表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
903/923

浮舟の拒絶

 源氏物語を読み終えてしまった

 少し嬉しくて、少し寂しい

 読書にはジャストミートする時期があると

 大江健三郎が言っていたっけ

 本には出会うべき時がある

 でも、それにいたるまでの、空振りやファウルに終わる読書にも意義はあると

 自分にとって、ジャストミートだったかはわからないけど

 いま読むことが出来てよかった

 とても面白く、とても退屈だった

 でもこの退屈は、可能性のある退屈だ

 聖書やバッハと同じだ

 退屈が含まれない作品の、どれほどつまらなく、色褪せることの早いことか

 とりわけ好きな巻は、「御法」と「幻」の二巻だった

 前者は死んでいく者の眼から世界を眺め、後者は死に後れた者の眼から世界を眺める

 源氏物語を読んでいると、これは死に憑かれた物語だな、という印象を一面では受ける

 これを書いた人は、死にたいと心底願ったことがある人なんだなあ、と

 勝手にそう考えてしまうような、独自の死の感触がある

 死にたいと願って、入水したかと思われて、ある意味では死んで、ある意味では甦って、この世にふたたび生まれたような、浮舟

 死ぬことによって、自分自身の意志を手に入れたかのように、あらゆる甘言を拒むようになる浮舟

 彼女の拒絶で物語は終わる

 おびただしい数の歌が登場してきたこの物語、あらゆる感情を歌に詠み、歌を詠まれたら歌で返すのが作法のようなこの世界で、返歌も返事も拒否する浮舟

 この拒絶に出会うために、この長い物語を辿ってきたのか

 なんて清々しい

 魂の自由の

 先触れとしての拒絶

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ