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厭わざるを得ない歌への口汚い罵り
歌は暴力
こころを塗りつぶす暴力
街頭に
盛り場に
お茶の間に
あらゆる場所に
ぼくの嫌いな歌が流れる
言葉のいちいちがこころを磨り減らす
音楽は
人間の生み出したもっとも優美な羽衣なのに
なぜ暴漢のように土足で押し入る
膿まみれの歌ばかりはびこるのか
好きなあの人が楽しげに口ずさむ
ぼくの大嫌いなくだらない歌
敬愛するあの人が聴くと涙ぐむ
ぼくの大嫌いなくだらない歌
信を捧げる神の創りたもうた
ぼくの大嫌いなくだらない歌
世にも残酷なる拷問のひとつは
耳にスピーカーを埋め込んで
蛇蝎のごとく嫌厭する歌だけを
自ら死を選ぶまで聴かせつづけることだ
愛する歌も
愛する声も
愛する音色も
愛する静寂も
もう彼を訪れることはない
死後の夢にすら追いかけてくる
ヤスリのように魂を削る音楽
そんな目に遭えば
誰だって世界に絶望してしまう
人は耳を塞いでいるのか
神は耳を腐らせてしまったのか
なぜこんなにも
小さな声を踏みつぶそうとする
許しがたい歌ばかりはびこるのか