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初めての海
初めての海
記憶を落としてきたような
色さえあやふやな
海
白紙に垂れたインクが
瞬く間に広がり染めて流れ出したような
規範をすべて溶かすような
酒杯が砕けてこぼれ出したような
暴力としての海
憧れた色
浮き輪に凭れて
弛緩したまま
だれにも気づかれず
沖までさらわれた
最初は笑い
それから怖くなった
泣きながら
死ぬ気で水を蹴って
人のいる浜辺まで戻った
あのまま戻らなかったら
どこへ
どこまで
もしも
初めての海で終わっていたら
この記憶もなかった
去りたい夜に思い出す
海
過去よりも深く




