リハビリ
わたしはなかなか
書かなくなってしまったけれど
無理に書こうとするよりは
源氏物語を読んだりすることが
リハビリになるような気がなぜかして
病院に通うような気分で
この長大な古典を読み耽って
ときにサボって
ときに上の空で
ときにこころが揺れたりもして
失われた時を求めてよりも、ユリシーズよりも、特性のない男よりも、白鯨よりも、ドン・キホーテよりも
読むのに時間がかかってしまったけれど
わたしはなかなか
この病院に差す仄かな光が
気に入り始めていたけれど
それももうすぐ読み終えてしまう
ほっとするような、寂しいような
雨が上がってもなお曇り空という案配で
一読したからといって
読書に終わりはないけれど
とはいえひとつの節目ではある
わたしは退院できるのだろうか
新たな病院を探すだけだろうか
わたしは書きたいのだろうか
書けるのだろうか
紫式部の日記には
花の色も、鳥の声も、空の景色も、月の光も、霜雪も
そんな季節になったのだな、と感じるだけで
この先どうなるのだろう、とお先真っ暗な心細さは募るばかりで
ただ物語を様々にいじくることで自分の虚しさ寂しさを慰めて
「世にあるべき人かずとは思はずながら、さしあたりて、恥づかし、いみじと思ひ知るかたばかり逃れたりしを」
などと述べてあって
なんだか共感したりもしながら
わたしはこのリハビリに励んでいた
仄かな光を惜しむようにして




