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人がこんなにいるのに荒野
咳き込んでいる
あらゆる人の善意が
芳しくない
倫理の空気の通い路が
人がこんなにいるのに荒野
当然のごとく認識次第
どれだけの人間が認識によって荒野
わざわざ荒野に自分を棄てていることか
草が生えるのを
見たことがない
花が咲くのを
驚けたことがない
いつもいつのまにか
自分の知らないところで
なにごとかが生まれて咲いて散っている
子どもと子どもがぶつかって
一瞬、呆然とした表情を浮かべた後
堰を切ったように泣き始める
あの一瞬の遅れ
痛みを自覚するまでの
子どもではなくなった人は
どれだけ遅れることか
どれだけあの一瞬に踏みとどまってしまうことか
痛みをとらえられず、泣くことを得ず
どれだけ呆然と荒野に佇むことか