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カーブミラーに
カーブミラーに
事故の風景が映っていたとする
血だらけ、飛び散り、阿鼻叫喚
あなたの行く手
あなたが曲がらなければいけないその先に待つ
あなたの事故死の風景
あなたはぼんやりカーブミラーを見つめる
立ち止まったまま
日が暮れて夜が深まっても
相変わらずその先に進めず幻視に耽りつづける
あなたの死がカーブミラーに尽くされている
こんな不吉な曲がり角で
あなたは終日その先に進めない
カーブミラーがあったおかげで
自分が死ぬことに気づくことができた
カーブミラーがあったせいで
自分はその先に一歩も進めなくなった
あなたは寄る辺なく立ち往生する
季節が変わり木の葉が散り人が移ろい車が錆びついても
カーブミラーの前で
あなたは曲がった先を恐れつづけている
冷たい鏡像を信じつづけている
カーブミラーに
綺麗な夕映えが差した
あなたは誘われるように
曲がった先のあなた自身になるために
恐れを忘れて踏み出すのかもしれない




