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いま、泣こう

 子どもの頃に関わった人が亡くなった

 寂しく、それでいて遠かった

 いまはまったく

 関わりがないから


 泣くべきときに泣かなかったような後悔が

 枯葉のように降り積もって

 膝まで埋もれた頃に気づく

 いくら遠くなっても

 人が死んだときは

 泣くものではないだろうか

 泣くべきだから泣くのではなく

 その人が存在したということ

 その人が与えてくれたもの

 その人が喪われたという痛み

 すべてを自身に刻みつけるために

 こころが錆びついて軋むのを忌むがゆえに

 ただ、泣く

 涙は神の贈りものだという

 自分の信仰からも離れて


 エックハルトはたしか

 こんなことを言っていた

 子どもが死んだときに

 神が与えてくれた運命だからと笑って受け入れるような人間は

 間違っている

 哀しむべきことが起きたときは

 こころのままにただ哀しむことが

 神の望んだことなのだと


 死の運命を変えなかったくせに

 なぜ神などというものを尊重しなければならないのか

 そんな怒りと当惑と矛盾を感じながら

 その言葉は正しいような気もする


 いま、泣こう

 泣くべきときに泣かなかったから

 人が死んでも哀しめなかったから

 この痛みの由来がわからなかったから

 眼は乾ききって

 内面は凍てついても

 魂において泣こう

 自分が死んだ後であっても

 泣くのに遅すぎることはない

 それが何十年も前の哀しみであっても

 見つけられなかった痛みを見つけよう

 泣かない人間になりたくなかった

 そんな子どもの頃の夢に

 腹をくくって殉じよう

 自分にしか届かず

 自分しか知らない涙でも

 それが人間だと信じたいなら

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