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モザイクへの怖れ
テレビの画面に
何十年も昔の映像
過去を懐かしみ振り返る
回顧的な番組
映し出される観客席
そして
画面いっぱいを埋めつくすモザイク
人々の顔が
虚ろな靄に包まれて
人格を剥ぎ取られたような
均された影としての人間
靄の隣に
顔を晒した人間
その人間はいまもテレビに健在だから
顔を与えられている
他の人間は
顔を剥ぎ取られている
死人に顔なし
いや もちろん死んだわけではないだろうが(死んだ者もいるだろうが)
権利を侵害しないための配慮だろうが
とはいえ
こんな風にして
過去は塗りつぶされていく
どうか死ぬときに
ぼくに顔が残されていますように
誰でもない靄としてではなく
顔のある人間として死ねますように
ぼくがぼくのまま死ねますように