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今日は記念すべき、始まりの日


「おにーちゃん、まだー!?」

「わわっ!? わかった! わかったって! だから、ドア開けるなっ! 今、着替えるからっ!」


 妹子が今にもドアを開けそうなので、慌てて学生服代わりの黒色の戦闘服に着替えた。あとは剣を腰に装備して、鞄を持てばオーケーだ。


 時間割はわからないが、鞄にあらかじめ教科書が入っていたので、これで大丈夫なんだろう……たぶん。


 軽く身だしなみを整えて、ドアを開いた。そこは、廊下。他にもいくつかドアが並んでいる。典型的な学生寮だ。


「ほら、下で美涼ちゃん待ってるよ! 急がないと遅刻なんだからー!」


 そのまま妹子に急かされて、階段を下り、下駄箱の前へやってくる。

 そこで、202号室「永遠了」と書かれた名札の下から靴を取り出す。そう。俺が考えた主人公の名前は「永遠了(ながとおりょう)」、そして、妹の名前は「永遠妹子」。だんだん思い出してきた。



「……おはようございます、先輩」


 そして、寮の玄関前で待っててくれたのは長い黒髪のよく似合う、落ち着いた雰囲気の和風美人だった。確か、妹子の同級生の観月美涼(みづきみすず)だ。


「先輩、体調はどうですか?」

「え、いや……まぁ……普通だが?」


「そうですか。秘められた力のために調子が悪いのはわかっていますが……さすがにこれ以上休むと進級が危ぶまれますよ?」


 秘められた力……? ああ、そうか。現実世界の俺が朝に弱かったのを自己正当化するためにそういう設定を考えていたんだった。


 そうだ。俺は秘められた力を制御するために、一般人よりもエネルギーを余計に消費してしまうんだ。しかし、その力を解放すれば、俺は強くなりすぎる。だからこそ、抑えるためにエネルギーを使っているのだ。


「……でも、今日はちゃんと登校できるんですね? よかったです……もうずっと休みでしたからね、今日もだめだと諦めていましたが……。サンドイッチを作ってきたので、一時間目の休み時間にでも食べてください。お昼は別に作ってあるので、屋上で一緒に食べましょう」


 そう言って、花柄の風呂敷に包まれたバスケットを渡してくれる。なんか俺は、ここのところずっと登校していなかったという設定らしい。


「……なんか、すまんな。ここまでしてもらって」


 美涼はこういうキャラだったかと違和感を少し覚えるも、俺は不自然にならないように会話をすることにした。


「……先輩がようやく登校できるようになったんですから、誠に喜ばしいことです。ついに……ですね」


 そう言って、美涼は俺のことを意味ありげに見つめてきた。


 なんだ、ついにって……? 変なことを言う。美涼はというと、俺のことを感慨深げに見つめ続けていた。こんな展開、たぶんなかったと思うのだが。


「ねー! 早く行かないと遅れちゃうよぉ!」


 妹子が怒りながら、すでに校門のほうへ歩き始めている。


 寮から学校へは徒歩三分。目と鼻の先だ。俺の他にも遅刻しそうになっている生徒もいるみたいで、全速力で駆けている者もいる。

 美涼との会話で、つい遅刻しそうだということを忘れしまっていた。


「それでは、行きましょうか。先輩。今日は記念すべき、始まりの日です」


 意味ありげなことを言いながら、美涼は歩き始めた。さっきから意味ありげなことばかり言うので、俺はふと考えてしまう。なんか、おかしい。まるで、美涼は俺の事情を知っているかのようだ。


「もうっ、はやくはやくぅ~!」


 今にも走り出そうとする妹子。でも、俺は考えながら悠然と学校へ向かうことにした。


 予鈴が鳴ったりしているが、気にしない。どうせ、ここは物語の世界内だ。現実のようになにかに追われて生きるようなことはしたくはなかった。


 まぁ、途中から十五年ほど引きこもっていたわけだから時間に追われることはない後半生だったのだが。


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