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だれも死を知らない
だれも死を知らない
死の過程を味わったことがない
死を浴び、死を味わい、死を知った人間は、すでに死んでいる
生きている者はだれも死を知らない
死者はおびただしいほどいるのに
いま生きている人間よりもすでに死んでしまった人間の方が圧倒的に多数派なのに
だれも死を知らない
生きているうちにそれを知ることはできない
これは驚くべきことだ
いまもまた驚いてしまう
そこにはだれも近づくことができない
死ぬときにしか触れられない
ぼくは死を知ることが怖い
だれかが死を知ることも怖い
だれも死を知らないということも怖い
その怖れはなにに由来するのだろう




