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人質になる主人公とメインヒドイン

 ファーストフード店を出たところで、俺は異変に気がついた。


 駅方向・学校方向・そして、道の向こう、と――スマートフォンを持った不良が、俺たちのことをジロリと睨んできたのだ。そして、俺たちのほうを見ながらどこかへ連絡を取り始める。


 ファーストフードの店内に岩山田の手下でもいたのだろうか? 勅使河原との会話に夢中で注意が足りなかった。


「勅使河原……」

「わかってる。……ファーストフードに来たのは軽率だったかも」


 勅使河原は軽く唇を噛むと、俺の耳に顔を寄せてきた。


「……寮まで走るわよ」


 まぁ、それが最善か。

 寮まで走れば、そうそう向こうも手が出せまい。さっさと逃げないとDQNどもが集まってくるばかりだ。あいつら群れるの好きだもんな。


「よし、食後の運動だな」


 俺と勅使河原は目で合図をすると、一気に駆け始めた。


「あっ……待て、てめぇら!」

「待てや、ごらぁ!」


 やはり、俺たちを見張っていたことに間違いないようだった。俺たちの動きに気づいた二人が背後から追いかけてくる。そして、正面からは二人が立ちふさがる。


「逃がすかよ!」

「かまわねぇ、やっちまえ!」


 正面のDQN二人は迷うことなく殴りかかってくる。まったく、公衆の面前で暴力を振るうだなんて警察が怖くないのか、こいつらは。


「あんたたちなんかに捕まるわけないでしょ!」


 勅使河原が地を蹴ってDQNを飛び越えた。地を踏んだタイミングで魔力を行使したことで、十メートル近いジャンプになった。

 スカートの中が見えるのを気にしないとはなかなかやる。


 よし、俺も同じようにやりすごすかっ!

 勅使河原同様に地を蹴って跳躍してみたのだが――、常人のジャンプ力しか発揮できなかった。


 となると、当然、目の前のDQNの拳の餌食になる。自分から拳目がけてジャンプしたようなもので、ダメージだけが高くなるだけだった。


 どごっ!


「ごふっ……!」


 もろに顔面に……。俺の端正な顔に傷がついたらどうすんだ。


「……こいつなにやってんだ?」

「魔法使うのに失敗したんじゃね? 魔法学校の生徒のくせにマジウケルわ」


 くそっ。こんな雑魚にまで舐められるのか、俺は……。


「永遠っ!?」


 勅使河原は逃走をやめて、こちらへ戻ってくる。


「勅使河原っ、お前だけでも逃げろって」

「あんた、力使えるようになったんじゃなかったの!?」


 まぁ、さっそく嘘だってバレちまったわけだな……。こんなタイミングでDQNに襲われるなんて想定外だ。


「ふひひ、もう逃がさねぇぜぇ?」


 俺たちを囲むようにDQNが集まってくる。その数、十人ぐらいか。平日だってのに、暇人どもめ。


「ふんっ、面倒だから逃げようと思っただけなのに……あんたたち、どうやら怪我したいみたいね?」


 そう言うと、勅使河原は魔力を高め始める。


 こいつらは魔法使いじゃなさそうだし、勅使河原が本気を出せばすぐに片づくレベルだとは思うが……。


「おら、立てや!」

「えっ、うわっ……!?」


 俺はDQNに強制的に立たせられると、まるで盾にするように勅使河原のほうを向かせられる。


「ふへへっ、魔法をぶっ放したら、こいつに当たるぜぇ?」


 うげっ、俺、人質かよっ! 人質になる主人公とか情けなさすぎるだろ!


「ふんっ、そんなの関係ないわ! まとめて倒しちゃえばいいんだから!」

「な、なんだとっ!? 血も涙もねぇ女だぜ!」

「少しは躊躇しろや! 仲間なんだろ!?」


 勅使河原の反応に、DQNどもがうろたえる。というか、俺もうろたえていた。マジで俺ごとDQNをやっつける気か? 痛いのは嫌なんだが!


「永遠、安心して! ちょっと、意識が飛ぶほどの激痛を覚えるだけだから!」


 ぜんっぜん安心できる内容じゃないんだが!


 しかし、勅使河原はやる気マンマンのようだった。魔力を高め終わったのか、両手をこちらに突き出す。そして――


「雷撃槍雨!」


 マジで魔法をぶっ放しやがった。無数の槍状電流がこちらに襲いかかってくる。

 ちょっと待てや、こんなのくらったら……!


「ぐえええええっ!」

「ぎえええええっ!」


 俺の周りにいたDQN達は直撃を受けて倒れ込み――


「あばばばばばばばばばばっ!?」


 まとめて俺も感電していた。


 ……まぁ……思ったほどではなかったが、それなりに痛い……。ビリビリと痺れる感じは、なんというか気分がいいものではない。


「ふんっ、クラスランク一位を舐めてもらっては困るわね!」


 DQNを成敗した勅使河原は上機嫌だ。


「……あ、大丈夫? 永遠」


 思い出したように、勅使河原から訊ねられる。


「……あ、ああ。なんとかな」


 まさかこんな強攻策を取るとは思わなかったが……。さすが、雷撃の戦乙女。美涼に負けず劣らず酷い。


「……もうっ、あんたなんで嘘ついてたのよ? やっぱり、秘められた力を解放できてないみたいじゃない」

「……それには、海よりも深く山よりも高い理由があってだな……あばばばっ」


 どうする……。ここで美涼のことを話すのはなんとなく気が引ける。というか、のんきに会話をかわしている場合ではないだろう。いきなり街で魔法をぶっぱなしたものだから、通行人の注目を集めまくっている。


「って、とりあえず逃げたほうがいいんじゃないのか? 警察が来ると厄介だぞ?」

「そうね。とりあえず、寮で話は訊くわよ」


 とにかく俺と勅使河原は、この場を離脱することにした。


 まったく、つまらんことに巻き込まれたものだ。これじゃあ、しばらく、駅前へ行けないじゃないか。これだからDQNと関わるのは嫌なんだ。


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