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他人のためにいのちを懸けた人
他人を助けるために亡くなった漫画家さんを思い出す
子どもの頃に夢中になっていた漫画の作者さんが
そんな死を迎えたことに動揺した
自分はだれかのためにいのちを懸けられるだろうか
死ぬつもりだったわけではないだろうけど
どうしてもそんなことを考える
怖くて指一本動かせず固まっている姿しかイメージできない
情けない話だ
それほど生きることを愛しているわけでもないくせに
他人のために、大義のために、国家のために死ね、と命じる安全圏からの声にはこころの底からの軽蔑と瞋りしか感じないけれど
助けようとして死んだ人の行為には
胸がざわめく
人その友のために己の生命を棄つる、之より大なる愛はなし
そんな言葉を記した聖典があった
本当だろうか?
人間は他者を自分として感ずることができるか、というのは人性上の最後の設問だ
そんな言葉を記した詩人がいた
本当だろうか?
人は人のために死ねるのだろうか
そのときその人を動かす衝動は
いかなるささやきに由来するのか




