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教室とクラスメイト

 そういうわけで、時間を気にすることなく俺は思いっきり遅刻して教室までやってきた。美涼も妹子も学年が違うので、この教室に入ったのは俺だけだ。そして、教室は二の二。自分のクラスは、直前で思い出した。


 ガラッとドアを開けると、そこはホームルーム真っ最中の教室。

 タイミングとしては、最悪だろう。


「あら、永遠くん……?」


 眼鏡の気の弱そうな女教師が驚いたような顔をしている。そりゃ、俺のような不登校の生徒が急に現れたらびっくりするだろう。


「……ちょっと、遅刻してきてるんだから、少しは申し訳なそうに入ってきなさいよ」


 そう言って、俺のことを睨んでくるのはこのクラスのホームルーム長の勅使河原凛(てしがわらりん)だ。勝気で、体育会系で、秩序を乱す俺のような奴を嫌う。美人ではあるが、ツンツンしていてとっつきにくい。


 だが、そんなふうに言われても不快にはならない。

 俺が思っているのは別のことだ。


 それは……やっぱり、こいつも登場するのか、ということだった。いよいよもって、俺の書いた小説通りの世界のようだ。


「そ、それじゃあ……永遠くん、席についてください。お話を続けますね……」


 女教師(年齢は二十四歳。趣味は読書)に促されて、俺は自分の席である窓側の席についた。ええと、この先生の名前は、確か……花井菜乃花(はないなのはな)だったかな。


「ええと、それでは……二週間後に期末試験がありますので、皆さんしっかりと準備をしておいてください」


 試験といっても、当然、普通の学校と試験内容は違う。筆記試験もあるが、大事なのは実技。つまり、魔法を使った戦いのはずだ。これで最後まで勝ち抜いた奴がクラスのトップということになる。それによって席順も変わる。


 つまり、窓際の一番後ろの席の俺は現在、最も成績が悪いということになる。なぜなら、前回の中間試験に俺は出なかったはずだ。なので、俺のランクは最低の席(三十五番目)になってしまっている。


 ちなみにクラスのランク一位の席である廊下側の一番前に座っているのは勅使河原だ。剣と攻撃魔法の使い手である勅使河原は学年トップという設定だった。


 なお、学年トップを決める学年杯は十二月に行われる。そして、三月には学校一を決める学校杯がある。もっとも、クラス暫定最下位(一年の最下位だから、学校全体で最下位とも言える)である今の俺にとっては無縁の話だが。


「そ、それでは、皆さん、今回の期末試験は一学期最後の考査ですから、必ず出てください。もし体調不良で出られない場合は絶対に補習に出てください……。その、二連続で棄権となると、進級が難しくなりますから……」


 そう言って、おどおどしながらも花井先生は俺のことを見てきた。つまりこれは、俺に向かって言っているということだ。それは、クラス全員にもわかったらしい。


「けけっ、うちにはどうしようもねぇゴミ野郎がいるからなぁ~!」


 席順三番目の岩山田剛太(いわやまだごうた)が、俺のほうを見ながら嘲りの声を上げる。


 ゴリラのように巨大な体で、毛深い。不良グループのリーダーみたいな奴で、女子からは嫌われているという設定だったはずだ。ランクが下の気の弱い男子をパシリのように使ったりして、典型的なDQNだ。


「い、岩山田くん……し、私語は、つ、慎んでください……」

「はいっ、先生っ、わっかりましたぁー! ぎゃはははははっ!」


 バカにしたような岩山田の笑いに、花井先生はビクビクしてしまう。気の弱い先生では、岩山田の暴走を止めることはできない。止められるのは、ランク一位の勅使河原と、ランク二位の水無瀬氷(みなせこおり)だけだ。


 ちなみに水無瀬も俺同様によく学校を休んでいて、今日も出席していない。それでも試験だけは出てきて好成績を残しているので、あの席順なのだ。教室に来たことで、色々と思い出してきた。


「先生困ってるでしょ、静かにしなさいよ……」

「けっ、てめぇに言われる筋合いはねぇよ。すぐに俺がランク一位になるんだからよぉ! げははははっ!」


 勅使河原がたしなめるが、岩山田はまるで聞く耳を持たない。


 勅使河原も岩山田のことは嫌いなので、表情にそれが出ている。それでも、岩山田はニヤニヤと脂ぎった笑みを浮かべて勅使河原のことを眺めていた。まったく、絵に描いたようなゲス野郎だ。


「そ、それでは授業を始めましょう」


 一時間目はちょうど担任の担当教科である魔法史の授業だった。


 特に実技とは関係ない教養科目である。花井先生はあまり魔法も武術も得意ではない。だから、ますます岩山田のような奴がつけあがってしまうというのもあるだろう。このクラスには岩山田の取り巻きが五人ぐらいいる。


 ……まったく、創作の世界にまで、よくも俺は嫌な人間を配置したものだ。

 だが、もちろん、それは最終的に俺のストレスを晴らすためだが。


 せいぜい、今のうちに騒いでいればいい。ここが俺の作り出した世界なのだから、お前らの運命は、俺の手の内にあるのも同然なのだ。


 岩山田たちは授業中も授業と関係のない質問をしたり、頻繁にトイレに行ったり(それに取り巻きもついていったり)、ろくでもない奴だと改めて認識できた。こいつらに好き勝手させるのも、あと少しの辛抱だ。


 このあとの展開はしっかりと覚えているのだから――。


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