みが好きな子なのかな?」
「しげみがすきなこなんて、きいたことないよ?
おじさん、あたまだいじょうぶ?」
「なんて口の悪い子なんだろう」
「わたしのおともだちはね、しろくて、ちいさいの」
「白くて小さい……? あれ、もしかして人間ではない? 虫?」
「むしじゃないよ。ようせいさんだよ」
「よ、妖精さん?」
「そうだよ。しろくて、ちいさくて、ふわふわしてて、
おめめがくりくりで、ほっぺたがピンクな、
とってもかわいいこなんだよ」
ああ、イマジナリーフレンドってやつか。
男の人は、そう思いました。
「頭大丈夫?」はお前の方だろ、などと大人げないことを考えました。
「いやそこまで思ってないから。でも……そっか。そのお友達を探すのは大変だろうけど、頑張ってね。応援してるから」
女の子にそう声をかけて、男の人は立ち去ろうとしました。
(俺も昔は、この世のどこかにそんな不思議な存在がいる……なんて子供っぽいこと考えてたなぁ。それが今じゃ、仕事して、酒飲んで、寝る。それだけの毎日。あの頃の純粋さが懐かしいや)
などと生意気にもノスタルジックなことを考えながら、帰ろうとします。
「いま生意気って言った? ねぇ生意気って言った?」
しかし。
今度は女の子が声をかけてきました。
「おじさん、しんじてないんでしょ? わたしのおともだちのこと。
どうせいないっておもってるんでしょ?」
「え!? あ、いや、そんなことないよ。君がいるって言うのなら、きっといるんだと思ってるよ」
「おじさん。おじさんもいっしょにおともだちさがして。
わたしのおともだち、おじさんにみせたい」
「い、いやでも、お兄さんもおうちに帰らないと……」
「いっしょにさがしてくれないと……おっきなこえだすよ」
「喜んでご一緒させていただきます」
やはり自覚があるのか、男の人は不審者扱いされるのを恐れて、女の子のお手伝いをすることになりました。
しんしんと雪が降るなか、一生懸命に茂みをかきわける男の人と女の子。
しかし、探しても探しても、お友達とやらは見つかりません。
おそらも少しずつ暗くなってきました。
白くて小さいという、女の子のお友達。
はたして何者なのでしょう。猫でしょうか。鳥でしょうか。
しかし、女の子は「妖精さん」と呼んでいました。
さすがにあの女の子も、猫さんや鳥さんを「妖精さん」とは呼ばないでしょう。
もしかしたら、この空から降ってくる雪が、そうなのでしょうか。
一応、女の子が言う「お友達の特徴」には当てはまります。
どんな生き物なのかも分からない、女の子のお友達を探す男の人。
そもそも、本当にそのお友達はこの世に存在するのでしょうか。
「存在するワケないじゃん、絶対イマジナリーフレンドだって……。くっそー、面倒なことに巻き込まれた! 俺の自由時間がどんどん減っている! 明日の仕事が近づいてきている! もう嫌だ帰りたい!」
「あ! いたよ! おともだち!」
「え!? ホント!? 助かった!」
女の子がおいでおいでと手招きしているので、男の人も女の子のところまで近づきます。いよいよ、女の子のお友達とご対面です。
「ほら! このこがわたしのおともだちだよ!」
「え……これって……」
そこにいたのは、茂みの葉っぱの上にちょこんと乗っている、小人のような生き物でした。体は綿毛のように白くてふわふわで、青くて小さなまんまるおめめ。ほっぺはほんのりとピンク色に染まっています。
「な、なんだ、このクリーチャーは……? コロボックル? キムジナー?」
「きょうはね! このこと『たからものこうかん』をするってやくそくしてたんだ! わたしのたからものと、このこのたからものをこうかんするの!」
そう言って、女の子はその不思議な生き物に、指輪を渡しました。
鮮やかなピンク色の宝石がキレイな、おもちゃの指輪です。
不思議な生き物がその指輪を受け取ると、おかえしを渡してきました。
その生き物が両手で持てるくらいの、これまた小さなどんぐりでした。
「わぁ、かわいい! ありがとう、だいじにするね!」
女の子は不思議な生き物にお礼を言って、花が咲くような笑顔を浮かべました。
その生き物は、女の子に短い腕で手を振ると、茂みの中に消えていきました。
「……ね? わたしのおともだち、ちゃんといたでしょ?」
「……うん。いたね、本当に」
「でしょー! わかってくれればいいの! わかってくれれば!」
「あのお友達に、名前はあるのかい?」
「ううん。あのこはおなまえをおしえてくれないの」
「名前が無いんじゃないかな。君が付けてあげたらどうだい?」
「じゃあ、『けだま』にする!」
「ネーミングセンスよ……」
その後、男の人は女の子とさよならしました。
別れ際に、男の人は女の子の住所と電話番号を教えてもらいました。
「教えてもらってないから! どんだけ俺をロリコン不審者にしたいんだよ!」
ようやく女の子から解放された男の人ですが、空はすっかり真っ暗です。
大人にとって時間は貴重なもの。
その貴重な時間を、随分と女の子に使われてしまいました。
けれど、男の人はぜんぜん、嫌な気分ではありませんでした。
むしろ、女の子と出会う前よりも、スッキリしたお顔です。
「あの生き物、なんだったんだろうな。俺は社会人になって随分と心が寂れてしまっていたけれど、そんな俺でもあんな、子供しか会えないような不思議な生き物に会えるのか。それとも、俺が普段から気付かないだけで、探せば意外と見つかるのかな、ああいうの」
それはまるで、なくしていたものを見つけたような。
子供の頃は持っていたのに、大人になってからなくしてしまった、大切な物。
それを、見つけることができたような。
そんな気持ちのいい笑顔を浮かべながら、男の人は帰っていきました。
誰もいないお家と、また明日から始まるお仕事が、男の人を待っているから。
「……そろそろ聞こうと思ってたんだけどさ。
ナレーションは俺に何か恨みでもあるの?」
ご読了、ありがとうございました。
ところで、冬童話2021のバナーに載ってるあの白い生き物、可愛くね?
そう思いながらこのお話を書きました。