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七、幕間

 依頼主指定のホテルで夕食を摂り、シャワーを浴びて下調べの続きをする。問題は小さなよくあるものだった。地域集団内の組織のいくつかが道路整備の分担金の支払いを拒んでいる。

 支払い拒否の側の言い分は、道路整備は必要だが過剰品質となっている。そこまでの分担は不要のはずだ、というものだった。

 しかし、その道路はトラック輸送も行われており、歩行や自転車のみを想定している拒否者の言い分には無理があった。また、そう主張しながら、物品タグの追跡からトラック輸送されてきた物資を利用している事も分かっている。

 道路整備の内容はトラック輸送を前提とした場合、十分納得の行くもので、他の地域でも同様の工法を同じくらいの経費をかけて行っていた。

 片倉はそのあたりをまとめ、明日から拒否者たちの説得に当たる旨を依頼主に報告するとすぐに返事が来た。

「ありがとうございます。これでお願いします」


「私たちは分担金を支払うつもりはありません」

 拒否者たちの代表が静かに言った。

「現在の集団を抜け、我々だけで新たに組織集団を立ち上げます。道路整備も独自に行います」

 片倉は自分の端末で地図を確認した。

「皆さんのお住まいの場所は地域の入り口にあたりますが、道路沿いには現在の集団の構成組織が多数居住しています。彼らへの物資輸送が回り道となり非常に不便かつ高コストになる点をお考え下さい」

「それはお気の毒ですがやむを得ません。組織集団の再編は十分想定するべきだし、地図上で重要な位置を占めている組織にはなんらかの利益があってしかるべきでしょう」

「では、皆さんはそういった利益が保証されれば現在の集団からの離脱は行われませんか」

「そうですね。そうしない方が利益になるならしません」

「『保証される利益』とはどのくらいですか」

 片倉の問いに、代表者は端末の画面を見せた。

「このくらいで」

「皆さん全体で、ですか?」

「いいえ、一組織あたりです」


 片倉は腕を組み、苦笑いを浮かべた。


「ひとつ、お伺いしてもよろしいですか」

「なんでしょう」

「私は独立人(インディーズ)として様々な組織や集団間の調整を行ってきました。その経験からですが、このような強い要求をなさる場合はそれなりの力が必要になります。しかし、見たところ特に後ろ盾をお持ちのようには見受けられません。もし私の依頼者があなたの要求を拒否したらどうでしょうか。次の手はなんでしょう」

「それは明かせません」

「ないのですね。こういう場合力を隠す理由はありませんから」

「ご自由にお考え下さい」

「分かりました。しかし、お考えを改められるよう強くおすすめします。いまなら分担金を収めるだけでなにもありませんよ」

「脅しですか」

「ええ、そう取って頂いて構いません。なんの力もなく要求だけというのは無理があるでしょう。あなた方は単に有利な土地を占めている、というだけです。もっと冷静にお考え下さい」

「少し他の者と連絡をとってもいいですか」

「短めにお願いします」


 代表は端末でどこかと通信を始めた。文字でやり取りしているらしい。十分ほどそうしていた。

「片倉さん、分担金について減額などは可能ですか」

「いいえ、他組織と同様にお願いします。すでにご連絡したように、行われる整備内容や他地域の状況と比較しても妥当な額ですし、また皆さんの支払い能力を超えているとも考えられません」


 三日後、この問題は片付いた。分担金はきちんと支払われる。離脱もなかった事になった。

 片倉は報酬を受け取ると公園に寄った。表示によると複数の組織集団が運営しており、分担金と使用料でまかなわれていた。ベンチに腰掛けホテルを取る。それから仕事のリストをざっと確認する。次の仕事まで少し間が空く。ついでに投資の状況を確認し、東陽坂の水の権利が入手時の二百五十パーセントで売れ、エネルギーや通信、食品系組織の暗号通貨と株に変換されたという通知を受け取った。


 公園を出、ホテルに向かいながら街をぶらつき、新型の端末はどんなものか試してみた。販売店の店頭には今運用されているGPS衛星の数や維持管理を行っている組織の信頼度が掲げてあったが、グラフは見慣れた右下がりだった。地図情報はかなり以前に更新を行う組織がなくなったため途中で線が切れていた。

 店員は他の客の質問に答え、どのような方法で位置情報を補完しているか説明していた。基地局との三角測量、慣性航法など、それぞれに特性があったが、いずれにせよ精度を高めるためには端末が重く大きくなるのは避けられなかった。

 片倉はひとつ手にとって見たが、仕様表を見ると今より大きく重くなるのに性能はそこまで上がらない。その分動作時間が長くなったくらいだった。


「それは仕方ないですね。もう衛星を軌道投入できる組織なんか世界中どこにもないですよ。軍なんかないし。現状維持すら怪しいです」

 店員がなれなれしく話していた。常連客だろうか、聞いている方も端末を手に取りながら苦笑いしている。


 その日は端末は買わずに店を出た。入店ポイントが増えていなかったので調べるとつい最近やめてしまったとの事だった。


 空気は暑く湿っている。汗が乾かず不快だった。歩きながら食事ができる店を探す。検索条件は安全と信頼だった。いくつか出てきた候補の内、使用できる通貨の種類の多い店の詳細情報を出した。『東陽坂組織連合−円』もその中に入っていた。

 店ではカツ丼を頼み、サラダを大盛りにした。


 チェックインして部屋に荷物をおいた。評判のいいホテルで、簡素だが清潔だった。浴槽にたっぷりと湯を張っても色がついていない。半身浴で汗をかき、さっと水で流した。


 風呂からあがって自然に髪を乾かしていると通信が入った。『雪ん子の会』とだけ表示されている。音声のみにして出た。

「片倉です」

「坂下です。いつぞやはどうも。今よろしいですか」

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