表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/914

夜の疑念

 ぼくはいま

 夜がふけても眠れないので

 常夜灯じょうやとうの下

 ひとり

 椅子にじっと座って

 過去に出会った人たちを疑っている

 果たして彼らは

 本当に実在したのか


 誰もが初めに出会うのは母親だ

 その人の内部で形成され

 やがて世界に吐き出される

 どの時点で出会ったというべきか

 胎内にいたときか

 顔と顔をあわせたときか

 愛されていると感じたときか

 その人の実在を疑うことは

 世界の実在を疑うことに直結する

 神の子でさえ母を持った

 だが疑うことに限度はない

 母なしに生まれる者もいる

 母親は本当に実在したのか


 その後に父親と出会う

 はらむことには関われても

 生まれるという一事には無力な父親

 内部からの接触を伴わない

 初めての他者

 ある意味では母親以上に不可解な

 無償で惜しみない愛情

 その人の実在を疑うことは

 他者の実在を疑うことに直結する

 神の子でさえ父を持った

 だが疑うことに限度はない

 父なしに生まれる者もいる

 父親は本当に実在したのか


 群れに放り込まれたのち友達と出会う

 自分と似た

 自分と違った

 遊びを媒介とした真の他人

 群れることなしには済まされない

 人間という種族への印象を

 決定的にする分岐点

 その人の実在を疑うことは

 人間の実在を疑うことに直結する

 神の子でさえ弟子を持った

 だが疑うことに限度はない

 友なしに生きる者もいる

 友達は本当に実在したのか


 渇きに耐えきれなくなったときに伴侶はんりょと出会う

 どこかに置き忘れてきた半身のようでもあり

 生まれてこのかた知らなかった光のようでもある

 魂と呼ばれるなにものかが

 磁力の性質も帯びるものだと

 惹かれあうことで初めて気づく

 その人の実在を疑うことは

 魂の実在を疑うことに直結する

 神の子でさえ愛を持った

 だが疑うことに限度はない

 ともなしに生きる者もいる

 伴侶は本当に実在したのか


 自分が実在するということが

 虚偽だとしても驚かないが

 あの人たちが実在しなかったという可能性は

 こころをかき乱し

 眠りを未明みめいまで遠のかせる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ