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リンゴの木
ピアノで散々聴いていたバッハの曲を
オルガンで聴いて
胸がいっぱいになった
楽器が変わっても
こころを動かす大切な箇所は
まったく同じように清らかに響いたから
百年近く生きて、晩年に到っても清新な文章を書き続けた
とても好きな音楽批評家の方が
「明日死ぬとわかっても私は今日リンゴの木を植えるのをやめないだろう」というルターの言葉を引用して
できるかどうかはわからないが、自分もそうありたいと願っている、と書いていた
願うだけではなく、そうあることができた人だと思う
バッハはいかなる心情で
あれだけの数の音楽をつくり続けられたのだろう
ぼくにはわからないけれど
遠い時代や遠い場所の
だれかがつくりだした素晴らしいなにかに、こころを動かされるそのたびに
リンゴの木を植えることをやめなかったすべての人に
感謝したくなる
自分もそうあれたらなと
願うばかりだ